トランプ大統領はカタール封鎖に終止符を打つ意向にある

EL PAISより引用

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が高齢のサルマン国王に代わって実質政権のかじ取り役を担っているが、サウジが昨年主導したカタール封鎖の成果に満足していないのか、今度はカタールを孤島にさせようというプロジェクトを計画を持ち出して来た。

カタールとの間に幅200メートル、水深20メートル、全長60キロメートルの運河をサウジ領土内で建設し、カタールとの国境には軍事基地と核燃料廃棄物の処理場にしようというプロジェクトである。その為の建設費用を6億800万ユーロ(790億円)と見積もっているという。

昨年6月、サウジにアラブ首長国連邦、エジプト、バーレーンなど7カ国はカタールに対し、イランとの関係を断つこと、アルジャジーラ放送局の閉鎖、トルコ軍基地の閉鎖、ヒズボラやハマスへの支援を中止といった13項目をカタールに突き付けて、これらの項目を果たせば封鎖を中断すると発表。サウジにとって、カタールはサウジの自治領といった感覚を持っており、にも拘らずカタールが時にサウジとは正反対の外交を展開することに我慢ならないでのある。サウジはカタールがバーレーンのようにサウジの忠実な国として振舞うことを要求している。

カタールを封鎖して孤立させた結果、逆にカタールはイランそしてトルクとの関係がより強化されるということを導くことになった。封鎖されて食料が不足していた時に最初に食料をカタールに空輸したのはイランであった。トルコも同様の対応をした。更に、トルコはカタールの軍事基地を強化させる意味で、昨年7月までに駐留する兵士の数を230名まで増やした。また、空路もイランの領空をカタール航空の為に開けた。

カタールとイランとの関係はカタールのノースフィールドガス田とイランの南パルスガス田が海底で繋がっており、双方が開発に協力している関係もあって両国を切り離すことはできないのである。また、トルコはロシアの戦闘機を撃墜させた後、ロシアからの天然ガスの輸入や投資が減少して湾岸諸国との関係も疎遠であった時に支援の手を差し伸べたのがカタールであった。

カタールは7代目ハマド首長が父親の6代目ハリファーから政権を1995年に剥奪して以来、小国であるが中東で一家言を持ち、それが国際外交で受け入れられるための手段を模索して行ったのであった。

その為の一貫として実行に移したのが米国を説得してアル・ウエイドに中東で最大規模の米軍の空軍基地を建設することであった。現在この基地から米空軍は中東は勿論、北アフリカ、中央アジア、南アジアの動きを監視し、空路そして空輸のコントロール、更に空爆もこの基地から戦闘機が離陸することになっている。B-52やF-16など100機以上が常に駐機し、3750メートルの滑走路もある。

この基地の建設は1990年代から開始され、107キロメートルに及ぶ光ファイバーケーブルを設置し、総工費はおよそ10億ドル(1080億円)で、それを全額カタールが負担したのである。それでもって米国を説得し、2002年から米軍が基地として利用する為の装備の設置などを始めたという経緯があった。

この基地をカタールは米国の人質として匿っているようなものである。現在、米国が中東での勢力を維持するにはこの基地が必ず必要となっている。だから、サウジがカタールを孤立化させようとしても、また米国にとって敵となる国や組織とカタールが接触を維持していても、この基地が米国にとって地政学的に重要であるが故に米国はカタールを見放すことができないのである。

しかも、カタールは米国にとって兵器購入の重要な顧客となっている。2013年から政権を担っている8代目タミーム首長が4月11日にホワイトハウスでトランプ大統領と会談した際にも、記者団を前に大統領はタミーム首長を指して、「私の右手にいる紳士はわが国からたくさんの機器を購入し、戦闘機やミサイルや他にも多くものを買い付けしてくれている」と述べたのであった。

それはタミーム首長がトランプ大統領と会談したその日に3億ドルのリモコン・ミサイルのカタールへの販売が国務省で承認された。更に、トランプ大統領は「カタールと周辺諸国との紛争に終止符を打つべく(我々は)検討中である」と発言し、「我々は中東の正にその(カタールが位置している)地域の団結が保たれるように検討中だ。その為に良いことが色々と起きている」と語った。

それに応えてタミーム首長は「湾岸協力会議(GCC)の危機の解決に大統領自ら加わっていることに感謝したい」と答えたのであった。更に「封鎖中も我々を支援してくれていることは非常に有益で、また米国民からの支援にも感謝したい」と付け加えた。

カタールを封鎖することは当初トランプ大統領からの支援があってサウジをリーダとするGCCの加盟国が加わって実行した。しかし、トランプ大統領はその後のカタールがイラン、トルコ、ロシアなどとの関係強化に動いていることを観るに及んで、封鎖対策に修正を余儀なくさせられたのである。その根底にあるのは、カタールに中東における米軍の最大規模の空軍基地を見放すことはできないということからである。この基地を円滑に機能させるにもカタールと良好な関係維持が必要であるとトランプ大統領は気づいたようである。