ゼロ円タクシーがグローバル経済をぶち壊す

酒井 直樹

昨日(5月13日)の産経新聞記事「資金調達「最速」の4分30秒で完了 日本初運賃無料“タクシー”運行会社」を見て衝撃を受けました。

ノモックの運賃無料“タクシー”サービスは、利用者が専用のアプリを使って配車を受け、車内のディスプレーに利用者の好みや行動パターンに合わせた店やファッション、商品などの情報が流される。走る広告塔として、運賃に当たる運行コストは広告のスポンサーが負担する仕組み。

産経ニュース 2018年5月13日

なるほど。この手があったかと。これは実に痛快で気分がいい。

グローバル経済は終焉し、ローカリズムを基底とするシェアリング経済が到来しています。人のインターネットいわゆるITの世界ではメルカリのようなP2Pビジネスが興隆しています。一方で、モノのインターネットいわゆるIoTの世界ではP2Pがなかなか浸透しません。自動車などのモノを介在した途端に商業化のハードルが上がります。私の追いかける電力も同じです。それはビジネスモデルや技術の壁というよりも、既得権益者の壁です。

米国で始まった、余った車と移動したい人をつないぐUberモデル。アジアでもヨーロッパでも浸透しています。私は先週シンガポールに行ったのですが、タクシー乗り場で待っていてもタクシーには乗れません。皆んなGrabなどのアプリでタクシーや一般車の隔てなく呼び出します。5G、IoTや自動運転化が公共交通のあり方をドラスティックに変えて行きます。

ところが日本ではUberは「白タク」扱い。タクシー業界の頑強な抵抗に会い日本での普及は困難です。それは、旅客輸送だけでなく貨物輸送にも当てはまります。

でも一番の壁は実は既得権益業界団体ではなくて、日本の消費者の第三次産業に対して完璧で絶対安全品質を要求するステレオタイプな固定観念なのかもしれません。

お客様は神様で絶対的に偉い存在。サービスの出し手は人格のない奴隷のような存在。絶対服従、完全なサービスを求める。これが過剰サービス・過剰労働を引き起こし、インプットレベルでは世界最高級のおもてなしなのに、アウトプットレベルでは労働生産性は世界最低水準と為にする理不尽な誹りを受ける矛盾を生み出します。

米国では店員とお客はフランクで対等な関係なのでUberのような「相乗り」を許容する度量の広さが社会の底流にあるのでしょう。

現場労働力が無尽蔵に供給された高度成長期や、世に失業者が溢れたデフレ経済の下ではそれでもよかったのでしょう。でも、人口減少と高齢化、限界集落化が進む今の日本では、全国でユニバーサルなサービスを展開する、「私はお客様」「私はサービス供給者」その取引を商業的な事業者が上前をはねるというモデルではもう立ち行かないのは自明でしょう。

グローバリズムを超えてシェア経済に移行しないと乗り切れないし、乗り切れるなら課題先進国として世界にロールモデルを示し、それこそが新たなインフラ輸出。クールジャパンの世界展開ができるのです。

消費者の固定観念と既得権益を打破する必要があります。技術的にも金融的にも可能なのは自明です。本当は安倍政権が掲げる第三の矢で規制緩和特区でやればいいのだけれど、モリカケ問題などくだらない議論で遅々として進まない。与党にしても野党にしてもやらないリスクの責任と代償を見える化して背負う気概も根性もある政治家がいない状況です。

こういう時に、このようなベンチャーが、ゼロ円タクシーで易々とブルーオーシャンを渡り、風穴を開けていく。これは実に痛快じゃないですか。ゼロ円なら誰も文句は言えないはずです。金を払わないなら客じゃないから、運転手と利用者は対等です。でもタクシーの法規制を逸脱していないのでタクシー業界は文句を言う筋合いはない。それでも彼らは言ってくるでしょうけど。

交通だけでなく、エネルギー・水道などの社会インフラ系や商業・外食などサービス業でも同じでしょう。ゼロ円電気にゼロ円食堂。

民間ベンチャーが別角度から既得権益に風穴を空けて、イノベーションのジレンマに拘泥される古い企業や古い業界を横目に華麗にブルーオーシャンを渡っていく。実にいい気持ちにさせてくれます。

ちなみに、自動車製造業自体にもにもベンチャーが進出しています。私の尊敬する鶴巻社長のFOMM社は敢えて日本を避けてタイで小型電気自動車を実証しています。写真は先月同社の新川崎のガレージで試乗させていただいたものです。鶴巻さんはトヨタ車体で一人乗りの電気自動車「COMS」を手がけ、満を持してFOMM社、ファースト・ワン・マイル・モビリティの略を設立、短距離移動の電気自動車を開発しています。

FOMM社は、昨年ヤマダ電機の出資を受け、日本での小型モビリティの販売を準備しています。今年三月には富士通とも提携、バッテリー管理やコネクテッドカーの準備も進めています。

課題先進国の日本を老若男女が柔らかい頭で乗り越えていきます。我が国の未来は実に明るいですね。