総裁候補も派閥会長も皆世襲の異様

2018年08月15日 06:00

首相官邸サイトより:編集部

江戸時代と同じ藩政政治か

9月の自民党総裁選は安倍首相と石破・元幹事長の一騎打ちで固りました。首相は祖父が岸信介、父が安倍慎太郎氏の政治家一族としてあまりに有名です。石破氏は父が自治大臣、鳥取県知事を務めた世襲議員です。野田氏が紅一点で出馬していたら、この場合も祖父が建設相でした。

次に国会議員票を束ねる支持派閥の会長はどうか。これも全員が世襲議員で、細田氏(94人)の父は運輸相、麻生氏(59人)は祖父が吉田首相、岸田氏(48人)は祖父も父も衆議院議員、二階氏は父が県会議員、石原氏(12人)は父が慎太郎氏。7派閥中5派閥の会長は父や祖父が全て政治家です。

対抗馬の石破氏(20人)はどうかというと、父は自治相、鳥取県知事でした。葬儀委員長を依頼した田中角栄氏に式後、お礼の挨拶に行くと、「君が衆議院にでるのだ」といわれ、それに従いました。安倍か石破かで分裂支持となる竹下氏(55人)は兄が首相でした。世襲でなければ議員にあらず。

とにかく異様な風景です。総裁候補は政治一家ないし世襲議員、総裁選で投票する議員を抑えている派閥の会長も全員、世襲というのは異常な世界です。しかも、政治ジャーナリズムはそのことをほとんど取り上げません。世襲で当選を重ねてきた議員と政治記者はもたれあいの関係にあります。せっかく人脈を築いてきたのに、突然、新顔に代わってしまったら、これまでの努力が消し飛びますから。

米欧と比べ日本は世襲が多い

衆院小選挙区から当選した世襲議員の比率は33%で、米英の5%に比べ、断然多い。「決まった家から代々、議員(殿様)がでるなら江戸時代の藩と同じ。自民党がいう開かれた国民政党というのは、事実に反する」(日経、7月22日)という批判が聞かれます。なるほど江戸時代の藩に似る。世襲が多いとされる医師でも、世襲比率は2割くらいでしょうか。

小選挙区のようなブロック制ほど、隅々まで現職の影響力が浸透し、一度、地盤を抑えたら、次から次へと世襲になりがちです。当選回数を重ねやすいので、早く閣僚になり、総裁の芽も出てくる。閣僚だけみると、4割が世襲というのは、地盤が藩みたいなものだからでしょう。

「世襲でも有能な人材なら構わない」との反論があります。安倍氏の対抗馬となる石破氏は、「勉強家であり、安全保障政策では有数の論客」とされます。小泉進次郎氏は、総理候補の人気度調査では、自民党内では安倍氏と肩を並べ、無党派層を含む調査では安倍氏をしのぐ。有能なのでしょう。

「だから世襲でも政治人材は生まれている」という論者もおります。どうなのでしょうか。人気はあっても、閣僚経験もなく、外交、財政、金融、安全保障などの重要分野で、経験が極めてとぼしい若い人物が首相なったら、トランプや習近平氏のようなしたたかな政治家に翻弄されます。いくらなんでも進次郎氏が今、首相になるようでは日本は終わりです。

人材枯渇が生む進次郎人気

私は世襲政治が自民党を支配し、新しい人材が育ちにくくなっていると、思います。進次郎氏人気が高いのは、他に人材がいないことの証明だと、逆に考えますね。進次郎氏は当選4回、37歳、重要ポストの経験がありません。安倍、石破氏から小泉氏まで飛ばないと、その間に勝てる人材がいない。

「世襲を禁止すると、人気と見てくれだけはいいチルドレン議員が増えてしまう」という批判があります。「性的少数者(LGBT)は生産性がない」との発言で、話題をまいた杉田水脈氏(衆院二期、比例)は、未熟なチルドレンだから、こんな表現しか浮かばなかったのでしょう。

物議をかもしやすい発言だったので、テレビやネットで騒ぎが拡大したのです。杉田氏を肯定するほうも、否定するほうも、無視しておいたほうがいい。騒ぐほうも未熟です。他の発言だったなら、「そんな議員がいましたか」で、取り上げもされなかったでしょう。

世襲の強みは、地盤(後援会組織)、看板(知名度)、かばん(資金力)などにあるとされます。新たに政界に参入しようとする新人には、厚い壁となります。ゼロからスタートする人は重いハンディキャップを背負います。結局、政治人材が政治を家業としている家柄から供給されやすいのです。

「有権者が選挙で投票して議員を決めるのだから、新人にも機会は均等に開かれている」との反論はどうでしょうか。「機会の平等」とともに、「結果の平等」も比べる必要があります。世襲でも新人でも選挙に出られるという点では「機会の均等」をはたしています。選挙の結果は世襲議員に有利に働いており、「結果の平等」という点からすると、政界には大きな参入障壁があるのです。

政治的人材が少なくなっているから、安倍氏に有力な対抗馬がおらず、中途半端な人材は「勝ち馬」に乗るとをまず優先し、次々に安倍支持に流れるということでしょうか。こんなことを続けていたら、政治人材は乏しくなります。

世襲制限、参入障壁の除去が必要です。さらに小選挙区の弊害をなくすために、将来は中選挙区を復活し、多様人材が政界に入りやすくすべきです。

スポーツ選手、芸能人などにも、親譲りというケースはあります。効き目があるのは最初だけで、これらの世界は競争が厳しく、「親はホームラン王、子もホームラン王」というのは、まず絶無でしょう。「親は社長、子も社長」は創業者型の企業には見られます。特に中小、零細企業では社長の人材が得られず、子に継がせる。息子に継がせても、市場で勝てるかで、能力が判定されます。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年8月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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