抗がん剤は役に立っている!+日本で見捨てられたがん患者が中国に向かう日

2018年08月18日 06:00

フライデーに3号連続で取り上げられた。内容を見ていない友人からは、どんなスキャンダルを取り上げられたのかと心配するメールが届いた。表紙や本文のキャプションの誇大さには恥ずかしいものがあったが、週刊誌だから仕方がない側面もあると自分を納得させていた。

これまで取り組んで来たこと、これから取り組もうとしていることを知ってもらうには、まず、読んでもらうことから、第1歩が始まると思っていた。週刊誌は「売れてなんぼ」の世界だ。しかし、「抗がん剤が効かない」と書かれると、中村祐輔の「近藤誠」化が始まったと誤解されかねない。そして、患者さんへの悪影響も心配だ。これには頭を抱えるしかない。

白血病は、私が医者になった頃は「死の病」だったが、抗がん剤の進歩と骨髄移植によって、今や「薬で治せる」病気の代表となっている。精巣にできるがんも抗がん剤で治る病気の一つだ。抗がん剤の恩恵を受ける患者さんは少なくないので、これを真っ向から否定するのは間違いだ。

雑誌の表ページの標題だけを見て、抗がん剤が効かないかのような印象を与えて、抗がん剤を中止する患者さんが出てこないように願っている。私のコメント(表紙の見出しは、私の真意とはかけ離れているが)の影響で、謝った選択をして、不利益を受けるような事態が起こることだけは回避して欲しい。

といっても、抗がん剤(分子標的治療薬はここに含めない)の課題は尽きない。抗がん剤で3か月間苦しんだ末に、2ヶ月命が延びることが、正しいのかどうか、私は疑問だ。効果のあった人はいいが、効果もなく、嘔吐や全身倦怠などの副作用で苦しんだだけの患者さんにとっては、不幸でしかない。

基礎医学は進み、技術も進み、その気になりさえすれば、ある程度の確率で、がんの個性に応じた抗がん剤の使い分けなどできると思うが、気持ちだけではデータは集まらないのも現実だ。そして、検査費用が嵩むと、医療費がさらに増大すれば、医療保険制度が破綻すると言う人が少なくない。しかし、効かない人に意味のない薬剤を投与し、その間にがんが増悪し、そして、患者さんが副作用で苦しみ、副作用の治療で医療費を使う、こんな無駄を減らせば、患者さんに取っても、医療経済学的にもプラスになると思う。

そして、抗がん剤療法が標準療法と定義されたら、それを拒否した途端に「がん難民になる」ことも大きな問題である。患者の自己決定権を尊重するなら、抗がん剤を拒否しても、治験などにエントリーできればいいのだが、大半の比較試験では、治験を受ける患者さんのエントリー基準(簡単に言うと、新しい試験薬を受けることのできる資格)として「標準療法が効かなかったか、副作用で継続できない場合」と但し書きがある。

したがって、大きな病院では、抗がん剤を提示されたとしても、患者や家族にとっては、その病院で治療を受けるのか、その病院から離れて別の病院を探すのかを迫っているに等しいことになる。患者さんや家族は「自己決定権」は名ばかりで、有名病院での治療を継続する=標準的な抗がん剤治療を受けることにならざるを得ないのである。

標準療法後に限って、免疫チェックポイント抗体が保険適用される場合、患者さんは効果がなかった・なくなった(がんが大きくなるか、新しい部位にがんが生ずる)という結果を目の当たりにしなければ、抗体医薬品は受けられない。耐えられないような副作用があれば抗がん剤はすぐに終わるが、治療を継続できないような副作用はかなり重篤だ。

体力が消耗して歩けなくなるような状況でも、複数の抗がん剤療法が標準療法として定義されていると、第2・第3の抗がん剤治療で体力をさらに消耗することを強いられるのだ。免疫機能を徹底的に弱らせた後に、免疫療法など、お笑いの世界にしか見えない。保険適用されている薬剤がない進行がん患者さんには、本人が元気だと思っていても、すぐに緩和ケアが勧められる。

最近、幼児の白血病患者さんのお父様からCAR-T細胞療法を受けさせたいが、どこかやってくれるところがないか、教えて欲しいと相談を受けた。B細胞系の血液がんに対する効果は驚異的だから、両親の気持ちとしては当然だ。このブログでも触れたが、中国ではCAT-T細胞療法を開発している会社が20社以上もあるようだ。子供に対する治験も始まっている。それでも、中国を見下している医師が多いようだが、効果がありそうなものには、膨大な資金が投下されるので、一気に進むのかもしれない。

日本で見捨てられた患者さんが、米国でなく、中国に向かう日が意外に早く来るかもしれない。これでいいのか、日本のがん医療は!


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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