世論調査が示すドイツ政界の「変動」

独公営放送ARDが10月16、17日の両日、1040人の有権者を対象に実施した「政党支持トレンド」調査結果を先ず紹介する。

①「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)・・25%
②「同盟90/緑の党」・・19%
③「ドイツのための選択肢」(AfD)・・16%
④社会民主党(SPD)・・14%
⑤自由民主党(FDP)・・11%

バイエルン州議会選で第2党に大飛躍したバイエルン州「同盟90/緑の党」代表(「同盟90/緑の党」公式サイトから)

世論調査だから誤差もあるが、ドイツ世論の潮流を理解するうえで助けとはなるだろう。それでは上記の世論調査結果から何が見えてくるだろうか。

①第4次メルケル大連立政権の支持率が50%どころか、ついに40%台を割ってしまった。
②野党「同盟90/緑の党」が躍進してきた。
③極右政党AfDが着実に支持率を伸ばしドイツ政界で定着してきた。
④SPDの低迷傾向はもはや止まらない

順序に従って少し考えていく。

①第4次メルケル連立政権が発足してまだ半年しか経過していないが、CDU/CSUとSPDの大連立政権の支持率は39%に過ぎない。有権者の61%は他の政党を支持している。政治の恩師コール氏の16年間という長期政権記録を目指すメルケル首相は今年で政権13年目に入っているが、ここにきて息切れ状況が目立ちだした。メディアでは久しくポスト・メルケルが大きなテーマだ。“ドイツ国民の母”とまで呼ばれてきたメルケル首相にはもはや政治的勢いがない。

先のバイエルン州議会選挙でもCDUの友党、CSUは支持率を大きく失った。CSUはAfDを意識し、選挙戦では難民・移民政策の厳格な監視を主張してきたが、得票率は40%を割った。

今月28日に実施されるヘッセン州議会選の結果次第では、メルケル首相(CDU党首)の辞任要求が高まることは必至。なお、CDUは12月初めにハンブルクで党大会を開催予定だ(「メルケル首相は指導力回復できるか」2018年10月4日参考)。

②「同盟90/緑の党」の躍進は大連立政権の低迷に大きく恩恵を受けている。難民・移民政策ではメルケル首相の歓迎政策の陰に隠れてその存在感を失ってきたが、ここにきて有権者の生活に密着する家賃の高騰防止、教育の充実などをテーマに国民に訴えた。CDUとSPDが失った中道右派と左派の支持層を吸収することに成功したわけだ。メディアの一部では「緑の党のCDU化」と分析する論評も聞かれる。

③2013年に結成した極右政党AfDはバイエルン州議会選でも2桁の得票率を獲得。今月28日のヘッセン州議会選で議席を獲得すれば、ドイツ16州の全州で議席を有する政党となる。AfDは2015年の難民・移民の殺到に対し、反難民・外国人排斥で有権者の支持を獲得してきた。ドイツ・ファーストは欧州の極右傾向の流れに乗って勢いをつけてきたわけだ。ドイツ連邦議会選では92議席を獲得し、自由民主党、左翼党、「同盟90/緑の党」を抜いて野党第1党に大躍進したばかりだ。難民・移民のドイツ流入はストップされ、ドイツ国民も一安心したところだが、AfDの躍進は続いている。AfDはドイツ政界の単なる台風の目としての存在だけではなく、政権奪回を目指す政党となってきた。

④SPDの現状はもはや目を覆うばかりだ。連邦選挙を含む選挙と呼ばれる選挙の度に得票率を落としてきた。欧州議会議長を5年務めてきた希望の星、シュルツ氏が党首に選出されたが、SPDの低迷傾向にストップをかけるどころか更に悪化させて1年余りで党首ポストをナーレス現党首に譲ってしまった。SPD初の女性党首に就任したが、ナーレス党首は党の低迷を止めることはできない状況だ。SPDは今月14日のバイエル州議会選では第5党となり、AfDの後塵を拝したばかりだ。連邦議会選後、SPDは野党に下野する予定だったが、結局、メルケル首相の誘いに乗って第4次メルケル政権のジュニア政党の地位に甘んじることになった。

参考までに、SPDの姉妹政党、隣国オーストリアの社会民主党(SPO)にも同じ傾向が見られる。ファイマン首相(当時)が2016年5月辞任し、実業家のケルン氏が新党首、首相に就任したが、翌年10月の総選挙で現クルツ首相が率いる国民党に敗北し、政権を失った。野党に下野したケルン党首は今年9月、突然、政界から引退を宣言し、レンディワーグナー女史(前政権で保健相歴任)が女性初のSPD党首に選出された。SPDとSPOは国こそ違うが、同じプロセスを歩んでいるわけだ。

100万人を超える難民・移民が殺到した2015年以降、CDU・CSUとSPDの2大政党はその指導力を失ってきた。マーセン長官の人事処遇問題でのドタバタ劇は、今年3月14日に発足したばかりの第4次メルケル大連立政権が既にレームダック状況に陥ってきたことを端的に示した(「メルケル大連立政権の“ドタバタ劇”」2018年9月23日参考)。

AfDのガウラント党首は14日、独公営放送ARDとのインタビューの中で、「CDU/CSUとSPDの現メルケル大連立政権は国民の過半数の支持すら得ていない。迅速に解散し、国民にその真意を問うべきだ」と述べ、早期解散、総選挙の実施を要求したばかりだ。

それに対し、CDU/CSUとSPDは議会解散、早期総選挙に打って出る考えはない。当然だろう。先の世論調査の結果を見ても分かるように、いま選挙をすれば現連立政党は得票率を更に失う可能性が濃厚だからだ。

世論の流れに改善がみられ、支持の回復を感じるまでメルケル現大連立政権はメディアから批判を受けながらもジーッと我慢して現政権を維持し、春の訪れを待つ以外に他の選択肢がないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。