「置いておいて」は“正解or間違い”さあどっち?

尾藤 克之

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「置いておいて」という表現がある。間違ってはいないが美しくない。実は、「置いておいて」は同じ言葉が連続するので、誤用ではないかと考える人が少なくない。しかし、間違ってはいない。

<例>
「部長の机の上に置いておいてください」

これは、現状の「置いておく」の連用形になる。「置いた状態で、そのままにする」という意味になるので「~て」+「おく」ですから正解である。ただし、同音反復の形式になるので見た目が美しいとはいえない。どうしても、「置いておいて」が「置いて置いて」の動詞の重複につながるので、稚拙な表現に見えてしまうのである。

また、「置く」の動詞そのものに、「置いておく」の意味がある。そこに「~ておく」の補助動詞を置くので、少々しつこい感じがする。間違いではないものの、「置いといて」「置いておく」「置いとく」などに、言い回したほうがスマートに見える。

日本の古典和歌には反復表現が多用されているものがある。「内大臣藤原卿, 采女安見児を娶る時に作る歌一首」(『万葉集』巻第二、相聞95番)には、「安見児得有」(ヤスミコエタリ)を反復している箇所がある。藤原鎌足が、天智天皇の采女・安見児を賜ったときの歌になるが、手放しの喜びが、「ヤスミコエタリ」のくり返しに表れている。

古典和歌の時代から、日本では反復表現がつかわれていた。つかう局面を間違えると稚拙な印象が残ってしまう。「置いておいて」のように、同じ言葉が連続する場合は気をつけたほうがいいだろう。

さて、冒頭で例にあげた「部長の机の上に置いておいてください」。これを書き換えたい場合は次のような表現もある。

「部長の机の上に置いておきます。」
「部長の机の上に置いて。そのままでいいので(いいです)。」

ただし「置いて置いて」というように、漢字を連続させるのは好ましくない。動詞にくっつく補助動詞のつかい方は気をつけなければいけない。

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尾藤克之
コラムニスト