介護事業のノウハウを海外に展開しよう

山田 肇

高齢社会に関する国際標準化会議が中国・杭州で開催された。杭州は北京とつなぐ総延長2500kmの京杭大運河(世界遺産)の終点で、Alibabaが本社を置く大都市である。

市の人口はおよそ1000万人で後背地を加えると2000万人を超す。杭州市を構成する10区の一つ拱墅区で高齢者施設3か所を見学した。高齢者が集い楽しむ目的の施設、デイケア中心の施設の二つは日本の同種施設に類似していたが、老人ホームに相当する施設には大きな違和感を覚えた。

団体で訪問した会議参加者を大勢の高齢者が拍手で出迎えてくれた。施設内には至るところに政権幹部の訪問写真が飾られているのだが、われわれも同様に扱われたようだ。強力な共産党の下で生き続け、今では訪問者を拍手で迎える高齢者の姿に衝撃を受けた。

認知症が進むと特定のフロアで居住することになる。居室にも階段にもエレベータにも鍵がかかっており、高齢者は職員の目の届く範囲に集められ、安全に暮らしているとの説明を受けたが、そこはまるで緩やかな収容所のようだった。

拱墅区には以前300床程度しか高齢者施設がなかった。高齢化率がほぼ25%に達し高齢者施設の不足は明らかだったので、この10年間で急激に施設を増やしてきた。見学した3か所もモデル施設と位置付けられているという。介護担当者も圧倒的に不足しているので、無職者を集めて訓練したそうだ。

施設の圧倒的不足に対応するという事情があったにせよ、同区の介護事業には「付け焼刃」感がありありだ。高齢化で先行したわが国の介護事業の経験とノウハウを伝え、気の毒に扱われている高齢者を救うことは、大きなビジネスチャンスである