従来の延長線上に留まった新防衛大綱(特別寄稿)

2019年01月02日 06:02

咋2018年12月18日、政府は新たな「防衛計画の大綱」(大綱)と今後5年間の「中期防衛力整備計画」(中期防)を(国家安全保障会議決定及び)閣議決定した。そもそも「防衛大綱に定める防衛力のあり方は、おおむね10年程度の期間を念頭に置いたものである」(防衛白書)。前大綱の閣議決定はちょうど5年前の2013年(平成25年)12月17日。

Wikipedia:編集部

前回から、まだ5年しか経っていないのに、政府は大綱を見直した。新大綱のなかで「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(前大綱)を策定した際に想定したものよりも、格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増している」と釈明した。

言い換えれば、前大綱の「想定」が甘かったということになろう。例のごとく「想定外」との言い訳だ。どうせ、また5年後に見直しを迫られるに違いない。まさに泥縄式の対応ではないか。

本来まず、そこから批判されるべきだが、今回もマスコミ世論は「空母いずも」に焦点を絞り、「攻撃型空母の保有は許されない」と的外れの批判に終始している。新大綱はこう明記した。

「前大綱に基づく統合機動防衛力の方向性を深化させつつ、宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする、真に実効的な防衛力として、多次元統合防衛力を構築していく」

前大綱の「統合機動防衛力」を、新大綱で「多次元統合防衛力」にバージョンアップさせた。そう政府は言いたいのだろうが、言葉遊びの域を出ていない。遡れば、民主党政権下で策定された平成22年(2010年)の前々大綱では「動的防衛力」、昭和51年(1976年)に策定された最初の大綱では「基盤的防衛力」だった。ネーミングこそ違え(陸上自衛隊の戦車数が大幅に削減されてきたことなどを除けば)陸海空自衛隊の基本的な編成や装備は大きく変わっていない。これまでも、そして今回も。

だが、マスコミの認識は違う。たとえば朝日新聞は閣議決定翌朝の紙面で「安保法後の防衛大綱 軍事への傾斜、一線越えた」と題した社説を掲載。こう書いた。

今回は一線を越えたと言わざるをえない。「空母」の導入だ。改修後のいずもは戦闘機を常時艦載しないので、「空母」に当たらないと説明するが、詭弁というほかない。(略)長距離巡航ミサイルの保有も記された。(略)敵基地攻撃能力の保有につながる。(略)その能力をみれば、従来の「盾」から「盾も、矛も」への転換は明らかだ。

全マスコミが「空母」と報じているが、妥当でない。NHKに至っては、こう誤報した。

サイバー防衛隊の拡充で「サイバー反撃能力」を保持することが明記されました。

正しくは「有事において、我が国への攻撃に際して当該攻撃に用いられる相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力等、サイバー防衛能力の抜本的強化を図る」と明記された。それを「サイバー反撃能力」と報じるのは、著しく公共放送の器を欠く。「空母」についても同様である。新大綱はこう明記した。

「柔軟な運用が可能な短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機を含む戦闘機体系の構築等により、特に、広大な空域を有する一方で飛行場が少ない我が国太平洋側を始め、空における対処能力を強化する。その際、戦闘機の離発着が可能な飛行場が限られる中、自衛隊員の安全を確保しつつ、戦闘機の運用の柔軟性を更に向上させるため、必要な場合には現有の艦艇からのSTOVL機の運用を可能とするよう、必要な措置を講ずる」

垂直着陸中の米軍のF-35B(Wikipedia:編集部)

搭載するSTOVL機として米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Bが想定されている。政府は昨年12月18日「F-35A の取得数の変更について」を国家安全保障会議で決定。「新たな取得数のうち、42 機については、短距離離陸・垂直着陸機能を有する戦闘機の整備に替え得るものとする」と閣議了解した。

そして中期防の別表に「戦闘機(F-35A)の機数 45 機のうち、18 機については、短距離離陸・垂直着陸機能を有する戦闘機を整備するものとする」と注記。全機Aタイプを取得するはずが、蓋を開けてみれば、Bタイプに替わっていたという仕掛けである。納税者に対する詐欺行為に近い。

「現有の艦艇」(いずも)からのSTOVL機の運用を可能とするよう」、必要な改修も中期防に明記した。咋年2月、アゴラに「甲板を改修しなければ、戦闘機は搭載できない」と寄稿したが、その問題は解消される。

今年、実写映画が公開される人気コミック『空母いぶき』(かわぐちかいじ著、惠谷治原案協力・小学館)が描いた架空の近未来が現実となる。右作品に「協力」している関係者として歓迎すべき動きなのかもしれないが、複雑な思いを禁じ得ない。「いずも」型護衛艦の主要な任務は元々、対潜水艦作戦。元から「対潜ヘリ空母」と呼んでよい。その「対潜ヘリ空母」から(対潜)哨戒機を降ろし、かわりにF35B戦闘機を搭載すれば、敵潜水艦にとって格好の餌食となってしまう。

マスコミは「F35Bを10機程度搭載できる」(NHK)というが、それは甲板上に8機、艦内の格納庫に2機、合計10機という単純計算に過ぎない。本当に10機搭載すれば、哨戒機などを搭載するスペースがなくなってしまう。「ヘリ搭載型護衛艦いずも」の哨戒能力を犠牲にして無理やり「空母いずも」にすれば、本末転倒となりかねない。昨年、アゴラでそう批判した。その後、著名な元海将を含む海上自衛隊関係者からも疑問の声が上がっているが(詳しくは「Voice」2月号拙稿)、政府はこうした疑問に答えていない。

それどころか、「いぶき」を「多用途運用護衛艦」と言い張る。もし「空母」と認めれば、憲法上保有が禁じられた「攻撃型空母」に当たる可能性を生む。それは避けたい。そういう趣旨であろう。しかも政府は「時々の任務に応じて搭載する」から(つまり常に搭載するわけではないから)「攻撃型空母」には当たらないと釈明する。なんとも苦しい。

総理も防衛大臣もご存知ないようだが、航行中の護衛艦への着艦、なかでも夜間や悪天候下の着艦は一朝一夕にはできない。リスクが高く、長期にわたる十分な訓練が必要である。米海軍も高い犠牲を払ってきた。早くも2023年には「空母いずも」を運用するらしいが、一体いつ、どこで発着艦訓練を積むのか。「時々」訓練する程度では搭乗員らの安全をとうてい確保できない。

政府もマスコミもF35を「戦闘機」と呼ぶが、国際的には「Joint Strike Fighter」(JSF)と呼ばれる。日本語に訳せば「統合打撃戦闘機」または「統合攻撃戦闘機」。「攻撃戦闘機を搭載するが、攻撃型空母ではない」という説明は一般国民に理解し難い。

そもそも「多用途運用護衛艦」という呼称からして腰が引けている。なぜ正直に「ヘリ空母」ないし「対潜型空母」(CVS)と呼んでこなかったのか。この期に及んでなお「多用途運用護衛艦」と呼ぶのは、主権者に対して不誠実ではないのか。

「わが国を取り巻く厳しい現実に真正面から向き合い、従来の延長線上ではなく国民を守るために真に必要な防衛力のあるべき姿を考える必要性がある」

安倍総理の答弁を踏まえ、最新の防衛白書にもこう明記された。

ならば、はっきり政府見解を修正し、それこそ「真に必要な防衛力のあるべき姿」として国民に説明すべきではないのか。ヘリ空母やイージス駆逐艦を「護衛艦」と言い張り、統合打撃戦闘機を搭載させても「多用途運用護衛艦」と呼ぶ。これこそ「従来の延長線上」そのものではないか。こんな姿勢で国民の理解が得られると思ったら大間違いである。

平成が終わり、新たな年号を迎える。今年こそ「従来の延長線上」にない、新たな憲法解釈を打ち出してほしい。あえて朝日社説を借りよう。従来の「盾」から「盾も、矛も」への転換が必要である。

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潮 匡人
文藝春秋
2017-05-19
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潮 匡人
評論家、航空自衛隊OB、アゴラ研究所フェロー

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