頑固な英国人気質が向かうところ

岡本 裕明

英国のメイ首相ほど頑固一徹な政治家も少ないかもしれません。与党内からも厳しい批判にされされ、国民からも冷たい視線を浴びても、全くそのスタイルと政治姿勢を変える様子は見られません。昨日の英国議会におけるEU離脱案の採決は否決が230票も上回りメイ首相にとって歴史的敗退、そして反メイ派にとっては歴史的勝利なりました。

Wikipedia:編集部

メイ首相の不屈の精神はある意味、立派だと思いますが、ここまで否定された以上、自身のやり方に間違いがあったことは素直に認めざるを得ないでしょう。私はひと月ほど前、メイ首相は国民投票のやり直しをし、国民がやはり、離脱を希望するならメイ首相の進めるEUとの離脱合意案を説得させることもできるが、国民に再考の余地を与え、離脱を望まないなら離脱しない、という選択肢も国民の代表者として検討した方がいいのではないか、という趣旨のことを書かせていただきました。

今頃、英国議会では次の一手について様々な憶測が飛び交っているでしょう。あらゆる選択肢が再度、テーブルに並べることができるからです。実際、野党、労働党は内閣不信任案を提出します。しかし、これは労働党とコービン党首のそもそもの目的が政権交代であって目先に迫るEUからの離脱について明白なビジョンとその実行案を持ち合わせているわけはありません。多分ですが、この内閣不信任案は通過しないでしょう。

となれば21日に示すメイ政権の「新案」に注目が集まるのですが、何が出てきても決定打はない気がします。最大の理由は与党内で本案件について完全に分裂していることにあります。強行離脱派から離脱反対派まで議員同士が激しくそして、ここでも頑固に自身の考えをぶつけあう中で英国議会を一つの方向にまとめるのは仮にどんな優秀な政治家でもってしてももう、手遅れのような気すらします。

今更、と言われるかもしれませんが、メイ首相にもともと手腕がなかったと言わざるを得ません。そしてそんなメイ首相を選んでしまったいきさつをもう少しさかのぼれば離脱強硬派のボリス ジョンソン氏が国民投票の時点でその期待を裏切って首相の座につかなかったことがきっかけだった気がします。メイ首相は離脱派ではなかったのに「国民の意思を実現させるために」という本心に仮面を着けざるを得なかったところにそもそも論があったのでしょう。

一方のEU側も苦悩となります。仮に合意なき離脱になった場合、英国とEUを結ぶ貨物は滞り、必要な物資が届かず、それを管理するオフィサーも足らず、仕組みも間に合わない、という悲惨な結果を生むことが目に見えています。混迷を極める、と断言してよいと思います。

個人的には離脱を止める気がしてきました。EU離脱は英国には乗り越えられないあまりにも難しい課題だった気がします。

ではなぜ、あの時、国民は離脱を選んだのか、それは直面する移民問題よりもメディアが作り出した世論が大きかったのだろうと思います。英国社会が表向きは平等であっても一種の階級社会の名残がある中、タブロイド紙とパブでの議論が生み出した新たな英国病だということではなかったでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年1月17日の記事より転載させていただきました。