日本企業のROE低下はバブル崩壊前から始まっていた --- 水口 進一

寄稿

最近、日本企業のROEの低さに注目が集まるようになりました。しかし、いつから低下したのかはほとんど指摘されていません。実は日本企業のROEが低下したのは日本の景気が良かったバブル崩壊前の1970年代からです。

長期の日本企業のROEの推移は財務総合研究所キーワードで見る法人企業統計を参考にしていただきたいのですが、1970年代前半は20%を超える高いレベルだったのですがその後1980年代、1990年代と低下しました。そして金融危機が起きた1998年にほとんどゼロになってから底打ちするのですが、その後も10%に届かず低いレベルで低迷しています。

1970年代、80年代は日本経済、日本的経営が優れていた時代だと思われていますが、実際は日本企業のROEは低下していました。そしてこの時代はROEだけでなく売上高利益率、売上高営業利益率、ROA等どの経営指標で見ても日本企業の収益性は低下しています。日本人はバブル期に日本の経営が優れていたと信じていますが、収益性の低下していた国の経営が本当に優れていたのか検証しなおす必要があるのではないかと思います。

また、現在はデフレが低成長の原因で、デフレで物価が下がり、利益が下がり、賃金が下がって需要不足になり、また物価が下がるデフレスパイラルが起きていると言う人がいますが、これも日本企業の収益性を見る限り間違いです。

日本企業の収益性が下がり始めたのは1970年代のインフレ期で、デフレが始まった90年代の後半から日本企業のROEはゆるやかに上昇しています。デフレで物価が下がっても利益率は若干上昇しており、デフレスパイラルという現象は起こっていません。

そしてデフレが日本経済の低成長の原因だとするのであればデフレの前から起こっている日本企業の収益性の低下は日本経済低迷の原因ではないことになりますが、GDPは日本企業の生んだ付加価値の合計なのですから企業の収益性の低下と日本経済の低迷が無関係なはずがありません。

デフレが日本経済低迷の原因だとするのであれば、1970年代のインフレ期からはじまる日本企業の収益性の低下をどう説明するのでしょうか。

日本企業のROEの長期推移をみると、日本的経営が優れていると思われていた1970年代、1980年代に低下が始まり、デフレが始まった1990年代後半から若干改善しています。日本の経営を論じるにおいて、この1970年代からの収益性の低下はほとんど触れられることはなく、マクロ経済の議論ではケインズ経済学を前提に企業収益はほとんど無視されてきました。

しかし、経営・経済において企業の収益性を無視してよいはずはありません。現在の日本経済、経営の低迷を脱するヒントは日本企業の長期の収益性・資本効率の観点から日本の経済・経営を検証し直すことにあるのではないでしょうか。

水口 進一 京都大学経済学研究科卒の個人投資家
経営指標や資本効率を無視して経営や経済の議論をしている日本の現状に一石を投じたいと思って記事を投稿しています。