やむなく飛び降りたみずほフィナンシャルの賭け

岡本 裕明

みずほフィナンシャルグループが3月決算で純利益予想を当初見込みの5700億円から800億円に下方修正しました。その差4900億円です。突然の修正にアナリストもびっくりでしょう。ただ、別に銀行業務に何か問題があったわけではなく、償却というテクニカルな部分の処理を前倒しで進めることによるもので銀行側は前向きの処理と考えています。さて、市場はどう捉えるか、です。

みずほFG公式FBより:編集部

メガバンクの一角のみずほですが、合併当初から一番冴えないメガバンクであったことも事実です。みずほは日本興業銀行、第一勧銀、富士銀行が一緒になった銀行でありますが、その体質があまりにも違いすぎ、プライドの塊で社内では派閥争いが延々と続き、表向き、それを止めようとすれば子会社、関連会社でその派閥を引き継ぐという芝居を演じてきました。

それが業務効率に影響したのか、株式市場では配当金の率はよいものの株価がさえず、と言われたのは意味が逆で株価が収益に対して低すぎるから配当率が高く見える、ともいえたのでしょう。

さて、今回損失処理が発表されたのは6800億円分。うち、次期勘定系システムの処理が4600億円、店舗統廃合分が400億円、市場部門損失(主に外債)が1800億円となっています。6800億円の処理と上述の4900億円の下方修正分は計算が合わないと言われそうですが、所有株の売却益のようなプラス処理を作り出して帳尻を合わせているということかと思います。

次期勘定システムはみずほだけが遅れていた新システム移行を今進めているさなかにあり、今後発生するはずの償却費の多くを前倒し処理することで来年以降、しばらくは(5-10年とされます。)この償却の呪縛からは逃れられます。この点はプラスの処理に見えます。

店舗統廃合費用の処理は三菱UFJが430億円、三井住友も250億円分の処理を前期に済ませており、みずほだけがまだ遅れていただけのことです。よってこれは評価に値することではありません。当初予定より4900億円分悪化したのは4600億円分の勘定系システム前倒し処理のサプライズ分になるということかと思います。

ではなぜ、今そんなことをするのか、ですが、みずほ側は17年11月発表の中期経営計画の最終年になる今回、一旦処理し、次期経営計画ではフレッシュスタートを切る、という目論見のようです。

ただ、私は必ずしもこの言葉通りに受け止めていません。通常であれば5-10年かけて処理すべきまだ完了していないシステム分を無理に処理しなくてはいけない不安が同行経営陣にはあるように感じます。それがみずほ個別の問題なのか、銀行を取り巻く全体の問題かはわかりません。が、とにかく、身軽にし、何かあった時に第二、第三の処理を思い切ってできる体力温存型処理と見られる可能性はあります。

今回の処理について専門家の見方もはっきりと分かれています。私は唐突感に異様さを感じます。

銀行業を取り巻く環境は厳しいというより2-30年前と常識感が完全に変わったといってよいかと思います。「人様のお金を預かる銀行だからお金を盗もうとしない水準の給与を支給する」というのが昭和の銀行経営でした。社内恋愛も結婚前提ではないとだめだし、顧客とのやり取りも厳しくチェックされます。

顧客である我々は銀行員とお付き合いしているという認識はゼロであります。担当が数年ごとに変わり、前担当者とは「今生の別れ」となるような仕組みなら全部ロボット君とAI君に業務を任せた方がまし、ということになります。

店舗も古臭い天井がやけに高い建物で空間使用効率の悪いものが多いのに店舗に来る客は年々減る一方であります。従業員数も圧倒的に多いわけですが、メガバンクはすでに自然減等による中期的な大幅人員削減に入っており、新入社員の採用数も減じています。

ただ、金融業界を取り巻く環境変化はそんな悠長なことを言っていられないところまで追い込まれており、あらゆる体質改善を前倒しで求められる状況にあると断じてよいでしょう。

今回のみずほの発表はメガバンクに限らず地方銀行再編も叫ばれる中、地殻変動的な対応を迫られる予兆なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年3月7日の記事より転載させていただきました。