どうなるドイツ銀行 コメルツ銀行と合併なるか?

興味にない人には全くつまらない話かもしれませんが、この二つの銀行の合併話はそこら辺の会社の合併とは比べ物にならない奥の深さがありますのでお付き合いを。

赤字が続き経営的に疑問符がついていたドイツ最大の民間銀行、ドイツ銀行(Deutsche Bank)が同国第2位のコメルツ銀行と合併に向けて動き出すことが日曜日のトップ記事として世界中で報じられています。この合併の可能性については1月15日の当ブログ「何故ドイツ銀行が注目されるのか」でもざっくりした内容を書かせていただきました。また、個人的にもドイツ銀行の株を売買していたこともあり、行方には興味を持っていました。(ちゃんと儲けています。今は持っていませんがウォッチリストには入っています。)

(ドイツ銀行公式Twitterから:編集部)

(ドイツ銀行公式Twitterから:編集部)

なぜ急にこの話が展開したのか、一説にはドイツ政府の後押しとされています。ただし、政府といってもドイツ財務省が押している話でメルケル首相はさほど熱くなっていないとみられています。私も1月15日の記事で「メルケル首相はドイツ銀行救済に消極的とされ、『大きすぎてつぶせない』というより『大きすぎて手が出せない』といった方が適切な状態にあるのかもしれません」と書かせていただきました。また3月15日のブルームバーグにも「メルケル首相は合併が両行の問題を解決することに懐疑的で、再び銀行救済に追い込まれることは何としてでも避けたい考えだとされる」とあります。

それでも合併を後押しする理由は前向きの視点と後ろ向きの視点があるように感じます。前向きの点については合併により欧州では3番目の規模の銀行になります。トップは英国のHSBC、二番がフランスのBNPパリバです。戦略的に経営基盤を安定させ、外国銀行からの侵略(=合併)を防ぐことが一つあります。噂ではJPモルガンチェースや中国系銀行の名前も取りざたされていた中、同行が抑えるドイツ主要企業群への影響は大きく、ドイツ国内で問題解決(=国内行だけで合併完了)を取りまとめるのはドイツ財務省にとって絶対的要件だったと思われます。また、スイスのUBSに振られたことも影響しているかもしれません。

一方、後ろ向きの視点とはやはり、ドイツ銀行の数々ある不正融資とそれに絡む訴訟が重いと思います。訴訟費用だけで18年度の利益の3倍にあたる12億ユーロを計上しています。ドイツ政府はドイツ銀行が進める社内的リストラでは問題の根本解決にはならないと考えているようです。

もう一点、ドイツの銀行システムの特殊性があげられます。同国ではドイツ銀行のような大手商業銀行が市場シェアをとれないのが中小企業向け融資であります。これは貯蓄銀行(quasi-public savings banks)がその市場の最大を握っているからです。びっくりするかもしれませんが、グループ資産額でみるとドイツ貯蓄銀行全体では世界で最大の銀行(2番が三菱UFJ)規模を誇ります。さらにドイツポスト(ドイツの郵貯)もあり、メガバンクであるドイツ銀行の成長の道筋が限られているという背景もあります。

ではコメルツとの合併は何が弊害なのか、といえば最大の問題は合併で14万人となる従業員のリストラでしょう。最低でも1万人は切ることになると言われており、組合が黙っていませんし、メルケル首相は雇用を大事にしますからここは大きな山でしょう。また合併することで経理的に痛みが生じるのがコメルツで所有有価証券の評価損計上となる可能性を指摘されています。コメルツの持つイタリア国債だけで31億ユーロの損失とされています。

それとドイツ銀行のゼービングCEOにももともとあまり積極的な姿勢が見られません。氏はまずは自行の立て直し、と繰り返す理由の一つに2010年に買収したポストバンクの処理もまだ道半ばとされるからでしょうか?

ところで日本ではドイツ銀行の天文学的なデリバティブ残高に目線が行くようです。7500兆円とも言われます。ただし、これについては海外ではあまり話題になっていません。一つにはリスクメジャメントが分かりにくいからでしょう。例えば銀行がCDSを顧客に10ビリオンドル売るとします。銀行は売ったリスクをヘッジするために反対売買をしているはずです。仮に同額の10ビリオンドルの反対売買を行ったとしましょう。これで計算上はこれで20ビリオンドルのデリバティブ残高と表記されます。しかし、リスクはある程度打ち消せるはずです。この盲点が日本ではきちんと伝わっていないようです。

いずれにせよ、ドイツの国内第一位と第二位銀行の合併はコメルツの15%株式を所有するドイツ政府のひも付きディールとなるわけで市場があまり高揚してこない訳がこのあたりにありそうです。しばし、このニュースに振り回されそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年3月18日の記事より転載させていただきました。