気持ちを入れ替えるのは新入社員だけではない

4月といえば新年度入り、新学期、新入生そして新入社員であります。この新〇〇は小学校1年生、大学1年生、社会人1年生といった節目にしか出てこないイメージも強くあります。社会人においては下手をすれば1度しかない言葉といってもよいでしょう。

その新入社員に向けて各社トップは様々な思いをぶつけています。「世に必要とされる人に」(トヨタ社長)、「世界と戦い、自分の道開け」(ユニクロ社長)「英語のみならず人間としての魅力も磨け」(外務大臣)、「大胆な仕事を」(メルカリ社長)…と夢と期待を抱かせる言葉が並びます。儒教的に言えば先人の言葉をしっかり受け止め、先輩に倣い、世のため、会社のために貢献してほしいということでしょう。

そんな新入社員も1年後には先輩になり、急に上から目線になるもの。日本で時たま、そんな若者たちと接点を持つとその変わりように「おい、君たち、大学生じゃないんだから」と思わず言いたくなる時もあります。大学の体育会系で奴隷、平民、貴族、天皇と揶揄される上下関係を会社でもいつの間にか、当たり前のようにやっているのでしょうか?

イラストAC:編集部

先日、テレビで上野の花見の場所取りに暗いうちから来ていたスーツ姿の若者がインタビューされ、「私が一番若いので」とブルーシートに小さなテーブル、そこにパソコンを置いて仕事をしていたのが印象的でした。この馬鹿々々しい場所取り、公園を誰が管理しているのか知りませんが、ロープで敷地を区切り、ネットで申し込む方式にすればいいのになぜ、場所取りなんて言う古典的なやり方をいつまでも踏襲しているのだろうと思います。

さて、新年度を迎え、本当に変わらなくてはいけないのは新入社員ではなく、入社2年目以降の我々社会人であります。新入社員は右も左もわからず、社長の訓示など雲をつかむような話で覚えている人など一人もいません。そんなことよりも社長は社内向けの訓示として全社員に発するべきでしょう。上述の社長の言葉はすべての社員に聞かせたい内容です。

メガバンクはかつて新入社員をブラックホールのように吸い上げていました。リーマンショック前は3行で年5-6000人規模、その後一時減ったものの2016年も5000人を超えていました。それが2020年採用計画は3行で1800人です。銀行は人材を吸い上げるのもすごいですが、使えない人材を吐き出す力も強い特殊な業界であります。ノルマという熾烈な競争が生み出すゆがんだ人間形成は池井戸潤氏の格好の標的となったわけです。

では1800人しか採用しない時代に更に人材を吐き出す力はあるのか、といえばNOでしょう。多分、一人ひとりの力量を重視する人事政策への変換が待っています。ならば、それ以上に大事なのは大量採用時代に入り、行内に留まっている行員が目指すものが何か、そこをリセットしないと行員が育たず、銀行が勝ち抜けないでしょう。

ところが銀行ほど色を出さない業種もありません。お金に色はないから、とよく言われました。そんなことをいう時代ではないでしょう。何に特化するのか、図体だけが多くても人件費という餌ばかり食べて非効率な経営になってしまいます。

もう一点、私は民間と役人で人材を混合できる仕組みも必要だと思っています。役人ほど階級制が明白になっているものはありません。キャリア試験に合格した者だけが特急列車で最上階まで上がれる権利を持っていますが、他は途中まで。そしてノンキャリで非常に優秀な人がごく稀にキャリアのポジションをとるという構図になっています。こんな科挙のような制度があるからこそ日本の役所仕事の硬直化につながっています。

社会は変革しています。AIやIoTといった表層的なツールの変化は人々の発想を変え、価値観を変えていきます。その時、今自分がやっている仕事はどのような意味があるのか、考えるべきだと思います。そのためには異業種交流でもよし、夜学でMBAを目指してもよいでしょう。すべての社会人が今、会社がなくなったら自分の足で立てるのか、そこを見直してもらえればと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年4月2日の記事より転載させていただきました。