ノートルダム大聖堂再建寄付:善意と人間の醜さ

私も行ったことがあるパリのノートルダム大聖堂が、真っ赤な炎をあげながら燃え上がり、建物の一部が消失したニュースは衝撃的でした。世界中からお見舞いのメッセージや寄付の表明が直後からありましたが、集まった寄付の使い道について早くも論争になっています。

寄付については、フランスの大企業や大富豪が1億ユーロ(130億円)などの大口で表明しており、この1週間足らずの間に、8億ユーロ(日本円にして1000億円)を超えた金額が集まったそうです。。これから始まる修復工事を考えれば「良いことじゃないか。」と思えます。しかし、なぜ論争になっているのでしょうか。

昨年【 左右で挟まれたマクロン大統領。さぁ、どうする?(2018.12.6)】でも書きましたが、パリでは毎週土曜日に「黄色いベスト運動」という大々的な反政府デモが、去年の秋から23週連続で行われており、先週4月20日のデモでは137人が警察に拘束される程、デモ隊が、物を投げつけたり、放火したり、それに対抗して警察が放水でデモ隊を制圧したりと、パリは週末になると治安が悪い状況が続いています。

ですから、はじめて今回の火災映像を見た瞬間、「デモ隊が暴徒化して火を放ったのではないか」と頭をよぎりましたが違いました。

確かに、100億円以上の大口で寄付する申し出が個人や企業からあれば、「再建に寄付をするくらいなら、まず人間を支援しろ!」「もっと人を雇え」「給料をもっと上げろ」という気持ちが出て来るのもわからなくもありません。

また、フランス政府は焼け落ちた屋根や尖塔部分の「新たなデザイン」を公募すると発表したことに、野党から「狂気の沙汰だ」「文化財を尊重しろ」と言う声が聞かれました。批判はありますが、一方で、ルーブル美術館はかなり古い建物ですが、メイン広場にはガラスのピラミッドがあります。この様に、フランスでは新しいものと古いものを斬新に組み合わせていますが、「ノートルダム大聖堂には、新しいデザインなんかいらないんだ」という批判です。

火災直後、マクロン大統領は「私は、この大惨事を結束の機会とする必要があると、強く信じている」と発信しました。

今回の火災で私はかつて観たことのある、「ノートルダムの鐘」という1400年代のパリを舞台にした劇団四季のミュージカルを思い出しました。ミュージカルは醜い奇形児として生まれてきた「カジモド」と言う名の男を、権力者は寺院の中に閉じ込めて、鐘撞を毎日やることを命じました。人の見掛けだけで判断する危うさを指摘したミュージカルです。
人間は見た目(外面)と内面(心)の複雑な融合で形成されてます。
同じように、1人の人間の中に善悪(美醜)が同居しています。それを問いかけているミュージカルです。

今回の寄付もいろんな解釈があるようです。そして今回の火事もその後の論争もフランスでやがてオペラやミュージカルになるのかもしれませんね。


編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2019年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。