大塚家具に見る伝統文化的企業を絡めとる中華資本の老練な手口 --- 本元 勝

2019年04月28日 06:00

業績低迷による資金繰りに喘ぎ続ける大塚家具の社長が、家具製造技術団体の設立に伴い、解任した創業者である実父に対し、新団体の役職就任の提案に伴う和解の申し入れを行うことを固めたという。先の3月4日の外国人特派員協会で行われた大塚家具と中国系投資会社ハイラインズとの記者会見でも、資本提携と中国市場販売の発表と合わせ、これらについての前フリ的発言も行われていた。

ハイラインズの陳海波社長(左)と大塚家具の大塚久美子社長(FCCJ動画より:編集部)

まず、大塚家具の中国市場販売に関していえば、ハイラインズが本気で大塚家具の中国販売展開を支持しているとは考えにくい。その理由は、大塚家具は製造業者ではなく小売業者であることである。家具販売で括る業界では、ニトリが海外出店に大成功を収めているが、ニトリは海外の多くの拠点で生産ラインを持つ「製造小売業」であり、大塚家具とは実質、商売違いともいえるのである。

仮に小売業者である大塚家具が本気で中国進出を考えているならば、現在の企画PB商品ではなく、中国で自社製造を開始するか、嘗て多くの日本の大手メーカーが下請けを道連れにしたように、日本の家具製造業者を中国に連れていき、製造させるしかない。もうひとつ、PBブランドのライセンス販売という形もあるが、しかし、これでは目的を成さないであろう。

そして、今回の大塚家具社長の実父に対する和解の申し入れ提案は、ハイラインズの強い意向があってのものであろうと推測する。家具製造技術団体の設立の話しは、3月の会見時にも発表されており、ハイラインズからの資金提供の条件であった可能性も高い。資金繰りに喘ぐ大塚家具が他人のことを気遣う余裕はないだろうし、未熟な二代目経営者が主導する、沈む寸前の泥船に乗るような事業者がいるとも思えない。

実質オーナーとなるであろうハイラインズが描く戦略は、中国販売ではなく、日本における大塚家具ブランドの再構築。そして、本件のメインは日本の伝統文化的産業に対するM&A戦略の大きなトライアルであると推測する。

現在、日本人の多くが気付いていないが、中華資本の投資企業は、水面下で着々と日本の伝統文化的産業に触手を伸ばし、数多のM&Aを成功させている。その譲渡後の日本企業の営業風景だけ見れば、譲渡前も後も表面上では見分けがつかない。日本の大都市圏のとある有名商店街の過半数の企業資本が、既に中華資本に入れ替わっているというは都市伝説ではなく紛れもない事実である。

特に、日本の伝統文化的産業は、その多くが地方に存在し、ほんの数年前までは完全な斜陽産業であり、後継者問題という言葉の走りとなった産業でもある。それがここ数年、外国人観光客誘致政策による増加もあり、これら日本の伝統文化的産業の商品やサービスが、外国人から一気に注目を集め、現在、多くの産業や個別企業が史上最高の好況に湧いているのである。しかし、高齢者中心の家内工業的な事業は、大量の注文を受注する能力も体力も備えておらず、後継者問題も片付く気配はない。そこに目を付けた中華資本がM&Aに積極的に動いているのである。

しかし、中華資本側には、これらM&Aの成立を困難にする大きな障壁が存在している。それが日本の遺跡的存在である「組合」なのである。伝統文化産業事業者の多くが存在するのが地方であり、その産業を支えるのは主に高齢者である。日本にはかつて戦後の復興から協力し、支え合う為の幾つかの社会システムが存在していた。その一つが「事業協同組合」なのである。地方では未だこの組合が現役で存在し、その定款には法的に有効な多くの規制があり、組合の承認なしでは実質新規参入が出来ないのである。

また、この問題には、これらの規制が当事者である個々の事業者の権利を侵害しているという当事者意見も少なからず存在している。そして、今回のハイラインズの大塚家具への出資は、早々に組合の設立を提案したことからも、日本の伝統工芸的な家具製造産業全体に対するM&A戦略と捉えることもできるのである。

経営者にとって事業とは、人生を掛けて育て、共に寄り添ってきたものである。分身でもあり、我が子ともいえる存在でもある。真剣に取り組んできた人ほど、そう簡単に手放し、諦めきれるものではないのである。中高年である筆者の私見で誠に申し訳ないが、最近の日本のベンチャーやその出資者が口を揃えて目指すゴールが「売却」である、という話しを聞く度、情けなく、恥ずかしくて仕方ない。

大塚家具の先代がどのような判断を下すかはわからない。しかし、中華資本のM&A成功率を見る限り、日本的な機微を理解した戦略で向かい合う中華資本の方が、ハンパな志しの日本企業に買われるより、企業にとってよっぽどマシな現実があるのかもしれない。

本元 勝 アジアM&Aコンサルタント

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