社外取締役の義務付け法案(会社法改正)〜 取締役会決議の有効性への影響

2019年08月09日 11:30

8月8日の日経朝刊4面に「臨時国会召集-10月軸に 社外取締役義務付け法案など提出へ」との見出しで、秋の臨時国会に提出される予定の会社法改正案に関する解説記事が掲載されていました。

今回の会社法改正案の目玉は(私個人としてはD&O保険の法制化、会社補償制度だと思いますが)「社外取締役の法制化」とのことで、会社法上の公開会社には社外取締役の選任が義務付けられます。有識者の間でも賛否ありますが、企業統治改革が進む中で法制化されることは間違いないでしょうね。

ただ、取締役会の構成員として「かならず一人以上の社外取締役を置かなければならない」と規定されますと、社外取締役不在の状態で取締役会で決議ができるのだろうか(決議は有効なのだろうか)…という極めて素朴な疑問が湧きます。

そもそも社外監査役の場合には、そういったケースに備えて「補欠監査役」を選任したり、一時監査役を裁判所に選任してもらうことになりますので、もちろん「補欠社外取締役」を総会で決めておくこともできます。ただ、そうなりますと「社外取締役候補者を2名以上見つけなければならない」といったやっかいな問題も出てきますね。

先日のヤフー、アスクルの事例でも、社外取締役3名の再任が否決されて、社外取締役が一人もいない状況になってしまいましたので「アスクルで有効に取締役会決議ができるの?」(もちろん会社法改正後という仮定ですが)という「大問題」は普通に想定されるところです。社外取締役が(会社側と衝突して)途中辞任した場合などは、取締役会が開けるようになるまで「権利義務取締役」(会346条1項)として「辞めたのに賠償責任を追及されるおそれがあるので」役員会にだけは出席しなければならない、といった社外取締役側の大きな負担も想定されます。

法務省の会社法制部会では、社外取締役の義務付け規定の「補足説明」として、社外取締役がいない状態で行われた取締役会の決議も有効と解釈できる、社外取締役がいない状態について過料の適用はないと解釈することもできる、と示していました(会社法制部会第18回資料、要綱案の仮案2参照)。義務付け規定を無視して社外取締役を選任しない状態を放置している場合には(取締役会決議は)無効だが、たまたま不在になってしまったときに、選任の努力をしているのであれば取締役会決議は有効、という意味かと思われます。

また、法務省はどうもこの規定は「効力規定」ではなく「取締規定」の性質と考えておられたのではないかとも推測されます(取締規定であれば決議の有効性に影響ありませんが、ただそうなると過料の制裁は不可欠でしょう。現に、法務省担当者の発言記録を読みますと「過料の規定は入れざるを得ない」とされていました-第17回部会議事録参照)。

しかし、なにゆえ「社外取締役に欠員が生じた状態での取締役会決議が有効と解釈できる」のか、その根拠が不明です。また義務付け規定にもかかわらず、社外取締役を選任しない状態で過料も課されないのか、その根拠も不明です(効力規定だから?)。会社法制部会での学者の方々の意見も「社外取締役がいない状態での取締役会決議は無効」とされる方が複数いらっしゃいます。

これは私の意見ですが、取締役会決議の効力要件として「定足数」という概念がありますが(会369条1項)、この定足数というのは社内も社外も区別していません。したがって「社外取締役」なる概念は、そもそも効力要件とは結び付かない取締役の一属性であり、「置かなければならない」ことと決議の効力とは(定足数のような規定がないかぎりは)関連性がない、といった根拠が必要ではないでしょうか(かなり苦しいかな。。。)

解釈にゆだねるとしても、取締役の定足数(3人以上)に満たない人数での取締役会決議は無効とする最高裁判決もありますし(昭和41年8月26日)、会社法831条の総会決議の裁量棄却の規定についても、現在の社外取締役の役割からすると(瑕疵は重要とはいえない、として)軽々には援用できないと思います。そもそも補欠監査役制度が存在すること自体、社外役員の欠員が重大な瑕疵と会社法ではみなされる可能性がありそうですね。

私個人としては、社外取締役を法制度として義務付けること自体に問題があると思いますが、法制化されてしまうのであれば、社外取締役欠缺時の取締役会決議を有効とする結論が妥当ではないかと思います。ただ、(裁判で争われるにしても)その結論に導く法的な根拠が必要です。

日本を代表する著名な法律学者の方々が「原則は無効」と発言されているわけですから「なぜ有効になるのか」「どのようなケースで有効となるのか」もう少し知恵を絞らなければ経済界での萎縮効果(やっぱり社外取締役を2人以上選任せんとあかんのかなぁ?)を一掃することは困難ではないかと。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録  42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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