家庭用再エネの普及の秘策はナッジ(心理学)にあり

2019年08月14日 16:00

いささか下品な話ですが、男性の方は海外の空港などで、お手洗いの小便器の内側に一匹のハエの絵が描かれているのを見たことはないでしょうか。実はあれ、「ナッジ」という高度な手法が隠れているのです。「人は的があると、そこに狙いを定める」という心理を応用して、清掃のコストを減らすために、小便器を正確に利用するよう導いているのです。1999年にオランダのスキポール空港が初めて導入しました。

ナッジ(nudge)を直訳すると、「ヒジで軽く突く」という意味ですが、「人は必ずしも合理性だけで行動しない」という理論に基づいて、「小さなきっかけを与えて、人々の行動を変える」ことを目指すものです。2017年にはシカゴ大学のリチャード・セイラー教授がナッジ理論でノーベル経済学賞を受賞するなど、最近世界的に注目を集めています。日本でも、環境省が日本版・ナッジユニットを作って色々な施策を展開しています。

環境省サイトより

実はこれ、FITが切れた後にも家庭での再生可能エネルギーを普及させるのに、大いに役に立つと私は思うのです。以下その理由を説明します。

FITすなわち再生可能エネルギーの固定価格買取制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度です。2019年度の家庭用太陽光発電の買取価格は24から26円で、電力会社の電気料金とほぼ同じ水準です。つまり、家庭で発電すればしただけ、電力会社から電気を買わなくても良くなり、その分節約ができることになります。

電力会社がFITで買い取るお金は、発電した消費者の銀行口座に振り込まれます。一方、太陽光が発電しない夜に電力会社から買う電気の料金は、同じ消費者の銀行口座から引き落とされます。ここで重要なのは、消費者が電力会社から受け取るお金と、電力会社に支払うお金は相殺されないということです。大きな設備を持っている消費者は、大抵、発電量が消費量を上回るので、あわせて考えれば、電力会社からもらう料金の方が大きくなります。ここでナッジの出番です。

人間は「損失回避」行動をとることが知られています。同じ金額をもらったときの喜びより、同じ金額を失った時の悲しみのほうが2.5倍大きく感じるといわれています。つまり、損失を極端に嫌うのです。みなさんは、思いがけず1000円を誰かからもらった時の喜びと、思いがけず誰かに1000円払わなければいけなくなった時の悲しみとどちらが大きいでしょうか。私は後者です。

ではこれはどうでしょうか。「電気料金を一万円払ってそれとは別に売電量を一万円もらう」のと、「電気料金はタダです。」というのとどちらを好むでしょうか。損失回避行動をとる人は、後者を選好します。毎月光熱費を支払う煩わしさや苦痛から解放されるのは魅力です。

実際、ドイツではゾンネンというベンチャー企業が「クラウド・コミュニティモデル」でこれを実践しています。同社が運営する「ゾンネン・コミュニティ」では、太陽光発電を同社の顧客がシェアしています。ある顧客が発電して電力が余ったとき、それを電気が足りない別の人に融通するということをお互いに行います。

この時、「支払い」と「受け取り」は別々に行われるのではなく、相殺されます。もちろん太陽光発電や蓄電池といった初期投資(これもある意味損失ですが、新築時の大きな出費の中ではシステム導入は安価に感じるという心理も働きます。)は必要なのですが、それさえすれば、「電気料金はタダ」の世界が実現します。

従って、家庭での再生可能エネルギーの普及に向けて、電力事業者は、四角四面に考えないで、「電気料金無料を保証」といった消費者の心理に訴求する柔軟性が求められていると言えましょう。

株式会社電力シェアリング代表 酒井直樹
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酒井 直樹
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