ユダヤ人を標的:旧東独でシナゴーグ襲撃事件

2019年10月11日 11:30

旧東独ザクセン=アンハルト州の都市ハレ(Halle)で9日正午ごろ、27歳のドイツ人、シュテファン・Bがユダヤ教のシナゴーク(会堂)を襲撃する事件が発生し、たまたま犯行現場にいた女性と近くの店にいた男性が射殺された。

▲ハレのシナゴークを訪問したドイツのシュタイマイヤー大統領(2019年10月10日、独大統領府公式サイトから)

▲ハレのシナゴークを訪問したドイツのシュタイマイヤー大統領(2019年10月10日、独大統領府公式サイトから)

Bはシナゴークの戸を銃と爆弾を使って破壊し、会堂内に侵入する予定だったが、戸を破壊できずシナゴークに入ることが出来なかった。会堂にはユダヤ教最大の祝日「贖罪の日」を祝うために70人から80人のユダヤ人が集まっていた。

ニュージーランド中部のクライストチャーチで今年3月15日、白人主義者でイスラム系移民を憎む極右思想を信奉する28歳のブレントン・タラント容疑者が2つのイスラム寺院(モスク)に侵入し、銃を乱射、「金曜礼拝」の50人のイスラム教徒が死亡、子供を含む少なくとも20人が重傷するという大惨事が発生した。Bがシナゴーク内に侵入していたら、ニュージーランドと同じ惨事が発生するところだった。

ドイツ当局の情報では、27歳のBは鉄のヘルメット、防弾チョッキ、緑色の軍服を着、リュックサックには爆弾や弾薬、手榴弾を所持し、手には複数の銃を持っていた。Bはニュージーランドの犯人と同様、自身の犯行をビデオ録音していた。35分に及ぶビデオでは「悪いのはユダヤ人とフェミニストだ」と語っている。

大惨事を防いだのは強固に作られたシナゴーク入口の戸だ。周囲は壁がある。Bは戸を破壊するために爆弾を仕掛けたが、戸は崩れなかった。それに怒ったBはシナゴークに近接するユダヤ人墓地に手りゅう弾を投げ込み、たまたま道路を歩いてきた女性の背中に向かって発砲して殺害した。

ドイツのメディアによると、シナゴークに侵入できなかったBは「俺は敗北者だ」(Ich Bin ein Loser)と叫びながら怒りまくっていたという。

Bはレンタカーに乗るとしシナゴークから約300メートル離れたところのケバプのチェーン店「インビス」を襲撃し、そこで食べていた労働者らに向かって発砲、1人を殺し、数人が負傷した。Bは地に倒れた男性に何度も発砲を繰りかえすと、外に出た。その頃、発砲を聞いた警察官と銃撃戦。Bは警察官の銃弾を受けて負傷すると、車で移動。途中、レンタカーから降りて、たまたま駐車していたタクシーを奪うと逃走。シナゴークから15キロ離れたところで、トラックと衝突し、警察官に包囲され、逮捕された。

私的なことだが、当方は同日、左目の手術のため入院していた病院から退院したばかりだった。家にいた息子が、「ドイツでネオナチがシナゴークを襲撃し、死傷者が出たらしい」と教えてくれたので、早速ドイツのTVにスイッチを入れ、事件の模様を追った。Bがシナゴークに入れなかったと聞いて、死者が出た事件に対して不適当な表現になるが、大惨事を未然に防いだユダヤ人の安全への意識の高さに「さすがだ」と関心させられてしまった。

ニュージーランドでは犯人は容易にイスラム教寺院に入り、そこで祈っていた信者を50人殺害した。ハレのユダヤ教会堂でも信者たちが集まっていた。Bが彼の計画通りを爆弾で粉砕して会堂内に入ることが出来たならば、同じような大惨事が起きていた可能性が高い。ユダヤ人はニュージーランドの事件を知っていたはずだから、そこから多くを学んだはずだ。今回はその学習が功を奏したわけだ。

欧州ではドイツを含め反ユダヤ主義が再び広がってきた。中東、北アフリカから多数のイスラム系難民、移民が欧州に殺到してきた。彼らは母国で反ユダヤ主義、反イスラエルの教育を受けてきた人々だ。同時に、欧州国内でネオナチ的な反ユダヤ主義が台頭してきた。

反ユダヤ主義の台頭を警戒し、イスラエルに移住するユダヤ人も増えてきている。同時に、外観的にユダヤ人と分かるような服装を控え、キッパの上に野球帽をかぶるなど自衛手段をするユダヤ人が出てきている(「独のユダヤ人社会で高まる危機感」2018年4月27日、「ドイツからユダヤ人がいなくなる日」2019年4月7日参考)。

ドイツのゼーホーファー内相は、「犯行は明らかに反ユダヤ主義に基づくものだ」と指摘し、厳しく批判するとともに、国内のユダヤ系関連施設の警備の更なる強化に乗り出すことを明らかにした。なお、メルケル首相はベルリンのシナゴークを訪ねて連帯を示した。ちなみに、隣国オーストリアでは10日、欧州サッカー選手権のグループ戦、オーストリア対イスラエル戦が行われるだけに、シナゴーグやユダヤ人学校などへの警備を固くするためアンチ・テロ部隊が警戒にあたっている。


ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年10月11日の記事に一部加筆。

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