「桜を見る会」に熱中:格差拡大に目を向けない野党は愚か

2019年12月03日 06:00

経済停滞を生む中間層の疲弊

経済停滞の原因を考えるうえで、注目すべき重要な指摘がいくつかありました。要約して紹介しますと、「グローバル化は所得格差の拡大を通じて経済停滞を招き、副作用が増大している」「ゼロ金利の長期化は経済の新陳代謝を弱める(不効率な経済の温存)」です。グローバル化やゼロ金利を軸とする経済政策に無批判では、深まる低迷をさらに深めることになりかねないと、思います。

格差拡大は野党勢力が最重視すべき絶好の材料です。米大統領選でも野党が重要な争点に仕立てています。それに比べて日本の野党は「桜を見る会」の追及に熱中し、多くの中間層、低所得層が苦しんでいる実態の真相を掘り下げようとしていないのです。

桜を見る会追及の野党合同ヒアリング(国民民主党サイトより編集部引用)

社会、経済、政治にとって、最も重要であるはずの問題に野党は目を向けない。取り組むべき問題の優先順位が分っていない。これでは有権者の共感を引きつけられません。

富の集中が消費の停滞を招く

まず、日経新聞の朝刊1面の連載(11/30)で「滞る再分配/安定を損なう」「所得と消費に広がる格差」という記事が載りました。学者、研究者らの指摘として、「一部の人が使いきれない富を手にし、経済全体で有効需要(消費)の低下を招いている」と、しています。

所得上位1%(富裕層のこと)の富が中間層40%を抜いたのは90年代。富の偏在に拍車がかかり、上位0.1%(超富裕層)の富が50年に、中間層40%に匹敵するまで膨らむ。

上位1%どころではなく、わずか0.1%の人たちが巨大な富を所有し、富める者はさらに富む循環になっているのです。

このことは米国の著名な投資家であるジョージ・ソロス氏ら19人の大富豪が昨年6月、大統領当てに書簡を送り、「超富裕層に課税を」「米国は道徳、倫理、経済的に、我々の資産へ課税(富裕税)する責任がある」と、びっくりするような要求をしました。それが「経済成長の促進、公平な機会創出などにつながる」と。

ソロス氏は「米国では保有資産の上位0.1%が下位90%の人たちと同等の富を所有している」とも、指摘しました。中間層以下は疲弊し、消費する力は衰退している。その結果が経済低迷、社会不安を招いている。課税を強化しても、経済活力が回復し、社会も安定すれば、彼らの不利益にはならないということでしょう。

米国の国際政治学者、コンサルタントのイアン・ブレマー氏は、先月、来日して、シンポジウムに臨みました。それに際し「グローバリズムの破綻」とのタイトルの論文を寄稿しました(11/3、読売)。「経済的な格差が広がり、一般の人たちは経済成長から利益を得られていない」と。

トップ1%の富裕層が富を分け合い、残りの人たちを見捨ててきた。それへの不満が、あってはならないトランプ大統領を誕生させた。

ソロス氏と共通するところがあります。

資本主義のもとで広がる格差といえば、5年前に出版された仏経済学者のピケティ氏の「21世紀の資本」です。各国でベストセラーになりました。邦訳も1冊6000円の本がよく売れました。難解なのに「格差拡大」に共感する読者、研究者が多かったでのでしょう。

資本収益率「r」(リターン/株、不動産などの運用利益率)が経済成長率「g」(グロース/所得の伸び率)を上回り、格差が拡大する。資産を持つ人と、持たずに働くだけ人との格差が広がり、社会や経済の不安定化をもたらす。「累進税率の富裕税を導入すべきだ」と。

マルクスの「資本論」の現代版かと、騒がれたりしました。野党が選挙対策で使うのを、与党は警戒したようですね。野党が国会の審議でも取り上げ、研究会を設置し、中間層以下の有権者に訴えたら、インパクトがあったでしょう。野党はその絶好球を見逃した。不勉強、鈍感なのです。

マイナス金利というイメージの悪さ

最後に、日銀総裁を務めた福井俊彦氏の口述回顧(オーラル・ヒストリー)を日経がスクープ(11/29)しました。記者会見などで明らかにしなかった総裁の本音が語られています。現在のマイナス金利、ゼロ金利をどう考えるべきか、参考になります。

「金利が1%というのは、金利機能が働く最低レベル。それ以下になると、金利機能が働かなくなる」「金利機能を殺すと、経済の新陳代謝のメカニズムを弱める(非効率な企業、産業が温存される))などの指摘は傾聴すべきでしょう。

マイナス金利は長期化しそうですし、日銀総裁は「必要ならマイナス幅を拡大(深堀り)する」といっています。マイナス金利は政策当局にとっては大胆であっても、その言葉は、国民に「経済の悪い状態が長期化する」というイメージを与えています。

マイナス金利、ゼロ金利と聞くと、国民は身構えて節約に走り、景気を悪くしてしまう。政策当局は「どういう道筋で、マイナス金利を終息させていくか」というメッセージも同時に送り続ける必要がある。それをせず、愚かにも、消費者心理を委縮させることに励んでいるようです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年12月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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