桜を見る会“招待状被害” 〜 ジャパンライフ国家賠償は可能か?

2019年12月16日 06:01

ジャパンライフの「オーナー商法」

ジャパンライフは山口隆祥会長が1975年に設立した磁気治療器・健康寝具等の製造販売会社である。同社は、2014年に消費者庁から行政指導を受けた。

その後、同社は、2015年10月頃より業務提供誘引販売取引を開始し、磁気治療器などを100万円~600万円で販売し、購入者が別の顧客にレンタルすると年6%の利益が得られるという「オーナー商法」で資金を集めた。

しかし、2016年から4回にわたり特定商取引法違反などにより行政処分を受け、2017年12月、2400憶円を超える負債を抱えて倒産し、2018年破産手続きに入り現在に至っている。全国の被害者は7000人、被害総額は2000憶円とされる。

「桜を見る会」山口会長への招待状送付

野党側の「総理主催:桜を見る会追及本部」は、安倍首相と山口会長との関係を問題視し、2015年4月に実施された安倍首相主催の「桜を見る会」に「安倍首相枠」でジャパンライフ山口会長に招待状が送付されたため、同社の宣伝に利用され、被害が拡大したことによる安倍首相の責任追及や、国家賠償の可能性等を問題にしている。被害者らの一部も同様の主張をしている。

共産党が入手したジャパンライフへの「招待状」(大門議員のツイッターより)

しかし、一部報道によれば、ジャパンライフの山口会長は古くから政界関係者らと広い人脈を持ち、「桜を見る会」へは、福田、中曽根、小渕、鳩山、安倍首相など、ほとんどすべての首相から招待されたが、一度も出席せず、安倍首相夫妻とは面識がないとのことである(12月8日TBSテレビ「報道特集」)。また、同会長は有力なマスコミ関係者とも広く交流していたとの情報も流れている。

「招待状送付による被害」の国家賠償は可能か

国家賠償法1条1項は「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と規定している。

上記規定の構成要件事実は、①公権力の行使、②公務員であること、③職務の執行、④故意又は過失の存在、⑤違法性の存在、⑥職務執行と損害発生との因果関係の存在−−である。

まず、①の招待状送付が「公権力の行使」に該当するかどうかであるが、判例によれば、純粋な私経済作用等を除くすべての作用は公権力の行使とされる(東京高判昭和56.11.13判例時報1028.45)から、これに該当すると言えよう。

次に②の「公務員」については、内閣府の招待状送付担当官はこれに該当し、仮に、安倍首相が招待状送付を「指示」しておれば、特別職国家公務員としてこれに該当すると言えよう。しかし、安倍首相が招待状送付を「指示」したことを証明するに足りる事実も証拠も存在しない。

③の「職務の執行」については、上記担当官には認められるが、安倍首相についてこれを認めることはできない。なぜなら、安倍首相には招待状送付の「実行行為」がなく、且つ、招待状送付を「指示」したことを証明するに足りる事実も証拠も存在しないからである。

④の「故意又は過失」については、本件の場合、「故意」は勿論のこと、「過失」についても、上記担当官においてこれを認めることはできない。なぜなら、上記担当官において、山口会長あてに送付された本件招待状が宣伝に「悪用」され、その結果、抽象的ではなく具体的な被害を発生させる危険性をあらかじめ予見していたこと(「予見可能性」)を証明するに足りる事実も証拠も存在しないからである(東京地判昭和53.8.3判例時報899.48東京スモン事件=「予見可能性」の存在が過失の要件と判示)。

さらに、招待状が、前記の通り、歴代首相においても山口会長あてに送付されていた可能性を排除できないこと、本件招待状が2016年からの行政処分の前に送付されていたことも考慮されよう。

上記理由により、安倍首相については、なおさら「故意又は過失」を認めることはできないのであり、これらを証明するに足りる事実も証拠も存在しない。

⑤の「違法性の存在」については、本件招待状送付行為が何らかの具体的な法律違反や何らかの具体的な法益侵害に該当することを証明するに足りる事実も証拠も存在しない。

⑥の「職務執行と損害発生との因果関係の存在」については、本件被害の実態を見ると、本件「オーナー契約」は、何よりも「年6%の利益配当」の魅力と「その他の各種サービス提供」の魅力が重要な内容となっており、このことが本件「オーナー契約」締結の極めて重要な要素であったと思料される。したがって、仮に、被害者が本件招待状を見て会社を信用し契約したとしても、これを証明するに足りる事実も証拠も存在しないのみならず、招待状は「オーナー契約」締結の重要な要素ではないと解すべきである。

判例は、「訴訟上の因果関係の立証は、特定の事実が特定の結果を発生させたことの高度の蓋然性の証明が必要である」(最高判昭和50・10・24民集29・9・1417)としているところ、本件招待状によって損害を発生させた「高度の蓋然性」を証明するに足りる事実も証拠も存在しない。そのうえ、被害者側の「過失」も無視できないのである(民法722条2項)。

以上によれば、招待状の送付と損害発生との間の法律上及び証拠上の因果関係を証明するに足りる事実も証拠も存在しない。

官邸サイトより

安倍首相個人の損害賠償責任の有無

国家賠償法1条2項は「公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する」と規定している。

この規定により、同法1条1項に基づき国又は公共団体が被害者に対して損害賠償責任を履行した場合には、当該公務員に対して「故意又は重大な過失」がある場合に限り、求償権としてその支払いを求めることができる。

しかし、前記の通り、国家賠償法1条1項に基づき国の被害者に対する損害賠償責任の存在を証明するに足りる事実も証拠も存在しないのであるから、国の損害賠償責任の履行を前提とする安倍首相個人に対する求償権が認められないことは言うまでもない。

のみならず、仮に、国の被害者に対する損害賠償責任が認められたとしても、安倍首相個人の「故意又は重大な過失」を証明するに足りる事実も証拠も存在しないから、いずれにしても、安倍首相個人に対する求償権は認められない。

類似事件の判例(「著しい過失」が要件)

平成20年(2008年)9月26日、大阪高裁は、被害者1万7000人、被害額1100憶円の大和都市管財国家賠償請求事件訴訟の控訴審判決で、抵当証券業の登録更新を拒否しなかった近畿財務局の対応が被害拡大の原因であるとして、国の責任を認め、被害者620人について、国に15憶5800万円の支払いを命じた。

判決理由として「近畿財務局は適切な調査をせず、漫然と同社の登録を更新した。監督権限の不行使にあたり、裁量逸脱の程度が著しい」と判示した。これに対して金融庁は上告を断念し、被害者勝訴判決は確定した。

本件は監督官庁である近畿財務局の「著しい過失」を証拠上認めたものであり、ジャパンライフの場合とは事案の内容を異にする。ジャパンライフの場合は、内閣府は監督官庁ではなく、かつ、「桜を見る会」の招待状を送付したに過ぎないのであり、前記の通り、招待状を送付した担当官の「故意又は過失」を証明するに足りる事実も証拠も存在しない。のみならず、招待状と損害発生の因果関係を証明するに足りる事実も証拠も存在しないのである。

なお、被害者数万人、被害総額2000憶円の豊田商事事件の国家賠償訴訟では、平成10年(1998年)の大阪高裁判決は、「公取委が独禁法等を用いて規制しなかったことは不合理だが、その程度が著しいとまでは言えない」と判示し、国の責任を否定し被害者らの請求を棄却した。最高裁でも棄却され被害者敗訴判決は確定している=平成14年(2002年)9月26日最高裁第一小法廷判決横尾和子裁判長=。

以上二つの国家賠償訴訟判例から言えることは、国に故意に近い「著しい過失」が証拠上存在することが国家賠償を認める絶対要件であると言うことである。

「桜招待状被害」の国賠請求は認められない

以上に述べた通り、「桜を見る会」招待状がジャパンライフ山口会長へ送付されたことを理由とする国家賠償請求訴訟は、判例上の要件である、国の「著しい過失」を証明するに足りる事実も証拠も存在しないのみならず、招待状と損害発生との因果関係を証明するに足りる事実も証拠も存在しない。

よって、招待状の送付を理由とする国家賠償請求は認められないと思料される。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。

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