幸せな2020年への心理学考察:元官僚暴走死亡事故

2019年12月31日 06:00

2019年もいろんな事件や事故がありました。その中には単に当事者の問題だけでなく現代社会のいろんな矛盾や課題を反映したものもあります。心理学的に考察することで、幸せな2020年へのヒントになるものもあります。

ここでは、東池袋で起こった乗用車暴走事件から2020年を生きるヒントを考えてみましょう。

池袋の事故当時の現場(NHKニュースより)

平和な東池袋での悲劇

事件は4月でした。東京・東池袋は池袋の喧騒をやや離れた比較的静かな街です。その平和を打ち破るように、88歳の高齢者が運転する車が暴走しました。赤信号を2度無視し、10人が負傷、母子二人が死亡という大変痛ましい事件となりました。事故原因はブレーキとアクセルの踏み間違えとされています。

犠牲になったお二人の冥福と、ご遺族の今後に幸あることを祈らずにいられません。また、私たちは一歩間違えば命を失いかねない危険の中に暮らしているという事実を改めて認識しなければなりません。

加害者のリアクション

ただ、事故後の波紋もこの事件の特徴となりました。まず、加害者が「アクセルが戻らなくなり…」と事故直後に説明したことで自動車メーカーに疑惑の目が向けられした。これについては、結局のところ車は正常だったことが立証され収束しました。加害者は11月の記者会見でも「安全な車の開発するようにお願いしたい」と発言し、被害者の死と向き合っていないと遺族に苦言を呈されています。

“上級国民”疑惑

また、加害者が容疑者と報道されない、なかなか逮捕されない、なども波紋を生みました。元官僚ということで「“上級国民”が特別扱いされている」という疑惑も生みました。“上級国民”という言葉が注目されてこのテーマを扱う本も出版されましたが、格差社会の実態にますます注目が集まるきっかけにもなりました。

高齢者運転への厳しい目

この他、加害者である運転者が高齢者だったこと、加害者が事故を自分の運転ではなく車のせいにする発言をしたことで高齢者の運転を規制するべきという議論も上がりました。加害者の発言が、「高齢者の歪んだ自信」と受け止められたようで、これまで以上の高齢者運転の規制を求める声も上がっています。

写真AC

高齢者運転は規制するべきか?

まず、高齢者の運転規制について考えてみましょう。実は高齢者ドライバーが運転技術について実態以上に高い自信を持っていることは心理学ではずっと知られていることでした。国際交通安全学会では2011年に特集号を出して継承を鳴らしています。

そのかいあってか、実は高齢者運転による死亡事故率は減少傾向になりました。高齢者ドラーバーの増加が予想されているので「事故“0”」を目指して油断はできませんが、現在の啓発や制度はある程度は機能していると言えるでしょう。無闇に規制すると地方都市では生活に支障が出ると言われているので、実態に合った施策が必要です。

なぜ加害者は車のせいにしたのか?

上記のような運転技術についての自信が背景にあると思われます。ただ、重大な事故において車のせいにできるのは他の理由もありそうです。私は高齢者の「認知的硬さ(認知バイアス)」、すなわち思い込みの激しさがあるように感じました。心理学では高齢者になると認知的硬さが激しくなることが知られています。

「自分の運転技術は問題ない」と思い込んでしまうことで、事故が起こっても自分のせいだと思いにくくなるのです。この事故の加害者の発言は、運転についての歪んだ自信と認知的硬さの相乗効果のリスクを明らかにしたように思います。事故の後に免許を自主返納した方が多いと報道されていますが、自分の抱えるリスクに気づいた高齢者の方も多かったのではないでしょうか。この事故を風化させないことで、第2、第3の事故を防ぐことが必要だと思われます。

“上級国民”優遇の疑惑

“上級国民”“下級国民”の区別や差別が実在するかどうかは判断が分かれるところですが、日本で格差社会が進行していることは間違いありません。特に経済的な格差が進行していることはT.ピケティの方程式で実証されているので、明らかな事実と言えるでしょう。私は過去に、T.ピケティの方程式を解説する投稿で、労働者は自分の労働に付加価値をつけることで格差社会の進行に対抗しよう…と提案しました。

仮に“下級国民”が存在して私自身がそれになったとしたら、私は自分の労働に付加価値をつける方法を考えるでしょう。そして、自分に可能な範囲で最大限の幸せな人生に向けて全力をあげると思います。

大事なことは、「上級か下級か」でも「資本家か労働者か」でもなく、「何かをすれば何かが起こる」という「自己効力感」を失わないことです。2020年はみんなが「自分にできること」を見失わずに、みんながより幸せになれるようにお互いに助け合いたいですね。2019年を良い教訓に幸せな2020年にしましょう。

杉山 崇
神奈川大学人間科学部教授・心理相談センター所長、心理学者・心理マネジメント評論家
脳科学と融合した次世代型サイコセラピーの研究やTV・雑誌などマスメディアでの心理学解説で知られる。

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杉山 崇
神奈川大学人間科学部教授

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