ソレイマ二司令官は英雄だったか?

2020年01月14日 11:30

米軍は3日、無人機を使ってイラクのバグダッドでイラン革命部隊「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を殺害したが、イランでは同司令官を「英雄」と見なし、司令官の出生地での葬儀には多くの国民が集い、追悼した。

ソレイマニ司令官の死を悼むイラン国民(2020年1月7日、ケルマーン市、IRNA通信から)

ここまでは理解できることだが、日本のメディアでは同司令官を英雄扱いで報じている点がみられるが、それはやはり行き過ぎといわざるを得ない。

同司令官はイラクばかりか、シリア、レバノン、そしてイエメンなどで親イラン派武装勢力を支援してきた人物であり、数多くのテロ襲撃事件の黒幕の1人だった。その意味でソレイマニ司令官は国際テロ組織「アルカイダ」の指導者ウサマ・ビンラディンやイスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)の指導者アブバクル・バグダティと同様、欧米諸国では危険人物だったことは間違いない。

同時に、同司令官をイラン国民が英雄視することに対しては異議申し立ては出来ないだろう。同司令官はイランの国益のため、という建前で武装活動を主導してきたからだ。

ここでは「英雄」という表現を少し考えるべきだろう。「英雄」も国や民族が変わればテロリストと見なされる。南アフリカのネルソン・マンデラ〈1918〜2013年)やパレスチナ民族解放機構(PLO)の指導者ヤーセル・アルファート(1929〜2004年)は自国では明らかに「英雄」であり、ノーベル平和賞も受賞した。ただし、両氏とも黒人を弾圧する白人政府やパレスチナと対抗するイスラエルにとっては明らかにテロリストだった。実際、前者は27年間、獄中生活をしている。

韓国の安重根が1909年、中国黒竜江省のハルビン駅で伊藤博文・初代韓国総監を暗殺したが、彼は韓国では「英雄」(義士)であり、朴槿恵大統領(当時)の韓国政府は2014年1月、中国側の支援を受けパルピン駅に「安重根義士記念館」を開設している。一方、日本側から見れば、彼は明らかにテロリストであり、それ以外ではない(「中韓の『記念碑』と『記念館』の違い」2014年1月22日参考)。

すなわち、「英雄」も国、民族が異なればテロリストとして受け取られ、警戒されるわけだ。同じことがソレイマニ司令官に対しても言えるだろう。ソレイマニ司令官は米国やイスラエルにとってテロリストのボスであり、機会があれば拘束するか、必要ならば殺害しなければならないターゲットだった。同司令官を「英雄」とみるか、テロリストとみるかはその判断を下す人間、民族、国家によって180度異なるわけだ。

問題は、客観的報道を標榜し、真実を報じると主張するメディアが、ソレイマニ司令官を「英雄だ」という観点からだけ報じるならば危険があるだろう。メディアの中には、トランプ米政権を批判するためにソレイマニ司令官殺害を利用するケースが見られる。米国の「自衛権の行使」という説明に、「差し迫った危険などはなかった」と反論し、予防的な自衛権はどこまで許されるかといった議論に集中する。ソレイマニ司令官が指揮した数多くのテロ活動を無視し、同司令官を殺害した米国側の犯罪を追及するわけだ。

ソレイマニ司令官はレバノンやイラク、シリアで親イラン派の武装勢力に武器を提供するなどを行ってきた。米軍から見れば、テロリストだが、米軍も紛争地では親米派の武装勢力に武器や情報を提供してきた。米軍の軍事活動が「自衛権の行使」であり、ソレイマニ司令官の活動がテロ支援活動だとは完全には言えないこともまた事実だ。

武力紛争の場合、状況は複雑であり、シンプルに「善」「悪」と言って識別できない。その結果、どうしても「両者は武装紛争を即ストップせよ」といった平和アピール的な記事になってしまうわけだ。

別の例を挙げる。アルカイダのテロ活動が活発化したことを受け、国連はテロ防止関連協定の作成に乗り出したが、加盟国が直面した最初のハードルは「テロ」の定義問題だった。何をテロ活動であり、何が民族の自主権を支援する民族解放運動かで意見が分かれた。「人権」問題でも同じだ。加盟国によって人権の捉え方、定義が微妙に異なってくるのだ。

メディアはソレイマニ司令官殺害問題を「英雄」と「テロリスト」の両面のバランスを取りながら報道すべきだが、どうしても一方の面を強調し過ぎる傾向が多い。

蛇足だが、読者に聞きたい。トランプ氏は指導力のある米大統領か、フェイク情報の多い不道徳な大統領か。前者か、後者か。トランプ氏は多分、両者を有した大統領だろう。明らかな点は、トランプ氏は米社会の“現状”を反映した大統領とはいえるのではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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