中韓の「記念碑」と「記念館」の違い --- 長谷川 良

アゴラ

中国黒竜江省のハルビン駅で1月20日、「安重根義士記念館」が一般公開された。初日は300人余りが訪れたという(安重根は1909年10月26日、中国・ハルビン駅で伊藤博文初代韓国総監を射殺し、その場で逮捕され、10年3月26日に処刑された)。

読売新聞電子版(20日)によると、「ハルビン市の出資で、駅の貴賓室に作られた約100平方メートルの館内には、朝鮮独立運動家となった安重根の生涯や、同駅で1909年に伊藤博文・初代韓国総監を暗殺した時の様子などを説明したパネルが展示された」という。


中国と韓国両国は反日で連携を一層深めてきたわけだ。同時に、反日の両国の間にも微妙な違いがあることが明らかになった。換言すれば、韓国の「記念碑」建立案と中国の「記念館」建設の相違だ。

安重根記念館の話は 韓国の朴槿恵大統領が昨年6月に訪中した際に、習近平国家主席に提案したものだ。習主席は当時、関係機関に検討を指示したと報じられた。

朴大統領の提案の段階では、「安重根記念碑」の建立だったが、中国側が一方的に“格上げ”して「安重根記念館」を建ててしまった。

韓国側は、中国が記念館を建立すると知った時、少なからず驚いたはずだ。もちろん、「どうして記念碑ではなく、記念館を建てたのか」といった野暮な質問はしなかっただろう。韓国の聯合ニュースによると、同国外交部当局者は20日、「韓国政府はハルビン駅に安義士の記念館が開館したことを歓迎し高く評価する」とコメントしている。

記念館開設のニュースを聞いたとき、当方は「中国らしいやり方だ」と感動すら覚えた。中韓両国は反日政策で一致しているようだが、当然のことだが、戦略と国益では微妙に違いがあるということだ。

韓国側は日本に「正しい歴史認識」を要求してきた。日本でテロリストと言われている安重根の記念碑を中国の地で建立できれば、大きな外交勝利だ。その目的のためには、経費や土地、異国の地などの諸般の事情を考慮すれば、記念碑で十分という計算があったはずだ。だから、朴大統領は「記念碑でも……」と打診したわけだ。

一方、記念碑ではなく、記念館を建立した中国は国民に反日と愛国主義を鼓舞する機会として利用できる。記念碑では通行人が見落として通過するだけで国民に十分アピールできない。その上、安重根の名前を知っている中国人は余り多くない。だから、国民に説明しなけれならない。それには記念碑では難しい。文献やパネルなどを掲示する記念館がどうしても必要だ、となったわけだ。

韓国側は中国の「安重根記念館」建立に感謝を表明しているが、中国側の連携と過大な対応に一抹の不安を感じているのではないか。反日政策で中国に主導権を握られ、利用されるのではないか、といった恐れだ。

中国共産党政権の反日政策は戦略的であり、状況が変われば安易に放棄できる。一方、韓国の場合、感情的で長期的戦略に欠ける。だから、両国の反日連携は決して盤石な土台に立っているわけではないのだ。

ちなみに、安重根は当時、その著書「東洋平和論」の中で中華思想の驕りを批判している。韓国人の中国に対する歴史的な警戒心は消滅していないのだ。

なお、菅官房長官は20日午前の記者会見で、「安重根はわが国の初代韓国総監の伊藤博文を暗殺したテロリストであり、犯罪者だ」と従来の主張を繰り返し、テロリストの記念館開館というニュースに最大級の抗議を表明している。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。