生徒に「足切るぞ」発言の教師に擁護の声が出る理由

2020年02月23日 06:00

問題教師に対する擁護の声の謎

教師は労働者か、はたまた聖職者たるべきなのかを巡る論争があります。が、そうした論争は脇に置き、本稿では思い切って単純化し、労働者型の教師を「安定した給与と短い労働時間を求める教師」、聖職者型を「時間効率を無視し、生徒指導に多大なリソースを投入する教師」と仮定し、話を進めてみたいと思います。

もちろん、ここまでシンプルに割り切ることによる弊害はありますが、単純化することで問題の要所がくっきりと見えてきます。また、このような教師が一定数存在することは、多くの方々に共感いただけると思いますので、それほど現実から乖離した仮定でもないかと思います。

夏男/写真AC:編集部

さて、小学校4年生のクラス担任の教師が、指導に耳を傾けない生徒に対し「足切るぞ」と、ノコギリを持ち出し発言したことが問題になっています。字面だけ見れば単なる問題教師にしか思えませんが、どうやらそうとも言い切れないようです。

参考記事:生徒に「足切るぞ」教師の真相 地元からは擁護の声(デイリー新潮)

擁護の声が本当だとすれば、この教師は聖職者とまでは言わなくとも、どうやら良い教師であり、労働者型の教師ではないのでしょう。しかし、問題発言の部分だけ切り取ってみると、労働者型どころか大きな問題を抱えた教師にしか見えません。

聖職者だからこそ問題が起きる

まず確認したいことが、労働者型の教師であれば、今回の問題は生じなかっただろうということです。何せ、彼らの目的は長期安定的に給与をいただくことであり、しかも身分は公務員です。よほどの下手を打たない限り目的は達成されます。

そして、その「よほどの下手」のひとつが、生徒に対する体罰・暴言・セクハラの類であることは周知の事実。たとえ言うことを聞かない生徒がいたとしても、そんな生徒は放置しておけばよいわけです。下手に指導をしようとすれば、災いが自分に降りかかってくることは容易に想定できます。

他方、ビジネスパーソンであれば、「聞く耳を持たず、しかも他生徒の学習機会を阻害する生徒に対しては出席停止を命じればよい」と考えるでしょう。優秀なビジネスパーソンには、限られた時間のなかで効率よく目的達成を目指すという行動習慣(エートス)が備わっているはずですから当然の発想です。

ところが、聖職者型の場合そうはいきません。どれほど多くの時間・労力をかけてでも最良の結果が得られるよう努力を重ねる行動習慣(エートス)があるため、ある生徒を出席停止にするという、ベストではないベターな解では納得しえないわけです。

「学校教育に法はなじまない」とする意識が学校現場に根強いことや、保護者からのクレームに学校が過敏になっていること等の諸事情も考慮に入れると、出席停止制度が実態に即して運用されていない理由が見えてきます。

最良の結果を求めるには過酷すぎる環境

こうして、無理難題とも言える課題に立ち向かうわけですが、そんな教師を取り巻く環境はあまりに過酷です。

まず、教育基本法が掲げる高邁且つ抽象的な教育の目的に難があります。基本法第一条は「人格の完成」を目的として掲げていますが、その意味に関して確たる定説が存在せず、極めて幅広く解釈が可能であるため、あたかも生徒に関するあらゆることが目的(≒教師の仕事)と見なせてしまいます。

労働者型の教師であれば、この目的は無視するでしょうが、聖職者型であればそうもいきません。学業はもちろんのこと、生徒の心身の成長・健康管理・人格形成等々といった、文字通りありとあらゆることに目配せをすることになります。

また、教員採用試験の倍率低下から推測できる教師の能力の低下、年々失墜する教師の権威、膨らみ続ける仕事量といったことを考慮すると、いくら優秀で強い使命感を持っている聖職者型の教師と言えども、最良の結果を得るという目的の達成は難しい。そんななか、無理にでも目的を達成しようとすれば、何らかの問題なり矛盾が生じることは容易に想像ができます。

暴言や体罰といった行き過ぎた指導は、無理をしてでも目的を達成しようとして生じた結果とも考えられ、それ故に「聖職者のような良い教師」と「明らかな問題行動をする教師」は両立しうるわけです。

低くて狭くて具体的な目的を

教育基本法が掲げた教育の目的が典型的ですが、どうしても教育の目的を決めるとなると、高邁で広範で抽象的なものが完成しがちです。しかし、そうした目的は、過大な要求と責任を聖職者型の教師に押し付けてしまいます。その結果、聖職者型の教師が問題行動を起こしたり、精神的に病んでしまったりしたら、生徒はもちろんのこと社会にとっても損失でしかありません。

現下行われている業務量を減らそうとする試みも重要ですが、その多大な仕事をもたらしている遠因である教育の目的についても、抜本的なメスを入れるべきではないでしょうか。

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