フィンランドの機関が新型肺炎による中国の景気減速状況を分析

日本のみならず、少し前に文大統領が楽観的な見通しを述べた矢先の韓国でも一日にこれまでとほぼ同数の100人を超す感染者を出すなど、中国以外でも広がりを見せる新型肺炎だが、震源地中国の20日時点の状況は、累計感染者75,465人、累計死者2,236人に上るとのことだ。

新華社サイトより:編集部

必需品のマスクを始め、野菜などの食材やレジ袋から自動車部品に至るまで、中国産品の欠品があちこちで見られるようになり、我が国の日常生活がいかに深く中国に依存してしまっているか、カントリーリスクなるものを改めて思い知らされる(諸外国もきっと同様だろう)。

トランプ大統領が登場して以来、Make America Great Again! をスローガンに国内製造化を推進して来た米国が成果を得つつあることは、それを大統領自身が繰り返し強調した今月初めの一般教書演説原稿を、民主党のペロシ下院議長がビリビリと破いたことからも知れる。

様々な惨禍を世界中に撒き散らす中国がこの件では、貧しい気の毒な農民から習主席に至るまで苦境にあることは、一月初めに対応を指示していたなどとする改竄文書?を習主席が公表したり、全人代の中止が囁かれたりしていることからも窺え、筆者は共産党体制崩壊?などという期待をついしてしまう。

20日のAFPが、その中国のここ最近の状況を産業の諸データによって分析した研究論文を、フィンランドの研究機関「CREA」が公表したと報じたので、それが掲載された英国の環境問題専門サイト「Carbon Brief」を当たってみた。以下にその要点を紹介する。

研究論文は「分析:コロナウイルスは、中国のCO2排出量を一時的に4分の1削減した」と題され、冒頭はこう書き出されている。(以下拙訳。図表は割愛)

中国が今世紀で最も深刻なウイルス流行のひとつと戦うに連れ、同国のエネルギー需要と排出量に影響が出始めた。この2週間の、以下を含む電力需要と工業生産高の様々な指標が通常レベルを遥かに下回っており、多くがここ数年で最も低い。

  • 発電所での石炭の使用は4年間で最低の日次データを報告
  • 山東省の製油所の稼働率は2015年以来の最低水準
  • 主要な鉄鋼製品ラインの生産量は5年間で最低水準
  • 中国上のNO2大気汚染のレベルは前年同期から36%減少
  • 国内便は前月比で70%まで減少

ウイルス封じ込めにより、主要産業の生産量が15%〜40%減り、過去2週間のCO2排出量が25%以上減った可能性がある。通常なら旧正月の後に活動が再開される期間だ。中国は19年の同期間に約4億トンCO2を放出したので、今回のウイルスが世界のCO2排出量を100億トン削減した可能性がある。

福州市にある工場で、マスク姿で作業する従業員(新華社サイトより:編集部)

この危機に対する中国政府の対応により、その影響が続くのか、相殺されるのか、または反転するのかということが重要だ。IEAとOPECの当初の分析は、ウイルス流行の影響が今年の1〜9月に世界の石油需要を半減させると示唆した。

「閉鎖された国」の項にはこうある。

例年旧正月にこの国は1週間閉鎖され、その前夜から10日間で石炭火力発電は50%低下する。今年はエネルギー使用量の減少が10日間延びて、今のところ回復の兆候がない。これは政府が流行を抑えるため休日を延ばしたことによる。

2月3日からの2週間で発電所の石炭消費量は4年ぶりの水準に低下、16日を含むデータに回復の兆しはない。石炭港Qinhuangdaoの取扱量も16日までの2週間は4年間で最低水準。山東省の石油精製所稼働率は15年秋以降の最低水準に落ち、石油の需要見通しの大幅低下を示している。

石炭火力、高炉、コークス、鉄鋼製品、製油所などの指標は、再開される10日からさらに悪化した。例外は旧正月とその後も稼働し続けた一時鉄鋼生産。他方、需要により近い鉄鋼製品生産は25%減り5年間で最低で、需要が急回復しない限り高炉も止める必要がある。

大気汚染物質NO2の衛星測定では化石燃料の使用量減少が確認される。20年の旧正月の翌週の平均レベルは19年の同時期より36%低かった。

「需要側の影響」の項はこうだ。

短期的影響は大きいが長期的影響は限られる可能性がある。エネルギー消費と排出量が2週間で25%削減されても、年間数値は約1%の減少に過ぎない。中国のCO2排出産業の生産能力は大きな過剰を抱えている。需要があれば生産量と排出量は急速に追いつく。

化石燃料の影響は需要減少による。例えば2月の自動車販売は、既に落ち込んでいた昨年を30%下回ると予測される。賃金未払いなどにより消費者の需要が減少した場合、生産能力と化石燃料の使用量は、回復する可能性も回復しない可能性もある。

操業を再開した北京ベンツの工場で働く従業員(新華社サイトより:編集部)

エネルギー消費はエネルギー集約型の産業と貨物に大きく支配され、住宅と商業用の電力や自家用車などの影響は比較的小さい。先週、北京は今年の2回目の深刻なスモッグを経験した。車が走らずビジネスも閉鎖されたのに汚染がどこから来たのか? 稼働し続けた高炉とボイラーの一部しか閉鎖しなかった発電所からだ。

需要側で最も深刻な問題は、建設活動へのウイルスの影響だ。数日または数週間にわり移動制限、強制自宅検疫その他の措置の影響を受ける出稼ぎ労働者に依存しているため再開は簡単でない。

この影響を決定する重要要素は物事が通常に戻る速度。現在、北京は地方政府に対し経済回復に集中するよう促している。習主席自ら、震源地の湖北省以外でのウイルス対応が行き過ぎていると、経済への損害を警告し、より制限的な措置に注意を払っていると伝えられる。

が、地方は移動の管理をさらに厳しくし続けており、企業の閉鎖継続を奨励している。このことは数日または数週間余分に経済を氷上に保つことよりも、新たな大感染源になることを懸念していることを示唆している。

企業や地方や家計が多額の負債を抱えているので、広範な金融混乱の可能性は明らかだ。キャッシュフローの不足は債務返済を不能にする可能性が高く、金融メディアCaixinはウイルスを中小企業の脅威と呼んでいる。企業が長期支出を賄うために短期の負債を引き受ける慣行でさらに悪化している。

航空業界にも劇的な影響を及ぼし、データ会社OAGは1月20日からの週と比較して、過去2週間で中国出発便が50〜90%減少し、国内便が60〜70%減少したとする。これらは18年の旅客航空のCO2総排出量の17%を占める。

最後に「政府の対応」の項。

北京指導部は金融リスクを強く認識しているようだ。銀行にローン延長を求め、地方に企業の家賃その他のコストを削減するよう要求し、証券会社に株価を維持するよう要求するなど、即時の介入を超えて、強力な経済政策対応が形成されている。

中国の経済政策立案の基本的公式は、個人消費と純輸出の予想成長率を採用し、GDP成長目標からそれらを差し引くことで、残差は目標を達成するために必要な負債主導の投資支出の量だ。

これら3つのGDP構成要素のうち、鉄、セメント、非鉄金属、ガラスその他の基本建築材の製造に使用されるエネルギーにより、投資は圧倒的にCO2集約的だ。中央政府が消費と輸出に関する悪い見通しを補うとすればCO2排出量が増加する可能性がある。

借金で刺激された支出への回帰は、消費に向けて経済を再調整するという政府目的に反する。今年のGDP成長目標を緩めると様々な目標を調整するための余地が増えるが、習主席は「現在」の目標に固執する必要があることを示唆している。

クリーンエネルギー部門は、非化石エネルギー源と電気自動車への投資が19年に減速したため大きく下回っている。新たに設置された風力発電容量は4%減少、太陽光発電容量は53%減少、水力発電は53%減少、原子力は31%増加した。電気自動車の売上は、昨年7月〜11月の期間で前年比32%減少した。

以上、最後は環境問題サイトらしく再エネが大きく後退し、原発が増加したことを嘆じている。が、景気が大きく減速すれば、我が国でもそうせざるを得ないであろうことを予測させる数字ではある。