鈴木敏文氏とセブンイレブン

岡本 裕明

2月3日号の日経ビジネスに鈴木敏文氏への編集長インタビューの記事があります。セブンを実質的に離れても同事業のことを愛をもって見ています。とても良い内容でした。私も鈴木氏退任後のセブンイレブンが起こした数々のつまづきに厳しいコメントを書かせて頂いたかと思います。それはなぜ、鈴木氏がいなくなるとこうも変わってしまうのか、という恐怖を感じたのです。

(鈴木敏文氏 セブン&アイ・ホールディングスHPから:編集部)

(鈴木敏文氏 セブン&アイ・ホールディングスHPから:編集部)

日本ではカリスマ性のある創業者や指導者の引退がささやかれる企業がたくさんあります。一方、多くのそのような指導者たちは自分が去った後の道をどう形作っていくのか、思案に暮れています。そのような意味からもそのインタビュー記事の中でいくつか、気になったポイントを拾ってみたいと思います。

1つ目は24時間営業を同社のみならず他社も含め次々と見直していることへの懸念です。「コンビニは24時間営業を中核としているのに、ちょっと人がいなくなった途端にやめましょうというのはおかしいと思うんです。人手がなくても店舗運営できるような形をどうして考えないのか。人件費が上がったから24時間営業の店は全部なくなっているのかといえば、そんなことないですよ。もっと発想を変えて、変化対応しなければなりません」。

個人的には24時間営業が中核というのは時代の進化を汲み取っていない気がしますが、人手がいないから止めるという単純判断への抵抗は同意します。私が24時間営業の駐車場を運営していた際に立ち上げたレンタカー事業は従業員がいつでもそこにいるというメリットを流用した派生ビジネスでした。ところが駐車場管理の業務が契約満了でなくなった際、レンタカー事業も消えるのか、という時、私はレンタカーの無人営業を思いついたのです。先日、レンタカー事業は売却しましたが無人営業を4年半させて頂きました。これが極めて効率的かつ機能的で顧客にも好評だったのです。

私が鈴木氏なら同様に深夜の無人営業の工夫をしたでしょう。創業者の事業への執念とはそういうところからくるのです。ところが集団合議制になると民主的に過半数が勝ちになってしまいます。鈴木氏が常に敵との戦いだったように経営の答えに過半数なんてないのです。10人の中のたった1人の意見が正解だったような話も過去、ずいぶんあったと聞いています。

コンビニ飽和論についても鈴木氏は一蹴していて「店がたくさんあるから問題だとはお客さんは言わないでしょう。量で考えるということは、その質が同じだということ。しかし弁当やおにぎりも、接客も、店ごとに全部違うんです」と述べています。つまり同業他社のみならず、自社を含めた差別化をしなかった現経営陣に問題があるということです。

鈴木氏が君臨したコンビニは時代とともに形を変え続けてきました。ところが同氏が抜けて巨大な組織だけが残ったというのが現状でしょう。

極めつけはセブンペイの失敗の件。「各社の狙いは自分のところにビッグデータを蓄積することでしょう。しかし、過去のデータを本当に活用できている企業はどこがありますか。データが必要だとコンサルタントか何かに適当に言われているのかもしれません。しかし、特に変化に大きく対応していかなくちゃいけない我々のような業種では、一番必要ないものだと思います」とバッサリ。

氏の言いたいことはビッグデータとは過去の統計であって変化が激しいこの時代に将来を予想するものではないのだからそんなシステムは誰か他人にやらせておき、セブンは将来の変化を先取りするビジネスに注力すればよいのだということかと思います。

経営には色があります。かつてトヨタには色がないといわれました。しかし、豊田章男氏になり将来の自動車を強く意識するようになり見る目が変わりました。ユニクロはなぜ強いのか、私はあれは衣料ではなく、技術なのだと思っています。柳井氏はアパレルを先端高性能商品に変えたことに意味があるのです。日本電産の永守重信‎氏の昔に出版された自叙伝にはモーター需要は増え続け、廃れることはないとあります。今でもその道を驀進しています。つまりどの経営者も強い信念、粘り、そして指導力なのです。だから前澤友作氏のいないZOZOはその辺のオンラインストアとなんら変わりなくなってしまったのです。

カリスマ亡き後の経営は新カリスマを作るしかないのです。経営に集団合議制などなく、圧倒的指導者を見つけられなければ会社分割をしてでも核だけは守る、そんな経営体制にするしかないと思います。そのようになる人を育てるには、都会育ちのボンボンじゃできないと思います。それが故にアジアなどの新興企業に日本企業はやられてしまっているのではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年3月2日の記事より転載させていただきました。