アメリカの金融市場で新型コロナとの総力戦が始まった

2020年04月14日 06:01

アメリカの新型コロナの感染者数と死者数がついに世界一になった。中国については統計が信頼できないので、本当にアメリカが世界一かどうかわからないが、いずれにしてもアメリカは国を挙げての新型コロナとの総力戦になっている。

そして金融市場においても、アメリカはいよいよ新型コロナとの総力戦に突入した。

ニューヨーク証券取引所FBより:編集部

これまで連邦準備制度(Fed)は、3月3日に政策金利を0~0.25%まで引き下げて、景気の落ち込みに備えていたが、3月半ば以降アメリカでも新型コロナの感染者数の拡大が加速度をつけてくると、状況が一気に緊迫化した。

新型コロナがどれだけ経済に影響を及ぼすか、またこれがいつまで続くかまったく見通せない中で、将来に不安を持った金融機関や企業や個人が、資金の貸し借りを行うすべての市場で一斉に資金を引き揚げようとしたためだ。

これを放っておくと、たとえ優良な企業のものであっても社債やコマーシャルペーパーなどが投げ売りされて暴落する一方、それらで資金調達をしていた企業などは窮地に陥ってしまうこととなる。

このためFedは、リーマンショック後に行ったQE(量的緩和政策)を事実上再開し、向こう数か月間に市場から国債を5000億ドル(約54兆円)、不動産担保証券を2000億ドル(約21.6兆円)買い入れして市場に資金を供給することとしたが、3月23日にはそれでは生ぬるいと、市場の機能が正常化して金融政策の効果が広く行き渡るようになるまで必要な限り無制限に買うことを宣言し、また買い入れ対象に商業用不動産担保証券も含めることとした。

そしてこれ以外にも大手証券会社に融資したり、銀行に対する自己資本規制や流動性規制などの健全性基準を緩和して融資の拡大を促したり、中小企業や州・市などの地方政府のための資金提供の仕組みを作ったりと、考えられるありとあらゆる資金供給手段を用意している。

その中でとりわけ注目されるのは、Fedが企業の社債やコマーシャルペーパーを特別目的会社を通じて購入することだ。

銀行の銀行であるFedが、銀行以外の一般の企業に直接融資したり社債などを購入することは異例中の異例のことだ。

しかも3月23日にこの措置が発表されたときは、購入対象の一つであるETF(上場投資信託)は、投資適格の社債を組み入れたものだけにするはずだったが、4月9日には非投資適格(ジャンク級)の社債を組み入れたものでもよいとするなど、なりふり構わない政策をとるようになった。

パウエルFRB議長(Federalreserve/Flickr:編集部)

ジャンク級のものを組み入れたETFまで買ってFedは大丈夫かと思われるが、そこは先に政府が決めた2.2兆ドルの財政支援策の中から、Fedに損失が出た際は政府が一定額まで補填ができるようになっている。

つまり政府とFedが一体となって、金融システムの崩壊を止めようとしているのだ。ここでは中央銀行の独立性などみじんもない。背に腹は代えられないのだ。

また、この措置は企業のモラルハザードと言う大きな問題を抱えているが、これもFedは無視しようとしている。

過去10年あまり、リーマンショック後の超金融緩和が続く中で、レバレッジド・ローンと呼ばれる資金調達手段が隆盛を極めた。信用度が劣り投資不適格な企業に対して銀行はローンを供与し、それを証券化して様々な投資家に売りさばいた。

このレバレッジド・ローンで資金を調達した企業はその資金を企業買収のほか、株価を引き上げる効果がある自社株買いや配当の支払いに使った。自社株買いや配当の支払いは株主やストックオプションを持つ経営陣等の利益にはなるが、設備投資や研究開発のように会社の長期的な発展には役に立たないものだ。そもそも借金をして配当を支払うというのは、アメリカでは様々な理屈が付けられて正当化されているが、常識的に考えておかしいことだ。

今、このレバレッジド・ローン市場も崩壊の淵に立たされ、今回のFedの救済の対象となったが、これではやった者勝ちの世界で、まさにモラルハザードの見本のようなものだ。しかし、Fedはそれを十分承知の上で救済しようとしている。それだけ、今は危機的状況だということだ。

4月9日にFedが発表した一連の市場救済策は2.3兆ドル(約248兆円)の規模だと言われているが、果たしてこれで市場の荒波は鎮まるだろうか。やや古い数字になるが、昨年5月にFedが公表したレポートではアメリカの事業者向け信用供与総額は約15兆ドル(約1620兆円)にのぼるという。

Fedは今後さらなる手を打つ必要が生じるかしれないが、残された手段に大したものはない。果たしてこの新型コロナとの戦いにアメリカのFedと財務省は勝利を収めることが出来るのか、戦いの先行きは全く不透明だ。

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有地 浩
株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

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