極右派はアンチ・マスク傾向が強い?

長谷川 良

独週刊誌シュピーゲル最新号(8月14日)の表紙タイトルは「マスク・ドラマ」(Das Masken-Drama)だ。副題は「マスクは煩わしく、ウェットだが、我々の唯一の希望」だ。新型コロナウイルスの感染が拡大して以来、マスクは必需品となってきた。

ドイツでは感染当初の3月中旬、マスクの効用に対して政治家ばかりか、ウイルス専門家の間でも意見が分かれていた。メルケル政権、保健省ばかりか、ベルリンの世界的なウイルス研究所のロベルト・コッホ研究所は3月末段階、マスクの効用に対して懐疑的だった。それがウイルスの感染拡大を受け、ロックダウンが実施され、ドイツ全16州でマスクの着用が義務化されていった。

ただし、学校で生徒たちが授業中もマスクを着用するかどうかでは州によって対応が異なっている。

▲独週刊誌シュピーゲルの最新号の表紙「マスクドラマ」

▲独週刊誌シュピーゲルの最新号の表紙「マスクドラマ」

マスクの効用については香港のウイルス研究者が手術用のマスクを着用すれば、直径100nm(ナノメートル) から最大200nmのウイルスが咳で飛んできた場合(飛翔感染)や無接触感染(エアロゾル)でも感染防止できるという研究結果を発表したこともあって、欧州でのウイルス研究者の間でもマスクの効用では一応、コンセンサスが築かれていった。

ちなみに、プレキシガラス(Plexiglas)は飛翔感染を防止できても、空気をフィルターできないので、エアロゾルを防止できない。そこでマスクの必要性が出てくるわけだ。

マスクの効果というべきか、ドイツで感染ピークが過ぎたことを受け、ロックダウンは解除され、経済活動も段階的に再開し、観光シーズンを迎え、旅行も認められた。

しかし、新規感染者数がここにきて再び増加傾向が見られる。ソーシャルディスタンスが取れない状況ではマスク着用の義務は維持されてきた。シュピーゲル誌は「マスクは危機のシンボル」と表現している。

ちなみに、ドイツ連邦政府は来年末までFFP2、FFP3、そしてKN95のマスク17億枚、手術用マスク42億枚を既に確保済みだ。政府は今年6月初めまでにマスク購入のために約70億ユーロを拠出している。

シュピーゲル誌で興味深い統計が掲載されていた。ドイツでは右派政党支持者はショッピングや公共運輸機関の利用の際のマスク着用には他の政党支持者より強い抵抗があるというデータだ。調査は7月21日から22日の両日1064人を対象に実施された。

質問は「マスク着用に慣れたか」「マスク着用は難しいか」だ。その結果、「同盟90/緑の党」と与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)の支持者は87%「慣れた」と答え、「社会民主同盟」(SPD)支持者は86%とそれに次いでいる。

それに対し、リベラル派政党「自由民主党」(FDP)支持者は「慣れた」という答えは65%と低く、極右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の場合、さらに55%と下がる。

極右、右派系の政治家や支持者は他の政党・支持者よりマスク着用に抵抗が強いのはドイツだけのトレンドではない。例えば、トランプ大統領やブラジルのボルソナロ大統領は土壇場になるまでマスク着用を頑固に拒否してきた。

トランプ米大統領は7月20日、マスク着用を国民に訴え、「ソーシャル・ディスタンスが取れない場合、マスクを着用することは愛国的だ」とツイッターに投稿して改心し、ボルソナロ大統領(65)は7月7日、新型コロナウイルスに自身が感染してしまった。

ボルソナロ大統領は新型コロナの感染が広がり出した時、「インフルエンザに過ぎない」と一蹴し、「私はスポーツで体を鍛えてきたから、感染しない」と豪語して、新型コロナがブラジルに拡大した後でもマスクの着用を拒否したため、裁判所からマスクの着用を強制されたほど頑固な大統領だ。

マスク着用を拒否してバスや地下鉄運転者と口論となり、注意するバス運転者を殴打するといった暴力事件が頻繁に起きている。シュピーゲル誌は「マスク着用云々が不祥事や暴力事件の主因ではない。マスクはあくまでもその切っ掛け過ぎない」と指摘し、新型コロナの感染防止への規制処置などで多くの国民は活動を制限され、経済状況が厳しくなって、フラストレーションが高まっている」と分析している。

実際、スペイン風邪(1918年)の時も欧州ではマスク論争があったという。マスク着用の義務化反対者の中には「国民の不安を維持するためにマスク着用を恣意的に義務化している」と受け取っている者もいる。

規制緩和され、ショッピング通りには多くの人々の姿が見られだしたが、「日常必需品への需要は戻ってきたが、大きな買い物は控える国民が多い」という。未来への見通しがはっきりしないコロナ時代、国民は大金を投資することに躊躇しているわけだ。

小売業界関係者は「客は店に入ると、直ぐに見て直ぐ出ていく傾向が強い、マスクの着用は買物欲、消費欲を制限している」と受け取る。ただし、衣料品ブランチでは「マスクがネクタイのようにモードのアクセサリーとなってきた」と歓迎する声も聞かれる。

マスクを着用すれば、その人の表情が見えにくいが、「マスク着用でも相手の喜び、悲しみ、シンパシーなどの感情を読み取れる新しいコミュニケーションが生まれてくるかもしれない」という意見もある。

新規感染者の多くは若者が多い。彼らは無症状で、本人も分からないから、軽率な行動に出る場合がある。若者たちが忘れてはならないことは、高齢者や病気を抱えた人々が社会に生きているという事実だ。彼らを感染から守るという意味からマスクの着用が重要だ。

マスクは本来、相手を感染から守るのが目的だ。その意味でマスク着用は非常に利他的であり、人道主義的な愛の表現だ。「自分も相手もマスクを着用すれば、両者が感染から守られる」といった人がいた。効率的利他主義だ。

マスクは現代人に新しい生き方を教えてくれる教材だ。とすれば、私たちにはもう暫くマスクの着用が必要となるかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年8月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。