いじめ防止対策推進法と文科省調査が招く「いじめ問題」の泥沼化

ぱくたそ

文科省が毎年行っている「問題行動・不登校調査」の2019年度の結果(速報値)が22日に公表され、全国小中高校等のいじめ認知件数も明らかになりました。

いじめ認知件数、最多の61万件超 浮かぶ対処の遅れ 19年度(毎日新聞)

この結果(数値)だけ見ますと多くの方は、

「いじめがますます増えていて深刻な状況だ!」

「学校・教師はいじめをなくすため、啓蒙や早期発見にもっと真剣に取組むべきだ!」

「いじめをした加害者への処罰を厳しくするべきだ!」

といった感想を持たれたかもしれません。

ところが学校現場で数多くのいじめに直接対処してきた筆者の経験からしますと、見方は大きく異なります。数字に一喜一憂することでいじめ問題の本質を見失うことになりますし、そもそも、いじめ防止対策推進法や文科省のいじめ調査自体に欠陥・問題があると言わざるを得ないのです。

単刀直入に言いますと、いじめは法律(いじめ防止対策推進法)ではほとんど解決できません。特にいじめの当事者以外の方は、なぜ国の定めた法律に問題があるのか、「いじめ」を法律で規定し解決することが極めて難しいのか、理解しにくいかもしれません。

FineGraphics/写真AC

そこで一般市民の方にもわかりやすいように、設問形式で疑問点を指摘します。

まず「いじめ防止対策推進法」に書かれている定義を記しておきます。

いじめの定義:心理的又は物理的な影響を与える行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの

疑問A:次のケースにおいて、いじめの認定判断、対処はどうしたらよいのか?

ケース① 第三者から見て具体的ないじめ行為を受けたとみられる子供が、全く心身の苦痛を感じていない場合は?

ケース② 先にいじめ・からかいをした子供が相手から反撃を受け、逆に心身の苦痛を感じた場合は?

ケース③ 被害妄想的、強迫神経症的な子供が、いじめの明確な証拠を示せない中、相手に心身の苦痛を感じたと訴えた場合は?

ケース④ いじめの加害者と名指しされた子供が、別の子供からいじめを受けていた被害者でもあった場合は?

ケース⑤ いじめの確証(具体的な証拠)が得られず、加害者とされた子供や保護者が絶対に認めない場合は?

ケース⑥ いじめの被害を受けたと先に校外(教委やマスコミ)に訴えた側が、加害側?を執拗に攻撃し、加害者?(子供)に心身の苦痛を与えた場合は?

(*いずれも筆者が実際に経験したケースです)

疑問B…いじめ事件報道時、よく学校(教師)が批判される理由である「教委や文科省への報告がなかった」の問題点

  • 報告をしたら文科省は直接解決や指導をしてくれるだろうか?

(実際に具体的支援はない → 形式的な報告ではいじめは解決できない)

  • 報告しなかった=いじめを隠ぺいした ことなのか?

a  現実にいじめが確定しない段階で報告できるのか?(事実誤認等による名誉棄損・損害賠償等のリスク)

b  上記ケース①~⑥のような場合、即断で報告できるのか?(事実誤認等による名誉棄損・損害賠償等のリスク)

  • 報告しない義務(法律)違反に批判が集まるが、上記ア・イから報告することのデメリットもあるのではないか?

疑問C…「重大事態(a 生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑い  b 相当の期間

学校を欠席することを余儀なくされている疑い)」について、速やかに認定・判断、対処はできるのか?」

  • 抽象的な表現である「重大な被害が生じた疑い」を、誰がどのように判断・認定するのか?
  • 不登校理由が様々ある中「相当な期間学校を欠席する」について、誰がどのような根拠で「重大事態」と判断・認定するのか?

ウ.「重大事態」の定義や対処法(組織編制、保護者への情報提供等)を明記したため、被害者側は認定に固執しやすくなるが、ア・イのように判定が難しく、加害者側と被害者側・学校との対立が先鋭化しないか?

(すでに裁判訴訟に至るケースも起こっている)

なぜいじめの解決が一筋縄ではいかないのか? なぜいじめ防止対策推進法(定義の明文化等)や文科省のいじめ調査自体が問題なのか? 少しは伝えられたでしょうか?

手前みそになりますが、拙著「いじめの正体――現場から提起する真のいじめ対策」(共栄書房:和田慎市)では、こういった法律や文科省の問題、いじめの実態、実際の対処事例、具体的ないじめ対策法などについて詳しく記載していますので、興味のある方は一度ご覧ください。

要するに「いじめ問題」は報道記事・ニュースのような単純な「善悪二元論」では語れず、法律で杓子定規に対処するのが難しいことを、当事者として身にしみて感じているわけです。

では「いじめの被害を受けても泣き寝入りなのか? 」と不安がられるかもしれませんが、実被害(精神面も含め)のあるいじめは、ほとんど現行の刑法等で対応できることを、筆者の過去ブログに記載しています。

いじめ被害への対処はどうしたらよいか?

つまり、何でも「いじめ」と一括りにしてしまったことに問題があり、具体的な言動に着目すれば、既存の法律(刑法等)でほとんど対処できるのです。

また、いじめの約9割は犯罪に至らないような「からかい」「無視」などの言動であり、いじめにあたるかどうかにかかわらず、学校では以前から当事者間(子供、教師、保護者、カウンセラー等)で解決にあたってきました。

調査結果に一喜一憂する姿勢は、学校現場(子供・教師・保護者)を益々疲弊させてしまいます。

「いじめ問題」で大切なことはいじめかどうかの認定ではなく、教師や保護者など関係者が、子供たちのトラブルを早期発見後迅速に対処し、人間関係の修復や心のケアを行い、自己解決力のあるたくましい大人に成長させることではないでしょうか?