企業広告の乱用にすがる前代未聞の日経新聞

2020年12月19日 06:00

AH86/iStock

全国紙の中では、日経新聞はまともな新聞だと思ってきました。それが今週、無残に打ち破られました。記事と広告ともとれる企業広告・特集を満載する前代未聞の編集方針が異様です。新聞離れを自ら招いているのに等しく、日経の経営者に猛省を求めます。

一年以上、前からでしょうか。企業シンポジウムとか国際会議特集とか、やたらとシンポジウムもの、会議ものの大特集が何ぺージも組まれるようになりました。一般読者は恐らく誰も読まない。担当記者か、参加したパネリストかスポンサー企業の担当者だけが読むのでしょう。

日経の役員にそのことを指摘しますと、「とにかく新聞広告が集まらない。やむなくこの種の広告で食いつつないでいる」との返事でした。広告収入欲しさの誘惑に負け始めたのか。コロナ危機以前の話です。

コロナ危機に突入して、社会構造やライフスタイルの変化に加え、不況が長引き、企業のPR戦略も様変わりなのでしょう。程度の差で済むのなら、日経にも同情の余地が残されていました。

それが今週、一気に怒りに変わりました。はっきり気がついたのは、15日(火)の日経紙面を見た時です。1面、2面、3面と読み進んでいくつれ、「これは異変だな」と思い始めました。20、21面に「DXの地平/岐路に立つ日本」という全頁特集が目に飛び込んできたのです。

デジタルトランスフォーメーション(DX)のことです。特集の文頭に「世界規模で広がるDXがビジネスや社会を一変しようとしている。遅れをとる日本は今、岐路立たされている」と、あります。

欄外に「全面広告」の表示がありますから、編集記事を意味する「特集」ではなく、スポンサーの意向を優先する「広告」です。一般記事のようなスタイルで客観・中立を装い、実はスポンサーの主張を読者に刷り込む手法です。「編集と広告」の境界線を曖昧してしまう。

冒頭に河野行政改革担当相、平井デジタル改革担当相が登場し、顔写真入りの大きな談話が載っていますから、「政府広報」として、公費(税金)で新聞社に広告費を払っているのでしょう。

見開き2㌻で終わるのかと思っていましたら、22、23㌻は「日本発『やさしい』DXで実現へ」という識者の対談です。これも「全面広告」とあり、下段は損保会社、エレクトロニクス企業の広告で埋まっていますから、企業が広告費を負担しているはずです。

さらにDX特集は、24、25、26、27、28、29面と延々続きます。計10㌻です。さらにミャンマー経済を扱った一般記事の下に、ミャンマーに関係のある企業の広告を載せた全㌻もの(34、35面)です。ここでも「編集と広告」の境界線が曖昧です。

朝刊42㌻のうち半分近くが全面広告・特集で埋まっています。さすがに絶句しました。広告収入欲しさとはいえ、これほど偏った紙面作成は前代未聞でしょう。編集局と広告局の判断でできるはずはなく、経営トップが「オーケー」を出しているとみます。

驚いてはいけません。続く16日(水)も、「三菱創業150年/コロナ禍での新しい挑戦の時」の全面広告です。広告主は三菱グループ企業の「創業150周年記念事業委員会」です。

21面からは「大転換期をどう乗り切る/世界これから」の特集記事が5㌻ほど続きます。こんな特集を誰が読むのだろうか。読者不在の紙面は、もういい加減にしてくれないか。

まだまだ常識外れの紙面編成は続きます。三菱の創業記念で味をしめたのか17日(木)、今度は「住友グループ/430年の歩みと未来」の全面広告が22、23,24面の3㌻です。

辟易するのまだ早い。27面から「国際金融ハブと日本の役割」が始まり、28、29面と続く。そのあと、「第2回経営大賞特集」が2㌻、さらに「日経/全国社歌コンテスト/社歌は鼓動だ」の特集は4㌻と続く。社員に愛社精神を植え付けるため社歌を重視したのは一時代前でしょう。

週末の金曜日は一般広告を集めやすい日です。と思っていましたら18日(金)は、またまた住友グループの「430年の歩みと未来」の全面広告が2㌻、さらに「高齢化社会の課題を解決するための国際会議」のシンポジウム特集が連続4㌻です。

パネリストは日本人20人で、外国人は3人がオンライン参加(テレビ参加)のようです。「高齢者は社会発展の主役」「孤独を防ぐ社会に」などの見出しはともかく、記事下の企業広告狙いが透けて見える。

とどめは「熱視・スマートシティ/一体推進へ急ぐ縦割り打破」特集2㌻です。記事下に一般社団法人「スマートシティ・インスティティート」の会員企業のリスト、入会募集の広告が載っています。

コロナ危機に入ってから、オンライン会議が多用されています。紙面座談会、紙面シンポジウムを開きやすくなり、聴衆を集めなくてもいいから会場費もかからない。パネリストの報酬も少なくて済む。

「編集と広告」が一体化しやすい企業広告特集にすがればすがるほど、本体の記事も企業寄り、産業界寄りになりがちで、新聞としての中立性が失われる恐れがあります。こんな日経なら読む気が失せてきます。なんとかならないのでしょうか。

新聞社の株式は非上場ですから、外部のチェックが効かず、経営トップの判断に異を挟めない。異様な紙面編成が行われていても、問題視する意見が通りにくいのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年12月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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