死んでも介入するお役所仕事 - 北村隆司

2009年10月08日 10:00

日本人の親切さは世界でも有名ですが、「お役所仕事」の不親切さは余り知られていません。「お役所仕事の改善策」は、行政刷新問題として連日マクロ的論議が交わされていますが、今回は超ミクロ的な身のまわりの実話を取り上げてこの問題を洗い出してみたいと思います。

衆議院選挙を前に「在外選挙人証」が見つからないことに気がついた私は、総領事館に出かけ再発行を依頼しました。何度か書類を書き換えさせられたあげく、前回の発行記録がやっと見つかりました。てっきりその場で再発行してくれると思いきや、私が出した「再発行願いの書類」を日本の役所に送ると言うのです。

肝心の「在外選挙人証」は選挙が終った後に東京の区役所からFedexで送られてきました。送料を見てみると1350円とあり、往復で2700円もの費用をかけて選挙に間に合わないなど、私にとっては「血税の無駄」そのものです。

この話を、母上をなくしたばかりの米国在住の友人に話したところ「死んでも介入するお役所仕事」のひどさとして、次のような実話を披露してくれました。彼曰く :

『先ず、銀行・生命保険関係です。

本籍地・現住所が異なる為、先ず、母親の出生から死亡までの戸籍謄本(原=ハラ戸籍)を、某市(愛知)と某市(滋賀)の両市役所より取寄せる必要がありました。

次に、病身の父親に代わって一人っ子の自分が手続きする為、自分本人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明が必要になりました。(自分は海外在住で非居住者のため、住民票・印鑑証明が取れず、これらを入手する為に、数日中に米国に戻るにも拘らず一時的な入居手続きまで求められた。)

各生命保険会社の所定の死亡診断書が必要といわれ、病院に出かけて医師に記入してもらい(一枚3000-4000円)更に、相続人の全て(自分の場合は、父親と自分自身の二人だけで済みましたが)の謄本と印鑑証明をそろえた上で、銀行・保険会社の所定の様式による相続関係図の提出が求められました。(法定相続に従わない場合には、相続人全員の合意、自筆署名・捺印・印鑑証明が必要とも言われた。)

次に、不動産登記(地方法務局)関係では、

上記に加え、母親の除籍証明、登記人名義変更の申請書(不動産価格の0.4%相当の収入印紙が必要)、現行不動産価格の証明(固定資産税の評価基準額)、及び、分割相続協議書が求められました。

この全てをやる為には、戸籍謄本(一枚500円から700円)だけで10枚以上(二つの都市がからんだのでその2倍)が必要だったのを筆頭に、必要書類の数も、それを取り寄せる時間も膨大なものとなり、書類のコストだけで7万円以上の出費です。

これらのことは、司法書士に依頼すれば全てやってくれるのですが、Do it yourselfの本場の米国のこと故、自分一人でやり、結果としてへとへとになりました。尤も、自分は一人息子で、母親は離婚暦も無く、養子縁組等の戸籍上の複雑な事もなかった為、これでも比較的簡単だったそうで、そうでなければ、もっと大変だっただろうと慰められました。

他方、日本の銀行では、多くの書類を要求する一方で、父親の預金通帳と印鑑を持参して、現金150万円を引出そうとしたら、自分の写真ID提示等の本人確認は何もなく、数分で現金が引出せたのだが、郵便局の貯金・保険の場合は、うって変わって細かい要求があり、病気の父親にも自筆で同意書に署名を求められたほどで、「民営化は一体どうなったのだと首をかしげたくなった」と心配になった。』

私はこの話を聞いて、「ははあ、これで分かった。族議員のボス格である亀井郵政担当相は、国民の 便宜や負担を犠牲にしてでも民営化を阻止し、特定郵便局の仲間のために不要な仕事を残してあげようとしているのだ」と、妙に納得してしまった次第です。

一方、意外だったのは、彼の農協での体験談です。農協の方は非常に融通がきいて、書類に不備が有れば、手直しまでしてくれる有様だった由。(「田舎の農家の老夫婦等で、これ等の書類に記入できない人が多いからなのだろうとは思ったが、今度は、『個人情報の保護』などのルールがあるのか逆に心配になった」と述懐していました。) 

彼の話はまだ続きます。

『登記所では、窓口の役人は一貫して人を見下した様な対応で、「書類のあら捜し」に終始し、時間をかけてようやく揃えた母親の謄本(明治中期の3代前の祖先から続く10ページに及ぶ戸籍謄本)に「一部連続性がない」とイチャモンをつけられた。連続性がないのは当たり前で、これは、昭和時代の戸籍法改正で筆書きの戸籍原本からコンピュータ処理に変わった為の分筆・転記だったのです。これには、あまり興奮する事のない自分も頭に来て「戸籍は、千数百年前に中国から持込まれた物で、租庸調の時代から何度改定があったか分からないではないか」と食ってかかってやった。』

彼は、「日本全国の数千、数万の役所や郵便局の窓口で、国民をこの様に扱っている現状では、民主党の鳩山さんが10年掛けても埒が明かないだろう」と、かなり悲観的でした。

小泉首相は、長岡藩の藩士小林虎三郎の「米百俵」の故事を引き合いに出して「現在辛抱すれば必ず将来の為になる」と国民に辛抱を訴えながら構造改革を断行しました。然し、熱し易く冷めやすい日本の国民性はやはり辛抱しきれず、この構造改革は完成を待たずに挫折しつつあります。郵政民営化の見直しはその典型でしょう。

鳩山さんの一連の行動を見ますと、上杉鷹山の「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」が念頭にあるのでは?と想像しています。マニフェストを読んで、民主党に投票した人達は、「脱官僚」「行政刷新」政策に「為せば成る」と言う決意を感じ「温暖化ガス25%削減」には「なさねばならぬ」と言う共通の使命感を感じたのではないでしょうか?果たして結果はどうなるでしょうか?期待して待ちたいと思います。

尤も、私の友人が「10年掛けても埒が明かないだろう」と悲観したお役所仕事については、私自身はある程度楽観的です。

「戸籍制度」を廃止して「国民背番号」を導入し、「実印制」を廃止して「署名又は拇印制度」を導入するだけでも、我々の時間は大幅に節約され、役所の仕事も大きな改善がなされるでしょう。多くの国民に無駄な時間を強制する「自筆と面接」主義の代りに、透明性やトレーサビリテイーに優れたIT技術を導入すれば、誤りやえばり放題の役人と面談する必要も大幅に減ることでも相当な合理化につながる事はまちがいありません。マクロ的な論議は勿論大切ですが、役所仕事の基本を少し変えるだけでも、「無駄をなくす行政刷新」の第一歩は踏み出せるのではないでしょうか?

ニューヨークにて 北村隆司


衆議院選挙を前に「在外選挙人証」が見つからないことに気がついた私は、総領事館に出かけ再発行を依頼しました。何度か書類を書き換えさせられたあげく、前回の発行記録がやっと見つかりました。てっきりその場で再発行してくれると思いきや、私が出した「再発行願いの書類」を日本の役所に送ると言うのです。

肝心の「在外選挙人証」は選挙が終った後に東京の区役所からFedexで送られてきました。送料を見てみると1350円とあり、往復で2700円もの費用をかけて選挙に間に合わないなど、私にとっては「血税の無駄」そのものです。

この話を、母上をなくしたばかりの米国在住の友人に話したところ「死んでも介入するお役所仕事」のひどさとして、次のような実話を披露してくれました。彼曰く :

『先ず、銀行・生命保険関係です。

本籍地・現住所が異なる為、先ず、母親の出生から死亡までの戸籍謄本(原=ハラ戸籍)を、某市(愛知)と某市(滋賀)の両市役所より取寄せる必要がありました。

次に、病身の父親に代わって一人っ子の自分が手続きする為、自分本人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明が必要になりました。(自分は海外在住で非居住者のため、住民票・印鑑証明が取れず、これらを入手する為に、数日中に米国に戻るにも拘らず一時的な入居手続きまで求められた。)

各生命保険会社の所定の死亡診断書が必要といわれ、病院に出かけて医師に記入してもらい(一枚3000-4000円)更に、相続人の全て(自分の場合は、父親と自分自身の二人だけで済みましたが)の謄本と印鑑証明をそろえた上で、銀行・保険会社の所定の様式による相続関係図の提出が求められました。(法定相続に従わない場合には、相続人全員の合意、自筆署名・捺印・印鑑証明が必要とも言われた。)

次に、不動産登記(地方法務局)関係では、

上記に加え、母親の除籍証明、登記人名義変更の申請書(不動産価格の0.4%相当の収入印紙が必要)、現行不動産価格の証明(固定資産税の評価基準額)、及び、分割相続協議書が求められました。

この全てをやる為には、戸籍謄本(一枚500円から700円)だけで10枚以上(二つの都市がからんだのでその2倍)が必要だったのを筆頭に、必要書類の数も、それを取り寄せる時間も膨大なものとなり、書類のコストだけで7万円以上の出費です。

これらのことは、司法書士に依頼すれば全てやってくれるのですが、Do it yourselfの本場の米国のこと故、自分一人でやり、結果としてへとへとになりました。尤も、自分は一人息子で、母親は離婚暦も無く、養子縁組等の戸籍上の複雑な事もなかった為、これでも比較的簡単だったそうで、そうでなければ、もっと大変だっただろうと慰められました。

他方、日本の銀行では、多くの書類を要求する一方で、父親の預金通帳と印鑑を持参して、現金150万円を引出そうとしたら、自分の写真ID提示等の本人確認は何もなく、数分で現金が引出せたのだが、郵便局の貯金・保険の場合は、うって変わって細かい要求があり、病気の父親にも自筆で同意書に署名を求められたほどで、「民営化は一体どうなったのだと首をかしげたくなった」と心配になった。』

私はこの話を聞いて、「ははあ、これで分かった。族議員のボス格である亀井郵政担当相は、国民の 便宜や負担を犠牲にしてでも民営化を阻止し、特定郵便局の仲間のために不要な仕事を残してあげようとしているのだ」と、妙に納得してしまった次第です。

一方、意外だったのは、彼の農協での体験談です。農協の方は非常に融通がきいて、書類に不備が有れば、手直しまでしてくれる有様だった由。(「田舎の農家の老夫婦等で、これ等の書類に記入できない人が多いからなのだろうとは思ったが、今度は、『個人情報の保護』などのルールがあるのか逆に心配になった」と述懐していました。) 

彼の話はまだ続きます。

『登記所では、窓口の役人は一貫して人を見下した様な対応で、「書類のあら捜し」に終始し、時間をかけてようやく揃えた母親の謄本(明治中期の3代前の祖先から続く10ページに及ぶ戸籍謄本)に「一部連続性がない」とイチャモンをつけられた。連続性がないのは当たり前で、これは、昭和時代の戸籍法改正で筆書きの戸籍原本からコンピュータ処理に変わった為の分筆・転記だったのです。これには、あまり興奮する事のない自分も頭に来て「戸籍は、千数百年前に中国から持込まれた物で、租庸調の時代から何度改定があったか分からないではないか」と食ってかかってやった。』

彼は、「日本全国の数千、数万の役所や郵便局の窓口で、国民をこの様に扱っている現状では、民主党の鳩山さんが10年掛けても埒が明かないだろう」と、かなり悲観的でした。

小泉首相は、長岡藩の藩士小林虎三郎の「米百俵」の故事を引き合いに出して「現在辛抱すれば必ず将来の為になる」と国民に辛抱を訴えながら構造改革を断行しました。然し、熱し易く冷めやすい日本の国民性はやはり辛抱しきれず、この構造改革は完成を待たずに挫折しつつあります。郵政民営化の見直しはその典型でしょう。

鳩山さんの一連の行動を見ますと、上杉鷹山の「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」が念頭にあるのでは?と想像しています。マニフェストを読んで、民主党に投票した人達は、「脱官僚」「行政刷新」政策に「為せば成る」と言う決意を感じ「温暖化ガス25%削減」には「なさねばならぬ」と言う共通の使命感を感じたのではないでしょうか?果たして結果はどうなるでしょうか?期待して待ちたいと思います。

尤も、私の友人が「10年掛けても埒が明かないだろう」と悲観したお役所仕事については、私自身はある程度楽観的です。

「戸籍制度」を廃止して「国民背番号」を導入し、「実印制」を廃止して「署名又は拇印制度」を導入するだけでも、我々の時間は大幅に節約され、役所の仕事も大きな改善がなされるでしょう。多くの国民に無駄な時間を強制する「自筆と面接」主義の代りに、透明性やトレーサビリテイーに優れたIT技術を導入すれば、誤りやえばり放題の役人と面談する必要も大幅に減ることでも相当な合理化につながる事はまちがいありません。マクロ的な論議は勿論大切ですが、役所仕事の基本を少し変えるだけでも、「無駄をなくす行政刷新」の第一歩は踏み出せるのではないでしょうか?

ニューヨークにて 北村隆司

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