分散と集中 -中川信博-

2009年11月23日 23:13

松本さんがNTTの再分割問題を論じておられます。私もネットワークに携わる人間の一人として現在の通信インフラが抱える問題点を若干申し上げてみたいと思います。


-「b」と「B」bpsとMBとは-

ユーザー側とサプライ側ではサービス内容に対する意識はおそらく大きく違うと思います。言葉の問題でも例えば、一般的にbps(ビット・パー・セコンド)を回線のスピードだと認識しているユーザーは多いと思いますが、bpsとは1秒間にどれだけのデータを伝送できるかで、帯域というように供給者側は「速さ」というよりは「太さ」と認識しています-伝送する光線の速さは変わってないのです-。ですからユーザーが「増速」と認識することを「増幅」と認識します。

さらに通信の場合の「b」はおおむねビットで、記憶装置の場合の「B」はバイトのことなので、なにも表記がない場合は通常1バイトは8ビットです。つまり、100MB(メガバイト)のデータは800Mb(メガビット)ということになります。この辺の表記の不統一もユーザーの誤解につながっているとおもいます。

これらの技術は装置の同期やデータの圧縮によって実現されています。つまり通信回線の高速化とは対向装置の受け渡しのタイミングやパケットの圧縮技術などによって、1秒にできるだけたくさんのデータをこちら側の装置から対向側の装置へ送ることで実現してます。

-ベストエフォート型とは-

次に一般のADSL回線や光通信回線はベストエフォート型です。これはサービスとしての通信回線の帯域や、細かな切断、故障の保証をしていないということです。そして現在のインターネットは、全体としてベストエフォート型になっているということです。ようするに100Mbpsの回線を契約している場合でも100Mbpsを保証しているわけではないということと同時に、通信帯域の表記とデータ量の表記に8倍の差異がありますので、ユーザーが実感するいわゆる「速度」にはサプライ側の認識とは大きく違っていると考えられます。

2001年からサービスを開始しましたFTTHですが、一戸建て住宅の回線とマンションタイプの回線があります。マンションタイプでは建物内をVLANで、公衆側をFTTH等のサービスで接続します。入戸数と引込線数は1対1では当然ありませんから-戸建ては1対1-、仮に10戸に対し1引込線としても、1戸の端末数は1ではありませんので、最終的に公衆網へ接続する端末は1回線で数十台になります。

さらにそこへ昨今の地デジ化によってテレビ放送がこの回線に接続してくることになりました。しかもテレビが受信するデータ量はパソコンのそれをはるかに上回る大量であると同時に、長時間回線を占有することになります。つまりベストエフォートとして、MAX値までのサービス保証はしてないのでユーザーは実感としてサービスの不足を感じているうえ、デジタル放送が公衆回線-いわゆるインターネット回線-で接続したことで、絶対的な帯域不足に陥る可能性があることは否定できません。1戸建てはよいかというと結局、終端装置の数は違いますが、宅外に出た時点で回線を集約するので、中継基地へ向かう幹線ではマンションタイプ同じ程度のトラフィックになることは想像できます。

-BCP策定が否-

以前、BCPで回線の冗長化について検討したことがあります。各キャリアさまといろいろ検討した結果、想定したレベルでの回線冗長化ができないことがわかりました。それは区-行政区の区です-レベルですが、回線が同じ建物を通過することがわかりました。建物が区レベルで同じということは災害時に一挙にサービス停止になる可能性が大きく、地震などの大規模災害に対応するには結局、現状とそうかわらないという判定になりました。つまりあるレベルになると設備が一社に集中しているということです。

-予期せぬサービス停止のリスク-

数年前NTTひかり電話が都内でダウンしたことがありましたが、その原因が発表によると、呼制御サーバの処理増加に伴いソフトウェア不具合が起き、同サーバに輻輳が発生。その影響で中継系の他の呼制御サーバが輻輳していたとの発表がありました。また同様にルーターの故障でネットワークが不安定になったということもありました。あるルーターが故障して、トラフィックがある領域に集中して、ネットワーク全体が不安定になりました。両者とも冗長化設計されているシステムであるにもかかわらず、一箇所の機器故障でトラフィックが特定の領域に集中してしまったことで輻輳が起こっています。

つまり映像や音声といった大容量かつ長時間帯域を占有する通信が存在することは、ネットワーク全体としては非常にリスクが高いことがわかります。そしてそのシステムがワンネットワーク-一事業者-であることはネットワークの安全性という見地からは決してよい状態とはいえないでしょう。

技術的な話ですが、トラフィックが50%を越えてケーブルを占有しているとき、ピークレベルがMAX値を越えるパケットがあると、各ネットワーク機器の処理が低下するおそれがあります。とくにメディコンバータのような高速処理をしている機器は顕著に低下します。-カタログ値では問題がありませんが、経験的な話です。発熱によることが原因ではないかと思われます-

現在の日本のネットワークの状況は、1日にプレイできる人数の数十倍のゴルフ会員権を販売しているゴルフクラブがあり、いまその会員が同時にゴルフをプレイしはじめて、プレイできる限界人数に達しようとしている、そんな状況ではないでしょうか。テレビ放送のような大容量のデータが長時間ネットワークを占有した状態で一瞬、ピークを越えるパケットを発生することによって、そのパケットが両端の装置の処理を不安定にする可能性があります。

-自由市場が最高の冗長化対策-

官庁、自治体には霞ヶ関WANやLGWANといった専用広域回線があり、行政事務効率化や自治体ごとのアプリケーションの共同利用-ASP化-で重複費用の削減をしています。当然緊急時には危機管理用の補完ネットワークとしての役割もあるでしょうが、民間公衆網側との接続をするかぎり、民間公衆側の影響をうける可能性は否定できないでしょう。現在ベストエフォート型でわずかな障害で輻輳がおこる可能性がある、ワンネットワークに事実上なっている民間公衆網に、日本の経済や安全保障は大きく依存しています。そしてネットワークにある危機の一つは前稿で申し上げました。

問題点は、ベストエフォート型の帯域が不足する可能性があることと同時に、ワンネットワークがゆえに思わぬ影響をネットワーク全体が受けやすいこと。私たちは違うサービスを選択しているようでも結局は同じ中継所を通過する事実上のワンネットワークに依存しています。そしてそのネットワークは契約者数がふえれば、ふえるだけサービスが不安定になる可能性があります。サービスが低下したので他社へ契約を変更しても、結局はワンネットワークですから抱えるリスクはかわらないといっていいでしょう。

しかし政府がインフラ構築するのでは結局、同様な結果に陥るでしょう。-入札できるのは結局かわらない-政府は市場を利用しながら、効率的に別にインフラを整備する必要があります。政府がさらに市場を開放して民間資本にサービスを構築させて、公衆網全体の帯域を確保することにより、全体として不安定要素をヘッジすることが、日本の経済や安全保障にとって重要であることはいうまでもないことでしょう。

文言訂正
「ベストエフォード」を「ベストエフォート」に訂正
2009.11.24 9:30
「バイド」を「バイト」へ訂正
2009.11.25.12.05

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