竹島、信用力、国家戦略 - 北村隆司

2010年01月07日 09:46

元旦の読売新聞社説は「多くの国民が、不安を胸に新年を迎えたに違いない。日本の将来に、期待よりも懸念、希望よりもあきらめを強く抱かせるような、政治の迷走、経済の停滞が続いているからだ。国家戦略なき日本は、国際社会の荒波の中で孤立化し、やがては漂流することになろう。」と政治の責任を問いました。
国家戦略が見えない事が日本に対する懸念につながり、ニューヨークタイムズやウォール・ストリート・ジャーナル、ファイナンシャル・タイムズなども同様で、日本の将来、特に成長政策なき経済政策の見通しに悲観的な記事が目立ちます。

それに対し韓国を見る目は、史上最大の貿易黒字の達成、フランスや日米連合を破ってのアラブ首長国連邦(UAE)での原発受注、念願のOECD加盟とG20の議長国への就任などの追い風もあり、概ね好意的です。

海外の評判に異常に敏感に反応する韓国ですから、韓国三大新聞の電子版でその様子を覗きますと、ヴォーゲル教授の「Japan as No-1」を信じて、「米国の時代は終った!日本が世界の未来を担う」と浮かれた、かつての日本を遥かに上回る興奮ぶりです。


日韓併合条約から100週年に当たる今年は、「亡国百周年」と呼び年末年始にかけて一斉に歴史観キャンペーンが行れました。この事情を配慮したのか、日本政府は中学校の教科書学習指導要領解説書で竹島に触れない事を決めましたが、川端文部科学相が記者会見で「竹島が日本領土であると言う日本政府の立場は変らない」と述べた事実が伝えられた途端、「反省が足りない!」「独島(竹島)どろぼー!」など悪口雑言の限りをぶつけるなど、日本政府の配慮は逆効果になってしまいました。

その様な時に、竹島問題で「韓国側の主張が正当だ」という学習資料を配付した、北海道教職員組合の信岡聡書記次長の言動が韓国の興奮を煽りました。

朝鮮日報の特派員とのインタビューに応じた信岡書記次長は、韓国側の主張を支持する理由として「政府が中学校の教科書学習指導要領解説書に、竹島問題を含めるという話を聞き、何度も研究を行った。解説書に竹島問題が含まれれば、教科書に内容が載らざるを得なくなる。どのみち教えるほかないのなら、対立について教えるのではなく、平和教育の範囲内で韓国側の立場を生徒に十分に知らせることが重要だと考えた。日本の竹島領有権主張は、(日露)戦争中に用途が生まれ、主張し始めたものだ。明確に日本の領土だと主張できるだけの(歴史的)根拠を探し出すことはできなかった。日本の教育には、“近隣諸国条項”というものがある。教室で生徒たちに教える際、近隣の国に配慮しなければならない、という原則だ。まだ解決していない問題を教科書に載せることは、この原則から外れている」と北海道教組の立場を説明しました。

公務員である教員組合幹部が、政府の外交政策の反対の主張を紛争当事国向けに発表することがあって良いのでしょうか?鳩山首相や横路衆議院議員議長の地元の北海道で、小沢幹事長と並ぶ実力者の輿石議員会長の出身母体の教員組合の信岡書記次長の発言でありながら、政府が批判も否定もしない態度を見ると、外国としてはどちらを信用してよいのか迷います。

興奮し易い韓国人も外交になると意外に現実的で、したたかな面があります。そのしたたかさは、朝鮮族が清の時代以前から多数居住してきた「間島」「白頭山」地域と人間の居住も出来ない単なる岩礁に過ぎない「竹島」についての主張の硬軟に見られます。

豆満江北方の土門江こそ中朝国境であると主張した朝鮮政府の主張を認めた日本は、当初は朝鮮政府の主張通り間島を朝鮮領と認めていました。その後、1909年日本と中国の外交交渉の結果、日本は中国の間島領有を認める「間島協約」を締結し、領土問題に決着をつけました。

中国の強硬な要求を受け入れて出来た「間島協約」ですが、韓国政府はこの問題の発端は日本にあると日本を非難するだけで、中国への非難は控えています。

韓国の中国に対する弱腰は、北京の新年の模様を伝える某大手新聞の社説にも表れ『中国の地位が向上すればするほど、中国の韓国に対する関心は薄れ、かつては「経済発展の師」として扱われた時代はとっくに去り、現在ではこれ以上学ぶ物はない普通の国として待遇されている。中国の周辺国として、昨年は日本、ロシアに続き3位の重要国家であった韓国も、今年はインドや東南アジアにも抜かれた。』と中国の韓国への関心が弱まりを嘆くだけで、領土紛争には全く触れていません。

同じ領土紛争でありながら、中国には遠慮し、日本には激怒する韓国の真意は何処にあるのでしょうか?「韓国は強いものには尾を振り、甘やかすとのさばる始末の悪い国だ」と片付けるのは簡単ですが、これでは何一つ解決しません。

隣国同士でありながら、国情は可也異なります。暴力スト、乱闘国会、検察力の乱用など、韓国の成熟度は日本より40年は遅れています。これが、韓国の信用を傷つけ、日本の韓国観に悪影響を与えている事は否定出来ますまい。

先進国家の新聞には見られない罵詈雑言を日本に浴びせる韓国の報道に接すると、韓国に悪感情を持たない私でも嫌韓感情が芽生える事は否定しません。然し、抗議運動の集団暴徒化や過激な非難活動は、感情が高ぶり易い韓国では国内問題を巡っても良く起こる現象で、竹島や歴史観など日本関係の問題だけではない事実を、民主制度の先輩である我々が、度量を持って接する余裕も必要です。これも、松本氏の言う大人の外交の一つでしょう。

又、韓国では、日本がとっくに失った「勤勉」が今でも健在で、人口に占める大学院卒業生の割合は日本より遥かに多い高学歴国家だと言う事も知っておく必要があります。日本に追いつけ追い越せとひた走る姿は、米国相手に頑張った一昔前の日本の姿と重なります。

永い歴史と文化を誇るこの両国が、平和に友好的に共存できる国家戦略の妙案はないものか?と思案している時、国際的な企業で活躍する知人から、こんなメールを貰いました :
「日本が世界に誇れるのは、「経済力」だけではなく「信用力」なのではないかと、最近考えております。中国などが「経済力」を伸ばしていく中で、国際社会の中で日本が存在感を保ち続けるためには、「日本の発言には一目おこう」と思ってもらえるような「信用力」「信頼力」を維持し、磨いていくことが大事ではないかと思っています。そのためにも、諸外国に対しても国民に対しても、八方美人ではなく、政権として一本筋の通った国家の舵取りを願っています。」

これを読み、従来の日本の“国家戦略”の根幹が「経済力」を背景にした「援助と言う賄賂」と「紛争支援と言う手切れ金」が中心で、「経済力」に加えて「信用」と「信頼」の醸成を目指す長期的国家戦略に欠けていた事に気がつきました。

前述した様に、領土問題を巡っての韓国の対中、対日姿勢の違いから学べる事は、日本が韓国にとって必要不可欠で、信頼の出来る国になれば、感情的でも現実的な韓国の反発は和らぐと言う教訓です。「信用力」「信頼力」を磨くこの努力は、韓国問題に限らず国際社会の中で日本が存在感を保ち続ける日本の国益にも直結する筈です。

指導者の言動も信用力に大きな影響を与えます。オバマ大統領に「Trust me.」を繰り返した鳩山首相は、「日本の信用力」を著しく傷つけました。

マハトマ・ガンジーは「リーダーシップが力を意味したのは一昔前の話で、今は多くの人々の信頼を得る事がリーダーシップなのだ」と言う言葉を残しました。

現実は、評論や名言で「国家戦略」が出来るほど甘くはありませんが、国民の圧倒的多数の支持を受けた民主党が選挙対策一辺倒の「割れ鍋に綴じ蓋」型連立を解消し、一段と成長した日本国民を信じて、民主党の政策に沿った国家戦略を打ち出す事が「国民が日本の将来に、懸念よりも期待、あきらめよりも希望を強く抱かせるような国」にする唯一の方策だと一人で得心した正月でした。
       ニューヨークにて        北村隆司

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