グローバルな交易条件の悪化のもとでは、まずはデフレは止められない。

2010年02月19日 14:48

藤井 まり子

日本経済がなぜ失われた15年を経験してしまったのか?
なぜデフレが止められないのか?

経済論壇では様々な「犯人探し」(不良債権処理の遅れ、日銀による金融政策の失敗、規制緩和をはじめとする全要素生産性論議などなど)に余念がないですが、2月10日に、私が主催して企画した「水野和夫セミナー~21世紀は陸と海のたたかい~」では、これらとは全く違った視点から、日本が失われた15年を経験してしまった理由が提示されていました。

その視点とは、もっと「ダイナミックかつ明快な視点」です。

以下、その「ダイナミックかつ明快な視点」について、ご紹介します。


■1995年以来、悪化の一途をたどる「グローバルな交易条件」

日本の製造業では、1995年を境に、明らかに「グローバルな交易条件」が急速に悪化してしまっている。

たとえば、原油価格だけを見ても、1995年の1バーレル18.4ドル時代をそこに、それ以後、世界の原油価格が上昇の一途をたどってしまっている。

1995年の日本の製造業の交易条件と、2008年の日本の製造業の交易条件とを、代表的な原油価格WTIだけで比較しても、1995年は1バーレル18.4ドルだったものが、2008年には1バーレル97ドルにまで、急騰している。
なんと、原油価格だけ見ると、この13年間で4倍以上の急騰である!

日本経済全体でみると、この13年間で、日本は原油輸入だけでもおよそ83兆円の持ち出し(資源国への所得移転)をしていたのである!!!

かように、日本国内の製造業をめぐるグローバルな交易条件は、1995年から、急激な悪化に見舞われていたのである。

日本の製造部門の大企業だけでも、全体で、1995年から2008年にかけて、なんとか売り上げも43兆円も増やしているが、その一方で、原油価格などの変動費の負担が、50兆円も増えてしまっている。

もちろん、日本国内の大手製造業も、省エネルギーには最大限の努力を惜しまなかった。
けれども、上述したような「急激なグローバルな交易条件の悪化」によって、原油をはじめとする「変動費負担の急激な増大」に遭遇してしまったのである。

売り上げが増えても、変動費がそれ以上に増えてしまっていたのである。

その結果、日本の製造業は、大企業といえども、赤字にならないためには、人件費や広告費を思いっきり抑制せえざるを得なかった。
日本国内の大手製造業は、1995年から2008年まで、人件費を29.6兆円も削減している。およそ30兆円の削減である。
さらに、広告費も3.5兆円も削減している。

1995年から2008年までの間、日本国内の大手製造業でさえも、30兆円もの人件費を削減せざるを得なかったのだ。
(年平均にして、およそ3兆円ずつの人件費削減である!)

すると何が起きるのか?

デフレの定着傾向である。

この15年間、勤労世帯の所得が増えるどころか、減って来たのである。
たとえ好景気が起きても、平均的な勤労世帯の所得は、横ばい程度を維持できるかいかなであった。
不況になれば、勤労世帯の賃金は即座にカットされてしまった。
「勤労世帯のたそがれブルース」「勤労者:冬の時代」の始まりである。

「陸の資源国」の資源ナショナリズムの台頭の結果、グローバルな交易条件が悪化してしまった21世紀の日本経済では、「日本国内の企業の限界利益の伸び」≒「勤労者世帯の一人当たりの賃金の伸び」となってしまっているのである。

さらに、グローバルな交易条件の悪化はアメリカやイギリスでも同じだから、この日本経済の後を追うようにして、アメリカやイギリスの経済は、遅かれ早かれデフレへと突入してゆく。

■21世紀の日本および先進国では、もうデフレは止められない。

2009年は名目GDPは474兆円と、名目では、対前年比を下回った。勤労世帯の所得は2009年の1年間だけでも、かなり削減されている。

日本国内で物価が下がるのは、賃金が下がるからで、日本国内の賃金が下がるのは、日本国内の企業の限界利益が低下しているからである。
日本国内の企業の限界利益が低下するのは、グローバル規模で原油をはじめとする資源コモディティー価格が値上がりしているからである。
グローバルな交易条件が、「400年ぶりの歴史的大転換」のもとで、悪化しているのだから、日本経済のデフレは止められないのである。

この日本経済に、今のアメリカ経済が後を追いかけている。
アメリカ経済も遅かれ早かれ、本格的なデフレ経済へと陥るだろう。

今現在の日本経済全体の実質GDPの潜在成長率は、0.5%~1.0%の間である。

将来、日本が潜在成長率満開の1.0%を実現できるような世界的な好景気が万が一訪れたとしても、再びグローバル規模での交易条件が急速に悪化(原油価格をはじめとする資源コモディティー価格の上昇)してしまうので、日本国内の勤労者の所得は下がることはあっても上がらない。

21世紀の日本経済では、歴史的大転換のもとでは、かように、「まずはデフレは止められない」のだ。

さらに、先進国経済を眺めると、いずれの国においても、消費の飽和状態が起きている。
それを「一人当たりの鉄の消費量」で見ると、いかなる先進国においても「一人当たり0.9トンの鉄の消費量」で、頭打ちになる傾向がはっきりと見て取れる。

かたや、新興国の国々の「一人当たりの鉄の消費量」は、「およそ0.3トン」。
今後は、新興国57億人の経済成長によって、世界経済の成長はけん引されると見たほうがよい。

21世紀では、たとえいかなる円安が起きても、たとえ日銀が金融緩和をしたとしても、今の日本経済のデフレは決して止められない。

日銀もこのことは十分承知しているので、政府が昨年秋に「デフレ宣言」をして、日銀へ「量的金融緩和へのプレッシャー」をかけても、およそ10兆円くらいの量的金融緩和を12月に実施する程度で、今の日銀は、「のらりくらり」とごまかしている。
しかも、この日銀の10兆円の量的金融緩和の中身をみると、日銀は「極力有効でない手法」を使っている。
今の日銀は大変聡明で、経済音痴の現政府に対して、政府からの「量的金融緩和への圧力」を、「量的金融緩和をしているようなフリ」だけして、のらりくらりと、かわしているのである。

今の日本経済では、デフレは止めようがないので、今後は円安よりも、ちょっとずつ円高にしていったほうが、企業の限界利益の低下も、勤労者一人当たりの所得の下落も、多少は止められる可能性のほうが高いくらいだ。

「資源コモディティー高というグローバルな交易条件の悪化」「400年ぶりの歴史的大転換」の時代を迎えてしまった21世紀では、すべての先進国では「成長がすべてを解決する時代も終わった」ように、先進国では「通貨安がすべての傷をいやす時代も既にに終わっている」のである。(続く・・・)

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑