日本では新型コロナウイルスの感染者が激減している。これまで患者への対応で忙殺されていた医療関係者や保健所などにも多少の余裕が生じているだろう。感染の第6波が近いうち派生するか否かはわからないが、いまこそ日本における新型コロナウイルスの実態と行政の対応を顧みるいい機会だと思われる。
これまでブログやアゴラに多数寄稿してきた最大のポイントは日本、そしてアフリカにおける感染実態が、少なくともデルタ株の流行までは欧米に比較して異様に少ないという事実だった。この状況はデルタ株の影響が日本では収束した現在においても全く変わっていない。今年の夏まではワクチンの効果もあるだろうが欧米の感染者は激減したものの、その後激増して感染の収束とはほど遠い現状である。一方、日本はデルタ株によるヨーロッパ並みのレベルにまでの感染者激増があったが、現在ほぼ完全に収束している。
下図は10月末現在の、欧米の代表としてイギリスとアメリカ、日本、そしてアフリカすべての国の平均の感染者数の推移を示したものである。出典は札幌医大 フロンティア研 ゲノム医科学の特設ページ、今や世界共通のコロナ感染者データとなっているジョン・ホプキンス大のデータの非常に優れたハンドリングサイトである。
同サイトからのデータによる上図の10月末のスナップショット、右端時点の感染者数の実数である。早期にワクチン接種が進捗しているにもかかわらずイギリスとアメリカの感染者が、桁違い、しかも二桁。
この日本とアフリカの感染率が欧米に較べて異常なまでに低いという現実は、今露見したわけではなく、上図から明らかなように昨年前半で明らかであった。この大きな感染実態の差には何らかの本質的な要因があるはずである。要因をつき止めなくては本質的な対策もありえない。そこで一年以上前にこのような記事を書いた。
新型コロナ:ファクターXの発見と証明(2020年6月24日)
続編がこちら。この記事では、以下の一節を記しており、現実はそのとおりになった。アフリカにおける新型コロナウイルス感染者(以下COVID-19)がようやく目立ち始めた頃である。
前回まででファクターXの正体か結核と関連があるらしいことを示した。もしそれが正しいのであれば、アフリカではヨーロッパ諸国やアメリカのような感染爆発は生じないはずだ。
そこでこれらの記事から一年四か月が経過した現在、感染者のデータも大幅に増えたので、改めてWHOのデータと上記札幌医大の資料を用い、COVID-19と結核の相関を検証した。
一時期BCGとCOVID-19の関係が注目されたことがあった。今もあるのかもしれない。しかしBCGはワクチン。子供の頃ツベルクリン反応が陰性の人が接種を受けた。すなわち陽性の子はすでに結核菌の被曝を受けて抗体ができていたわけだ。当時の日本はまだ結核大国の名残があった。結核の抗体はBCGが一度の接種で済むように一度生成されれば一生有効と思われる。国別の結核の影響を検証する場合はゆえにその国の過去の感染率が適切なデータであり、BCGの接種率は国民全体の抗体を代表するものではない。
入手できる一番古い結核感染のデータは1990年のWHOのデータをデータソースとする国別の感染者データであった。幸いにも10万人当たりの感染者数で表示されている。このデータと10月末現在の国別の累積感染者数(10万人あたり)を、感染状況に極端な差異のあるヨーロッパとアフリカについて相関関係をプロットした。サンプルはヨーロッパ43か国、アフリカ49か国である。図には標準値として日本のデータを加え、黄色の星で示してある。またアメリカも加え水色で示した。
下図(以下の図は著者作成)に明らかなように、ヨーロッパ(+アメリカ)と日本を含むアフリカ諸国は両者の相関において全く逆のパターンを示した。ヨーロッパではルーマニアを除いて結核の感染者数は10万人あたり100人以下で、COVID-19の感染者数は北欧3か国(フィンランド、ノルウェー、アイスランド)を除いて10万人あたり5000人以上、一方アフリカではほとんどの国で結核の感染者数は100人以上で最大はザンビアの700人越え、COVID-19の感染者数は4か国(ボツワナ、リビア、ナミビア、南アフリカ)を除いて4000人以下であった。両者は重なる部分はほとんどない。
では他の国々ではどうか?アジアの29か国と南北アメリカの24か国を加えたのが下図(オセアニアの国々はすべて孤立した国なので除外)。異常値を示す3か国(グルジア、モンゴル、ボツワナ)を除けばやはり見事な相関関係を示し、世界的に見ればCOVID-19の感染者数は過去の結核蔓延率に反比例している。
以上は専門家が分析しても非専門家が分析しても結果は同じである。そして、欧米と較べて日本およびアフリカでCOVID-19の感染者数が異常に少ない要因を説明できる事実の一つであることは確かだ。この現実に対して、欧米と同様の感染防止対策を講じることは非効率なだけでなく、多大な経済的社会的損失を日本国民に与えるし、実際に与え続けている。
参考までに昨年6月のアゴラ掲載記事の図を再掲する。本質的に全く同じだ。