「ファクターX」とは、ノーベル賞受賞者の山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所所長)が少々前に自身のブログで紹介した概念である。その時点での氏の視野は日本の感染の現状に向けられており、事態をグローバルに俯瞰していたわけではない。氏はこう書いている。
新型コロナウイルスへの対策としては、徹底的な検査に基づく感染者の同定と隔離、そして社会全体の活動縮小の2つがあります。日本は両方の対策とも、他の国と比べると緩やかでした。PCR検査数は少なく、中国や韓国のようにスマートフォンのGPS機能を用いた感染者の監視を行うこともなく、さらには社会全体の活動自粛も、ロックダウンを行った欧米諸国より緩やかでした。しかし、感染者や死亡者の数は、欧米より少なくて済んでいます。何故でしょうか?? 私は、何か理由があるはずと考えており、それをファクターXと呼んでいます。ファクターXを明らかにできれば、今後の対策戦略に活かすことが出来るはずです。
ファクターXの候補も8つ挙げられているが、半分は国内の対策や日本人の習慣であるが、ひとつに「BCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響」にも言及されていた。
筆者が初めてBCGについて触れたのは5月6日のブログ記事であった。妻の、「日本は結核の先進国なの」、という話がきっかけだった。その記事で引用したのがこの表、世界のいくつかの国の結核罹患率を示したものである。
今回スタディの対象は50ヵ国。この表は大変興味深い資料なので、データの出所のWHOのオリジナルデータを入手、50ヵ国全ての2018年の結核罹患率を得た。COVID-19の特徴は肺炎、結核は肺炎ではないが肺の疾患、関係が無い訳がない。
その国別結核罹患率(データはWHO)と、昨日示したやはりWHOの国別の累計死亡者数の相関を染みしたのが下図。両方とも10万人当たりでノーマライズしてある。国別のプロットであるが、エリア別に色分けしている。
結果は驚くべきものだった。
1)結核罹患者の多い国でのCOVID-19に因る死亡者はペルー1か国を除いて全て桁違いに少ない。
2)COVID-19に因る死亡者の多いヨーロッパの国々は、結核の感染者が圧倒的に少ない。
3)上述の1)の国々は東南アジアかイスラム圏の国がほとんどである。
4)逆に2)の国々は全て南北アメリカかヨーロッパの国々である。
5)その差は結核とCOVID-19の感染に関する相関が有意か否かの議論が不要なほど明らか。
このような極端な差はコロナ対策や医療体制の差などで説明できるものではなく、両者が緊密に関係している証左以外の何物でもない。
全体の傾向は上述の通りだが、さらにプロットが密集している比較的低結核感染者で低死亡者数の部分を拡大したのが下図。当然ながら東南アジアかイスラム圏の国が多数だが、ヨーロッパの国が5ヵ国、南アメリカから1か国混入ししている。その国の名前を図に入れた。ウクライナ、ポーランド、ベラルーシ、ロシア、ルーマニア、そしてコロンビアである。
これらは、上記の一般論のノイズなのか、それともヨーロッパの先進国と何か有意な差があるのか?実はこの6ヵ国がこの図に含まれていることこそが、ファクターXの発見の証明の鍵に他ならない。
加藤 完司(元エンジニア)