欧米教会から見た「旧統一教会問題」

報告が遅れたが、まず、以下のAFPの記事(2024年07月08日)を読んでほしい。日本のメディアでは多分、報じられていないと思うからだ。

「最後の審判」ミケランジェロ

カナダの教会、虐待被害者に数百万ドルを支払う

カナダのカトリック教会は、セントジョン大司教区で過去に性的暴行を受けた数百人の被害者に総額1億400万カナダドル(7000万ユーロ)の賠償金を支払うと発表した。教会が発表した声明から明らかになった。これにより、影響を受ける合計292人がそれぞれ5万5000~85万カナダドルの補償金を受け取ることになる。被害者の弁護士の1人はAFPに対し、その額は『他の裁判所からの同様の賠償金』に相当すると語った。人々は問題の規模や虐待がどれほど広範囲に及んでいるかをよく理解していなかった。

2020年、セントジョン大司教区はカナダ最大規模の性的虐待スキャンダルの責任を問われた。裁判所によると、聖職者やその他の教会関係者による性犯罪事件は、ニューファンドランド・ラブラドール州にある現在は廃止された少年孤児院であるマウント・カシェル孤児院で発生した。攻撃は1940年に始まり、数十年にわたって続いてきた。

カナダのカトリック教会聖職者による未成年者への性的虐待問題は新しくない。アイルランド教会、ドイツ教会、フランス教会、スペイン教会、イタリア教会、米国教会、ポーランド教会、ポルトガル教会、オランダ教会など欧米諸国のほぼ全教会で過去、そして現在も聖職者らの性犯罪が発生してきた。米国教会では聖職者の性犯罪犠牲者への多額の賠償金の支払いが出来ずに、破産する教会が後を絶たない。カナダの聖ヨハネ大司教区も2021年に破産申請している。

例えば、パリ五輪大会が開催中のフランスは欧州の代表的なカトリック教国だが、1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたこと、教会関連内の施設での性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るという報告書が発表された。ローマ・カトリック教会の総本山、バチカン教皇庁だけではなく、教会外の一般の人々にも大きな衝撃を与えた。報告書は独立調査委員会(CIASE)が2019年2月から2年半余りの調査結果をまとめたもので、2021年10月5日に公表された。

ところで、パリ五輪大会開会式でのパフォーマンスへの評価で賛否両論があるが、宗教界からドラッグクイーン(女装パフォーマー)やLGBTQ(性的少数者)らを多数起用した開会式のパフォーマンスに違和感を感じる声が聞かれたことはこのコラム欄でも紹介した。

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたイエス・キリストの「最後の晩餐」のパロディはキリスト教会、保守派から強い反発を招いた。フランスのローマ・カトリック教会司教会議は「開会式では、レオナルド・ダ・ヴィンチの有名な絵画を基にした『最後の晩餐』をワンシーンで再現するアーティストたちが登場した。しかし、このシーンはドラッグクイーン、ほぼ裸の歌手、その他のパフォーマーによって、トランスジェンダーのパーティーやファッションショーにパロディ化された」と批判している。

宗教的な神聖なものや人物への冒涜は許されないが、開会式のパフォーマンスのような神聖なものへの冒涜、パロディは、パリ五輪開会式の芸術監督を務めた舞台演出家のトマ・ジョリー氏だけの責任とは言えない。フランス社会には聖職者の性犯罪問題もあって教会への蔑視感情や怒りが浸透しているからだ。

聖職者の性犯罪は重犯罪だ。その犯罪を隠蔽してきた教会は共犯者となる。それでは過去、多くの性犯罪を犯し、その犯罪を隠蔽してきた教会は反社会的団体として国や自治体から解散命令を受けただろうか。欧米諸国ではそのようなケースは聞かない。理由は明らかだ。信者たちの「信教の自由」を守らなければならないからだ。さもなければ、カトリック教会はとっくに解散命令を受けていただろう。カナダ教会や米教会では信者からの献金で性犯罪の犠牲者への賠償金が支払われてきた。もちろん、平信者は聖職者が犯した性犯罪の犠牲者への賠償金として献金したわけではない。

キリスト教会を含め宗教団体は基本的には信者の献金で運営されている。高額献金もあるだろうし、給料の10%献金もあるだろう。そして信仰を失った元信者の献金返還要求は基本的には受け入れられない。なぜならば、献金した以上、その献金はもはや信者のものではなく、教会、神に属するという考えがあるからだ。これは信仰問題であり、経済問題ではない。

日本では旧統一教会(現「世界平和統一家庭連合」)が高額献金問題を理由に政府から解散要求を受けているが、先述したように、全ての宗教団体は献金で賄っている。公明党の元幹部はその著書の中で創価学会の献金問題を指摘していた。献金問題は旧統一教会や創価学会だけの問題ではない。ただし、信者からの尊い献金を正しく扱うことは宗教団体の責任であり、義務だ。

それではなぜ家庭連合だけが解散要求を受けるのか、理由は2つ考えられる。①旧統一教会の創設者文鮮明師が韓国人であり、その宗教団体は韓国生まれだからだ、②旧統一教会の関連団体、国際勝共連合が共産党を激しく批判してきた。共産党は国際勝共連合を恐れてきた。

旧統一教会は欧米のカトリック教会のように聖職者の性犯罪問題は抱えていない。にもかかわらず、自由民主党政権と共産党が連携して、旧統一教会に反社会的団体のレッテルを貼り、その解散を要求している。ちなみに、宗教法人の解散命令の要件となっている「法令違反」は本来、刑罰法令の違反に限られ、民法上の不法行為は含まれない。

以上、日本での「旧統一教会解散請求問題」は「信教の自由」への理解度が不十分であること、左翼弁護士やメディアをはじめ政治家さえも旧統一教会憎しの共産党の思惑に踊らされているからだ。国際社会からみれば、「日本は宗教の自由問題では無法治国家だ」(国際人権擁護グループ「国境なき人権」=HRWFの代表、ウィリー・フォートレ氏)ということになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年8月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。