HPのPalm買収における雑感 - 小川浩(@ogawakazuhiro)

読者の中にはPalmを知らない方も多いでしょう。
Palmは世界で初めて実用的なPDA(携帯型情報端末)の普及に成功したメーカーであり、iPhoneにつながるスマートフォンのメーカーとしての先駆けとなったベンチャーです。

台湾の携帯電話端末メーカーであるHTCが買収に乗り出すという噂もありましたが、結局HP(ヒューレッドパッカード)の傘下に入ることで落ち着きました。買収額は12億ドルとのことです。


PalmはOSとハードウェアの両方を開発しているメーカーです。日本市場からはかなり前に撤退しているので、若い世代にはあまり知られていないのも無理からぬところでしょう。

iPhoneの登場によって急速に拡大し、さらにAndroidの急激な普及によって、Palmの居場所はどんどんなくなってきていました。起死回生を狙って、2009年に「WebOS」という優れたモバイルOSを開発し、それはあのスティーブ・ジョブズさえ脅威に感じたというほどの出来といわれるほどでしたが、肝心のハードウェアの売上自体は鳴かず飛ばず。もはや背水の陣的な状況にあったことは、IT業界においては大きな話題の一つになっていました。

この買収劇で思うことがいくつかあります。

まず一つ目は、拡大するモバイルコンピューティングにおいて、iPhoneに代表される携帯電話型のモバイル端末と、iPadに代表される、やや大きめのタッチスクリーン型端末が、今後の主役となることは間違いなく、特にタッチスクリーン型端末(敢えてiPadクローンと呼びましょう)は、外部入力デバイスやモニターなどの開発を行うサードパーティとのエコシステムによって、やがては既存のノートブックやデスクトップPCの分野も駆逐していく、次世代のコンピューティングであることが100%確実、ということです。さらに、その分野で本当の成長を果たしていくには自前のOSを持たなくては戦えない、ということも確実です。
もちろんHTCなどの単一のハードウェアを作るメーカーであれば、AndroidなどのOEM供給を受けて端末を作っていればそれでいいのですが、HPや東芝、日立、ソニーといった総合電機メーカーのほとんどは単なる端末メーカーとしてはその巨体を維持できないと僕は思います。iPadは家庭にもオフィスにもすんなり入り込みます。デザイン面でも負けて、OSも他力本願ならば、もはや勝負は値段だけでしかなく、日本メーカーは中国メーカーに太刀打ちできなくなることは疑いないからです。

もう一つは、やはりベンチャーは自社テクノロジーに強いこだわりを持たなければならないということです。もしPalmがWebOSの開発を昨年中に間に合わせていなかったら、HPはおろか、誰も彼らを支援しようとはしなかったでしょう。現時点でどのくらいのユーザーがPalmのスマートフォンを使っているのか、詳細の数字は持ちませんが(調べてもいませんが)、それらは引継いでもしょうがない。引継ぐべきは、今後AppleやGoogle、MSやNokiaらと勝負していくためのコアテクノロジーなのです。

僕が経営するモディファイはいっさいの開発を自社のエンジニアとともに行っています。
僕自身も経営者というよりは、カッティングエッジなサービスを生み出すためのクリエイターとしての色合いが強く、それを誇りにも思っています。
現在のモディファイは、MODIPHI IIというインテリジェントクローラーをベースに、ソーシャルメディアを効率的に活用していくためのプラットフォーム「SM3」の開発を進めています。SM3は既に幾多のお客様に利用していただいていますが、まだまだ半分くらいの開発進捗で、ソーシャルメディアを使ううえの、いわばOSのような役割を果たせるテクノロジーと考えています。開発自体はアウトソース、あるいは自社サービスの開発はせずにすべて受託開発、というベンチャーも多いかと思いますが、我々はやはり、自社開発リソースによる自社サービス、に強くこだわっていきたい。

そういう思いを強くしました。

いずれにしても、Palmというモバイルコンピューティング時代の扉を開いたベンチャーは消えてなくなります。その志と残されたWebOSという最後の煌めきが、AppleやGoogleらとの戦いを経て、どのような未来を作るのか。やや感傷的な想いで僕は見つめています。