もしソフトバンクがNTTを買収したら - 池田信夫

2010年05月23日 09:33

きのう磯崎さんとツイッターで議論したことを整理して、超簡単にシミュレーションしてみます。私の論旨は、NTTの構造分離(1社独占)よりも政府が持株をすべて売却してNTTを完全民営化し、ソフトバンクがLBOでNTTグループを買収してはどうかというものです。もちろん、こんな巨大買収は容易なことではないので、これは頭の体操だと思ってください。


NTTの時価総額は約6兆円だから、プレミアムがつくと7~8兆円の日本史上最大の企業買収になるでしょう。しかし世界のM&Aの中では、ボーダフォン=マンネスマンやAOL=タイム・ワーナーなど、10兆円を超えるディールもあり、兆円単位の買収は通信業界では珍しいことではありません。ソフトバンクの時価総額が2兆3000億円だから、バランスとしてもそれほど悪くない。

もちろん従業員20万人のNTTグループを経営することはむずかしいので、時価総額6兆円のドコモだけを残して、NTT東西、コミュニケーションズ、データなどはすべて売却し、持株会社は廃止します(このとき株式交換でNTTドコモの全株を取得すればよい)。これらの会社の現在の時価総額は約2兆円ですが、ファンドに売れば経営を合理化できるので、もっと高く売れる可能性もあります。こういう「全株買収・固定売却」という方式の買収は、ボーダフォンがマンネスマンや日本テレコムなどで行なったものです。

ただしソフトバンクが2つの携帯免許をもつことはできないので、ソフトバンクモバイルは売却すればよい。つまり結果的には、孫正義氏がドコモの社長になるだけです。企業買収はソフトバンクの得意分野であり、1兆7000億円でボーダフォンを買った実績もあります。そのときと同じノンリコース・ローンを組めば、資金繰りの不安は除去できるのではないでしょうか。

最大の問題は、ボーダフォンのときのように資金が集まるかどうかです。ソフトバンクの試算によると、NTTがインフラをすべて光に替えれば2016年から年間3000億円以上の営業利益が出るそうだから、この計算が正しければ資金は集まるでしょう。市場がどう評価するかは、ぜひアナリストのみなさんの投稿を待ちたいところですが、私はこれは次の点で少なくともNTTの構造分離よりはましだと思います。

  • 構造分離という強い規制をする必要がなく、NTT法を廃止できる。これによって25年以上続く不毛な「NTT問題」に終止符を打ち、通信が100%民間の産業になる。

  • アクセス回線会社の収支計算がおかしいという競合他社の批判をまぬがれることができる。国策会社にする場合には、赤字が出たら政府が補填しなければならないが、ソフトバンクが経営責任をもてば問題はない。
  • NTTの非効率な経営(18万人でドコモの1/4の利益しか出していない)を改めて企業価値が上がり、孫正義氏がリードすることによって日本の通信業界が活性化する。

NTTドコモは、実はNTTグループの中継網のかなりの部分をもっているので、ソフトバンクは日本最大の光ファイバー網を保有することになり、通信・放送の融合サービスもできます。むしろ問題は、孫正義氏が「ドコモバンク」を合理的に経営すると、他の会社をはるかに上回る強力な企業になり、携帯電話で圧倒的なシェアをもつことですが、これは周波数オークションによって競争を導入すれば防止できるでしょう。

このとき参入してくるライバルは、最近、日本で企業買収を増やしている中国資本でしょう。このような資本市場でのグローバル競争によって日本経済を再生させることが、成長戦略としても王道だと思います。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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