来年は「電波ビッグバン」の最後のチャンス - 池田信夫

2010年06月14日 20:37

松本さんがNTTの独占に怒る気持ちはわかりますが、政府が介入して問題が改善するかどうかはわかりません。電力や通信のように「最後の1マイル」に巨額の投資が必要な産業ではボトルネック独占が生じやすいので、これについては競争政策で二つの考え方があります:

  • 自然独占を政府が規制してインフラを共有させる

  • 新しい事業モデルの参入によるプラットフォーム競争を促進する


前者が「ハーバード学派」、後者が「シカゴ学派」とよばれます。伝統的な競争政策の主流はハーバード学派で、通信の世界でもAT&Tの分割はこの考え方によるものです。しかしAT&Tの分割は、長距離通信への参入を促進して競争をもたらしたものの、アクセス系のボトルネックは残り、地域電話会社の独占はかえって強まりました。

それほど知られていないのは、同じく80年代に行われたコンピュータ調査で、これは電話会社がデータ通信(遠隔計算)事業を営む場合は、別会社にして他のコンピュータ会社と同じ条件で接続し、通信内容に干渉してはならないというアンバンドル規制の元祖です。実は今インターネットがあるのは、このコンピュータ調査のおかげともいえます。というのは、電話会社は自社のネットワークを通る信号に責任を負うので、TCP/IPのような無責任なプロトコルは許したくなかったからです。この場合は、水平分離の規制がイノベーションを促進したわけです。

アメリカの1996年電気通信法は、コンピュータ調査の延長上でできたものです。DSLなどの新しい技術によって加入者線を複数のキャリアが共有できるようになり、CLEC(競争的地域通信事業者)とよばれるベンチャーがたくさん生まれました。そこでCLECとの競争を促進するため、電話局の内部も含めた通信設備をUNE(アンバンドル通信要素)として分離し、その開放を求めたのが1996年法でした。しかし現実には、電話局の私有財産に行政が介入することは困難で、電話会社が意地悪する「ホールドアップ問題」が多発し、アクセス系の開放は進んでいません。

このころ、もう一つのパラダイム転換が起こっていました。それは携帯電話の爆発的な普及です。セルラー電話の特許は1940年代に成立していたので、携帯電話に帯域を開放していれば、固定電話とのプラットフォーム競争が起こったはずです。しかしFCCはAT&Tの独占を認める代わりに無線通信への進出を禁止し、電波は放送局に使わせる取引を行いました。この結果、無線通信に最適のUHF帯は無意味な「デジタル放送」に浪費され、携帯電話はいまだに寡占状態です。

このように通信規制は技術進歩に大きく遅れて変化しており、イノベーションを阻害することも多い。1980年代には電話の競争が、90年代にはインターネットの競争が問題だったとすれば、いま問題なのは無線と有線の競争です。そして今、初めて対等なプラットフォーム競争が実現する条件が整ったのです。いま足りないのは光ファイバーではなく無線の帯域であり、そのために必要なのは電波の開放です。

FTTHを全国に敷設するコストが2.5兆円もあるなら、LTEの基地局は1個100万円ぐらいなので、鉄塔や中継系の光ファイバーを含めても10万局以上建てられるでしょう。1個数万円のWi-Fiなら100万局以上建てられますが、現状では不可能です。周波数が足りないので十分チャンネルが取れないからです。そして来年7月に現在の周波数配分が固定されると、これほど大幅にUHF帯があくチャンスは二度と来ないでしょう。来年が「電波ビッグバン」の最後のチャンスなので、まずこれに全力を傾けてはどうでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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