政界を窺う人たち - 矢澤豊

矢澤 豊

私事で恐縮ですが、ストラクチャリングのお手伝いをしていた中国向けプライヴェート・エクィティ・ファンドのクロージングを今月末にひかえ、天手古舞な日々を過ごしております。

今日の早朝も、昨晩シンガポールから飛んできたパートナーをオフィスでつかまえて、書類にサインをもらっていたのですが、そんな彼がヤブカラボウに、

「ユタカ、お前は日本の政界に進む野心はあるのか?」

と、尋ねてきて、私をたまげさせました。

日本国内外の日本人富裕層を相手にしたファンド・レイジング活動をしてきたパートナー氏に言わせると、ここのところ彼が会って話をしてきた日本人はおしなべて日本の将来を危惧し、憂国の念もだしがたく、できればいずれは政界に打って出て自らの手腕を世に問いたい、という人たちばかりだったというのです。


そう言われてみると、パートナー氏のホームグラウンドであるシンガポールに活動の中心を移していたタリーズ・コーヒー・ジャパン創業者の松田公太氏が、みんなの党から今回の参議院選・東京選挙区に出馬を表明していたな、と思い出しました。

もしかしたらこの松田氏本人に会ってきたのかと思い、聞いてみると、こうした傾向は、彼が会ってきた日本人のほぼ全般に当てはまるそうです。

中国人は伝統的に、

「 莫談國事(国事を談ずるなかれ)」

という社会的環境にあります。また特にパートナー氏のような華僑系マレーシア人は、国の政策の下、「政治を語る」ことを控える風土の中で半生を過ごしてきています。

そんなパートナー氏の目には、頼まれもしないのに日本の「国事」を盛んに語り、祖国の再生を期する日本人の姿は、いささか奇特に映ったのかもしれません。

しかし、彼の話を聞いて私は、日本もまだまだ捨てたものじゃないなと、安堵しました。

「乃公出でずんば蒼生を如何せん」

という有為の人物が、虎視眈々と、人材枯渇、制度疲弊甚だしい日本政界を窺っているということは、新しい時代の幕開けを予感させます。

またこうしたある程度以上の地位の人々が、国の政策を侃々諤々論じることができる日本の政治環境を、ありがたいとも思いました。(こういう環境があたりまえじゃないということを、海外に住んでいると身に沁みて感じます。)

そして、アメリカの哲学者・政治思想家、コーネル・ウェスト教授の次の言葉を思い出しました。

You can’t lead the people if you don’t love the people. You can’t save the people if you don’t serve the people.
国民への愛がなければリーダーにはなれない。国民への奉仕無くして、国民は救済できない。

この日本の転換期。功なり、富を成したビジネスマンに限らず、数多くの有為の人材に政治の世界に関わってもらいたいと、私は思います。特に私が注目しているのは、もういくらマジメに縦割り省庁組織の中でくすぶりつつ、三流政治家たちに尽くしても、先輩たちのようなおいしい天下り先がないことを知っている若手官僚の皆さん。既定のキャリア設計では、先がないことをご本人たちが一番よくご存知でしょう。

ヴィジョン無き「選挙のプロ」が牛耳る政界が一掃され、衆参あわせて9議席の国民新党が全国郵便局長会から3年で8億円(政党交付金は去年1年間で4億円)もらっているような現状が過去のものになるのも、そう遠いことでないでしょう。

朝一番から、いろいろと思考を刺激してくれたパートナー氏。

「ところでファンドへのコミットメントはもらえてこれたの?」

「....」

だから言わんこっちゃ...。

さしずめ、

「乃公出でずんばこのファンドを如何せん~」

というのが今回のオチです。