非ケインズ効果を伴わない増税はやめるべき!  ―前田拓生

2010年06月26日 22:30

菅首相は参議院選挙を前にして「消費税増税」を打ち出しました。真意はわかりませんが、「現状の危機的な財政を考えてのこと」と思っていましたから、それなりに評価をしていました。しかし、選挙演説等を聞いていると増税で集めた資金は「財政再建」というよりも、単に「雇用の増加に使う」という感じです。しかもこの場合の雇用は付加価値生産ではない分野(介護従事者や公務員など)の生産要素としての労働を中心としたものだそうです。これではいわゆる「非ケインズ効果」も期待できません。というか、中流世帯の負担を高めるだけになると思われます。


一般に「第1の道」とは福祉重視経済(大きな政府)。「第2の道」は市場主義的経済(小さな政府)ですが、いずれもうまくいかないので、「第3の道」として市民を巻き込んだ社会(市民等を巻き込むことにより、なるべくスリム化した政府)を構築しようというのが、アンソニー・ギデンスの主張であり、それを実践したのが英国のブレア首相です。そして、菅首相も英国を模範として「第3の道」を推し進めるために政策を打ち出しているものと思っていました。実際、「最小不幸社会」をスローガンにしているので、それを実現するために政策運営をするものだと考えていました。

ところが・・・

菅首相(およびそのアドバイザー)の主張等を勘案すると、どうも「第1の道」に戻ろうとしているようにしかみえません。実際、アドバイザーの一人は「スウェーデンなどの欧州では税金は高いが安心して暮らすことのできるシステムがある」と解説しています。

そして、今回の消費税増税では、菅首相が頻繁に財政危機を口にするものの、実際には「財政再建のため」ではなく、「強い経済のためには雇用を作り出すことが必要」ということで、雇用拡大にその増税分を充てるようです。しかも、その雇用は介護分野でも良いし、公務員でも良いというのです。なぜなら、労働する能力等があるにもかかわらず、失業状態にある人をそのまま放置すれば「社会的な機会損失になるから」と菅首相(およびアドバイザーたち)は主張しています。

確かに、社会に付加価値を稼ぐことが可能な産業がある場合、その生産要素としての労働者が不足しているために期待される付加価値を稼ぐことができない時には、雇用を増やすことによって社会的に付加価値が増加することになるので、働く能力のある人を失業状態にしておくのは「機会損失」といえます。ところが、介護従事者や公務員の所得は付加価値を創造する主体ではないのですから、公費等でこの分野の雇用を増やしたからといって、それだけでは社会全体として、公費で支出した以上の付加価値はそれほど増加しません。

まぁ、雇用のための賃金の多くが公費で賄われるとはいえ、失業している人が雇用されれば、働くことによって所得を得ることになるので、それなりに消費も増加することから、景気にはプラスの効果があることは理解できます。しかし、現状のように財政危機の状態では「安心して生活ができない」「将来が不安だ」ということで消費を手控えている世帯が多いわけですから、このような政府の雇用対策では、その乗数効果も高くはないはずです。

しかも上述の通り、その雇用が介護分野や公務員であれば、その賃金のほとんどは社会保障費や国費から支払われることから、コンクリートではないものの、一種の公共投資と同じといえます。公共投資として行うのであれば、もっと効率の良い(つまり、乗数効果の高い)使い方をすべきなのであり、このような政策では「経済が強くなる」どころか、単なる「無駄使い」に過ぎないと言わざるを得ないでしょう。

またここで「増税で」としているのは、財政逼迫の折、当該雇用増強政策を行うためのファイナンスを国債に頼ることができないからということが考えられます。つまり、今増税しても、国債によって将来増税するにしても、結果は同じという「中立命題」が成り立つような社会においては、どちらを選択しても良いことになるので、今、財政が厳しいことから「増税で」ということだと思われます。しかし一般に家計としては、今増税されれば、当然、可処分所得が減少するので、消費は減少するわけで、逆の意味で増税による乗数効果から、今以上の景気の悪化を招くことになるでしょう。

さらに・・・

日本は今後も少子高齢化が深刻になるわけですから、社会保障費は財政をさらに逼迫させることが明らかです。だからこそ、ここで財政再建策を考えないといけないわけであり、「そのための増税」というのであれば、いわゆる「非ケインズ効果」として「将来不安の払しょく」により消費が増加させる可能性があるわけで、増税するにしても、そこには一定の合理性があると考えることができます。つまり、非ケインズ効果が、増税による景気減退効果を上回るのであれば、増税をしたとしても景気を冷やさないことになります。ところが、増税した資金を社会保障費に充当したり、財政再建をはかるために使わないとすると、社会保障費の拡大は放置されることになるのですから、将来的不安は払しょくされず、単に消費が減退するだけになります。

以上のように、消費税増税で雇用促進という話は、単に(コンクリートでない)公共投資を行うのと同じと考えられるので、一般家計にとってみれば、増税による負担が増えると同時に、社会保障費の対策になっていないことから、将来不安も残ることになるわけです。つまり、増税と将来不安を同時に国民に強いるだけの政策になってしまうわけです。

介護等の必要性も理解できますし、失業者対策も大切です。それは「最小不幸社会の実現」のためには欠かせないとは思いますが、だからといって、一般家計に過重な負担を強いるような政策は「多くの人に不幸を拡散するだけの政策」になってしまいます。財政的な危機を主張するのであれば、その対策として消費税増税分は社会保障費に充当するなど「財政再建」として使うべきであり、二兎を追うように「雇用促進で経済効果を」などという幻を追ってみても、それはあくまでも幻なのですから、うまくいくはずがありません。

「最小不幸社会」を目指し、「第三の道」を模索し、できるだけ小さな政府で地方主権に移行させるという考え方には大いに期待をしているのですが、功を焦って、幻想のような効果を期待して、間違った政策を実行しないようにしてほしいと願っています。

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