はじめは悲劇として、次は笑劇として - 書評 - ポストモダンの共産主義

2010年07月08日 02:00

筑摩書房松本様より献本御礼。

資本主義者にとって、今最も耳が痛い一冊。

だからこそ、反社会主義者や反共産主義者はきちんと読んで欲しい。

そして逃げるのでもなく、開き直るのでもなく、きちんと著者に反駁して欲しい。

なぜなら、著者もまた「コミュニズム」という言葉を持ち出す以外、「何が問題か」は的確に指摘していても、「ではどうするべきか」をきちんと提示できていないのだから。

本書「ポストモダンの共産主義」は、原著の主題にして邦訳の副題「はじめは悲劇として、次は笑劇として」とあるように、21世紀になって起きた資本主義の二代破綻、9.11とリーマンショックを通して「歴史は繰り返す」を振り返りつつ資本主義社会を批判すると同時に、「三度目の正直」として「コミュニズム」を薦める一冊。

目次

序  最初の十年の教訓
第1部 肝心なのはイデオロギーなんだよ、まぬけ!
第1章 資本主義的社会主義?
第2章 ショック療法としての危機
第3章 敵性プロパガンダの構造
第4章 人間的な、あまりに人間的な
第5章 資本主義の「新たな精神」
第6章 ふたつのフェティシズムのはざまで
第7章 コミュニズムよ、もう一度!
第2部 コミュニズム仮説
第8章 新時代の共有地囲い込み
第9章 社会主義かコミュニズムか?
第10章 「理性の公的使用」
第11章 ハイチにて
第12章 資本主義の例外
第13章 アジア的価値観をもつ資本主義……ただしヨーロッパで
第14章 利潤から超過利潤へ
第15章 「われわれこそ、われわれが待ち望んでいた存在である」

本書の資本主義批判の部分を読んで思い返したのは、日本共産党の国会審議。明快にして痛快。「不透明な時代を見抜く「統計思考力」」で神永正博が「これを見たら共産党を見る目が変わると思います」と言っただけのことはある。

しかし本書の著者はさらに上を行く。明快で痛快であることに加え、funny なのだ。日本語だと「面白い」で interesting と funny をいい分けられないのでこういう言い方をしたが、ベルルスコーニをバットマンのジョーカーにたとえるなんて実に秀逸である。

本書は哲学者の手によるもので、そして哲学者というと難解な言葉をこねくり回すというのが相場であるが、本書において著者はこの相場を破壊–あるいはポストモダンに敬意を表して–脱構築している。批判に用いている武器が、ポップカルチャーというのが二重にすごい。読者が慣れ親しんでいるだけあって格段にわかりやすい上に、そしてそれ自身が資本主義の産物である上に、反論すれば同士討ちになってしまうということで反論も封じやすい。

現代社会に不満を持つ者は、大いに溜飲を下げることができるだろう。

ところが、である。

私は著者の言っている「コミュニズム」が一体全体何を指すのかさっぱりわからないのである。そう。「共産主義」でなくて「コミュニズム」。訳者はあえて共産主義ではなくコミュニズムと言っている。「妙にハートとネグリめいている」なんて絶妙な訳を繰り出す訳者は、もはや日本共産党を除けばライフはゼロよ!な共産主義という言葉をここで避けているからには、それは我々が知っている–つもり–の共産主義とは別の何かだと思われる。

P. 258

クラフチェンコのような偉大な反コミュニストでも自分の信ずるところへある意味戻れるのだから、今日のわれわれえのメッセージはこうであらねばならない。恐れるな、戻っておいで!反コミュニストごっこは、もうおしまいだ。そのことは不問に付そう。もう一度、本気でコミュニズムに取り組むべきときだ!

そう仰られても、ねえ。その「戻るべき」「信ずるところ」がはじめから(わから)ない、私を含めた読者は一体どうしたらよいのか、と。

クラフチェンコがどのような人物かは本書で確認していただくとして、ここでクラフチェンコは「共産主義」が「コミュニズム」とは異なっていたことに幻滅して資本主義者になったはいいが、資本主義にも幻滅した人物の代表として登場する。

かつてユーゴスラビアだったスロベニア出身の著者にとって、その「戻るべき」「信ずるところ」は「言うまでもない」なのかも知れないし、安保闘争を戦って負けた人々にとっても「そんなの常識」なのかも知れないが、私のようなオッサンでさえ、冷戦以前の世界がどんなだったかを思い出すのは一苦労。ゆとり世代に至っては冷戦は記憶ではなく歴史に属することがらである。

今のこの社会が、「そのままいるべき」「信ずるところ」だとは私も思わない。

ならば示すべきではないのか。「どこに」「いくべき」なのかを。

とはいえ、本書は新書でもある。問題提起だけで紙幅が尽きたとしてもやむ得ない点はある。現代社会の問題集として本書は出色の出来である。腕に覚えのあるキャピタリストはぜひ取り組んでいただきたい。

Dan the Skeptic Capitalist

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