マイクロソフトの日本支社をかつて日本に根付かせ、今は日本有数の読書家として知られる成毛眞は、最新刊「実践!多読術」でこう主張している。
自己啓発書より、経済学の書を読め。経済学の書より、自然科学の書を読め。
激しく同意なのであるが、私はあえてこう付け加えたい。
サイエンス・ファクトに加え、サイエンス・フィクションを読め、と。
本書「断絶への航海」は、先日7月12日に69歳で亡くなったSF作家、ジェームス・P・ホーガンの一作。デビュー作「星を継ぐもの」から始まり、「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」へと続く「巨人三部作」をはじめ日本でも人気抜群の作家であるが、2010年の今、SFを読む習慣がない人にホーガン作品を一冊薦めるとしたら、これになる。
本作品は、"Economy of Abundance"をメインテーマにしたはじめての作品ではないか。
「BOOK」データベースより第三次世界大戦の傷もようやく癒えた2040年、アルファ・ケンタウリから通信が届いた。大戦直前に出発した移民船〈クヮン・イン〉が植民に適した惑星を発見、豊富な資源を利用して理想郷建設に着手したというのだ。この朗報をうけ〈メイフラワー二世〉が建造され、惑星ケイロンめざして旅立った。だが彼らを待っていたのは、地球とはあまりにも異質な社会だった…
〈クヮン・イン〉に搭乗していた移民は、実はすべて受精卵。彼らはクヮン・イン搭載のロボットたちに育てられ、ケイロン人となった。核融合炉によりエネルギーに不自由しない彼らは、貨幣というものを知らずに暮らしている。
そこに地球からメイフラワー二世号がやってくる。貨幣経済をたずさえて。すぐ後ろからは競合する国家群の移民船がやってくる。一刻も早くケイロンに資本主義を確立し、「敵国」の到着に備えなくては…
というのが本作のあらすじであるが、メイフラワー二世号の移民たちをいたれりつくせり歓待したあげく、移民たちが代償を通貨で支払おうとすると「ナニソレ?」とばかりにきょとんとするケイロン人には、作品発表後30年近く経た今も驚かされるのではないか。
しかし、21世紀の我々は、1980年代の我々ほどには驚かないはずだ。
地球にも、ケイロン人たちが登場しはじめているからだ。
Daniel Pink の言うところのOS 3.0にアップグレードした人たちは、アルファ・ケンタウリに行かずともここにいる。かくいう私もその一人になるだろう。
意味のないオルタナティブな社会システムを模索するのはやめにしよう - 藤沢数希 : アゴラ何度も言うけど、資本主義、自由市場経済と言ったものに代わる、何か別の社会システムと言うのは今までも全て失敗したし、これからも必ず失敗するのである。
という人ほど、本書を楽しまれることだろう。
ぜひメイフラワー二世号の移民になったつもりで、貨幣経済の素晴らしさを、自分よりも裕福な人々に説いて欲しい。
読了後には、自分がケイロン人化しているかもしれないけど。
それにしても、本作のホーガンも元DECのエンジニアだし、「アッチェレランド」の Charlie Stross も元プログラマー。私もそろそろSF書くかな(笑)。
Dan the Economic Animal -- Whichever Version it May Be



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「断絶への航海」の「個人相互の尊敬を『貨幣』とした社会が成立した場合、どんなものになるのか?」と言う問いは、一見荒唐無稽ですが、現代社会で(ごくごく部分的な現象ですが)pixvのようなクリエーターコミュニティで成立している事象を先取りしていた、と言えると思います。これが30年近く前に書かれていることを思うと、SF作家の先見の明は実に驚嘆すべきものがあると思います。
まあ、ブクマやフォローが一種の貨幣となるようなコミュニティは量産/流通コストがゼロに近いデジタルコンテンツ界隈ならではの事象と思いますので、「尊敬を貨幣とする社会」をマーケットメカニズムのオルタナティブとして検討するのは、ケイロン社会のような「ほぼ無限で無料のエネルギー」が実現した後でいいとは思いますが、だからと言って「資本主義のオルタナティブは未来永劫現れない」と断言しちゃうような藤沢氏のスタンスはちょっと視野が狭いんじゃないか(笑)、と思います。
まあ予想できるはずも無い何世紀も先のことなんか気にしないで断言しちゃう方が現実的な態度だと思いますが、そんな現実的な藤沢氏なんかが「無限エネルギー」と「世代隔離&洗脳的教育」により過去の文化から断絶した社会の話を読んで、どういう感想を持たれるのかは、非常に興味があります。