27日、デジタル教科書教材協議会が発足し、マイクロソフト、ソフトバンクなども加わった70社で、政府の指導のもとに「実証実験」などを行なうことが決まった。電子書籍を教育に利用するのは結構なことだが、それによって教育の内容をどう変えるのかという論議はまったく見えない。
同じような話は20年前からあり、当時の文部省は「教育の情報化」と称してBTRONという日の丸パソコンを全国に配布しようとしたが、まったく使い物にならなかった。90年代後半には「教育のネット化」と称して、フィルタリング・ソフトがたくさん開発されただけだった。今度の話も、電子書籍ブームに便乗して、デジタル教科書という名前の「官公需」を当てにして集まっただけではないのか。
特に気になったのは、ソフトバンクの提案だ。「全国2000万人の学生と教員全員に無料でiPadを配布する」と宣言して聴衆を驚かせたが、実態は「デジタル教科書のリース料(ひとり月額280円)を子ども手当でまかなう」という。何のことはない。デジタル教科書に名を借りて、税金を食い物にしようということだ。こういうゼネコン根性が日本企業の国際競争力を低下させてきたのだが、ソフトバンクもその仲間入りをしたいということか。
いま日本の教育の抱えている問題は、単に「デジタル化」することで解決するような簡単なものではない。英語教育ひとつとっても、TOEFLで北朝鮮にも負けるような状態なのに、英語のしゃべれない教師をクビにできない。ちゃんとした教育をする学校を選ぶと、高いコストがかかる。文部科学省と日教組がタッグを組んで競争を排除しているため、一律で非効率な教育システムが変わらないのだ。こんな状態で生徒に端末を配っても、昔のBTRONのようにゴミになるだけである。
教科書は、教育の手段にすぎない。教育の内容をどう変えるかという目的がはっきりしないのに、道具やハコモノに税金を投入するバラマキ行政では、何も解決しない。まずやるべきなのは、非効率な教育システムをITで合理化して無能な教師や不要な事務員を削減し、教育バウチャーなどによって学校間の競争を導入することだ。教師にインセンティブがあれば、効率的な手段を彼らが選ぶだろう。
コメント
池田様へ
上記の内容への質問があります。お答えいただけると幸いです。
>特に気になったのは、ソフトバンクの提案だ。「全国2000万人の学生と教員全員に無料でiPadを配布する」と宣言して聴衆を驚かせたが、実態は「デジタル教科書のリース料(ひとり月額280円)を子ども手当でまかなう」という。何のことはない。デジタル教科書に名を借りて、税金を食い物にしようということだ。こういうゼネコン根性が日本企業の国際競争力を低下させてきたのだが、ソフトバンクもその仲間入りをしたいということか。
端末代が原価で通信料無料という条件の提案で、税金を食い物にするというふうに考えたのはなぜですか?
圧倒的にシェアを増やすのに自社のお金を使わずに税金を使ってシェアを増やすのに利用していると考えたのでしょうか?
>非効率な教育システムをITで合理化して無能な教師や不要な事務員を削減し、教育バウチャーなどによって学校間の競争を導入することだ。
こちらと同時に電子教科書の導入を議論していくのはダメですか?無能な教師が一掃されて、費用と便益を比較する能力の高い教師が揃うまで電子教科書は導入しない方がいいですか?
「端末代が原価で通信料無料という条件の提案で、税金を食い物にするというふうに考えたのはなぜですか?」
→
>>実態は「デジタル教科書のリース料(ひとり月額280円)を子ども手当でまかなう」という。
「こちらと同時に電子教科書の導入を議論していくのはダメですか?」
→
>>こんな状態で生徒に端末を配っても、昔のBTRONのようにゴミになるだけである。
全体を読解しないで引用してもしょうがないですよ。
「自分の言葉で考える」という考えに拘らず、
まずは池田さんの言葉で考えては如何。
>まずやるべきなのは、非効率な教育システムをITで合理化して無能な教師や不要な事務員を削減し、教育バウチャーなどによって学校間の競争を導入することだ。
教師がアホでも教材が秀逸なら、子供たちの学力が上がる可能性は否定できません。私の子育て経験によれば、ベネッセの「チャレンジX年生」シリーズの教材は秀逸です。これをiPad用の教科書コンテンツに作り変え、教科書内からカラー百科事典やウィキペディアなどにリンクを張って、生徒が自分の能力・好奇心・探求心のレベルに応じて学習を深められるようにすれば、孫氏の目論見も結果オーライになる可能性があるのではないでしょうか。
http://bobby.hkisl.net/mutteraway/?p=2562
はんてふさん
返信コメントありがとうございます。
恥を忍んでお聞きしたいのですが
>>実態は「デジタル教科書のリース料(ひとり月額280円)を子ども手当でまかなう」という。
この280円が端末代原価で通信料は無料ということなのですが、これでどこかの企業が税金を食い物にしているということがわからなくて質問しました。確かに端末を作っている会社は原価代だけでも儲かるでしょうが、提案したソフトバンクはそこからバックでもうけとるということなのでしょうか?
>>こんな状態で生徒に端末を配っても、昔のBTRONのようにゴミになるだけである。
端末を配るかどうかの議論と教育のIT化の議論を同時に進めるのはどうなのでしょう?
20年前の使えもしない技術を金儲けのために無理やり導入した時代と、すでに生活の中に浸透しつつある技術とでは前提が違ってくるとは思うのですがいかかでしょうか?
そもそもデジタル教科書が必要なのかという問題はさておき、
IT関係の調達が「ばらまき」になってしまうのは、
ハードウェア中心の調達方法にあるんじゃないかと思います。
ハードウェアで囲い込み、
フォーマットで囲い込み、
コンテンツで囲い込む。
これは、明らかに市場原理に反する調達方法で、
高コストになる一方、質の低いシステムしか得られません。
デジタル教科書もこのまま行くと、
単なるばらまきになってしまうというのは
ほんと、おっしゃる通りだと思います。
>>実態は「デジタル教科書のリース料(ひとり月額280円)を子ども手当でまかなう」という。
ここで想定される「リース契約」は、少なくとも義務教育終了、ケースとしては高校卒業までが契約範囲になるでしょう。
そうすると、280×12×(6+3)=30240円。
高校までの計算だと40320円。
あれ?これだと定価を割り込んでいますね。
なので、
>>提案したソフトバンクはそこからバックでもうけとるということなのでしょうか?
という事になるかと思います(販売もソフトバンクだとは思いますが)。iPadの原価率は知りませんので、赤字か黒字かは解かりません。だけど、勝算のある数字を出してくると思いますので、これでも結構美味しいんだと思います。
>>すでに生活の中に浸透しつつある技術
確かに、IT技術革新は飽和状態というような内容を池田先生も言及されていました。ですがiPadの値段はブランドなんですよね。3万を切る、教育用に的確な端末も出てくるかも知れない。
何より、(教育論になりますが)、教材よりも大事なのはカリキュラムなんですよ。これについては、芦田先生の過去ログなどを参考にされてはどうでしょう。
http://www.ashida.info/blog/
率直にいって、「光の道」といいデジタル教科書といい、最近の孫正義氏は「政商」的な傾向を強めています。これはADSLの成功体験を「政府に圧力をかければ競争条件を変えることができる」と総括したものと思われます。しかしADSLの成功は、多くの偶然が重なった「まぐれ当たり」であり、二度と同じことは起こらない。
今度のデジタル教科書も、2000万人の教育用端末をソフトバンクが支配したら、大変なことになる。そんなものに子ども手当を使う政策が実現する可能性はないと思いますが、孫氏は原口氏に食い込んでいるので、似たようなことが起こるリスクもあります。一番よくないのは、シンポジウムでも、こういうナンセンスな話に「それはおかしい」という人がいないこと。孫氏は「裸の王様」になっているのではないか。
電子教科書がちゃんと活用されれば、紙の教科書代(9年で数万円)やプリント等の補助教材費がゼロになり、それだけでも元が取れる可能性もあります。もっとも、端末の破損リスクやコンセント整備等のコスト増要因も多いです。
ただ、「ちゃんと活用される」確率は、ほぼゼロでしょう。過去50年、学校教育で新技術が導入されて有効だった事例はあるんでしょうか。教師個人の能力で成功した例ならあるでしょうが、全国で均一に成功した事例は聞いたことがないです。そういう体質を変えない限り、何をやっても成功しません。
まあ「子供とエコ」は国民が思考停止して無条件に受け入れ易いテーマなので、これからも似たような話は続くでしょう。次はワイヤレスとか拡張現実・3Dなんかが狙い目ですかね。
はんてふさん池田先生へ
ありがとうございました。大変参考になりました。
デジタル教科書で学んだ世代は、当然、GUIで覚える思考になるので、今の「ゆとり」よりも、コミニュケーションがとりにくいい連中になるとおもいますよ。
携帯端末が各児童に配られるのは、「各家庭に百科事典」のセットを配るのと同じことで、「国民識字率」と「生涯学習」に
役立つ、と同時に思考(嗜好)の囲い込みをできるという
F・K・デックのネタですね。
紙媒体の費用削減をメリットに挙げるひとがいるが。
そもそも、デジタル教科書って9年間の継続使用できない
んじゃないの?
副教材(書道とか裁縫とかの道具)の業者は、ソフト化するのか?
TRONもそうですが、
Σ計画(Σ OS)のような事は避けなければならないと思いました。
>>最近の孫正義氏は「政商」的な傾向を強めています。・・・一番よくないのは、シンポジウムでも、こういうナンセンスな話に「それはおかしい」という人がいないこと。孫氏は「裸の王様」になっているのではないか。
それは同意します。
ITゼネコン的な性格が強くなってしまった。
それは、上意の戦略レベルから、現場の戦術レベルまで
そのような気配を公私に渡り、僕は感じます。
SBはよくNTTを引き合いに出します。ですが、
良くも悪くも、NTT系の方が、話は通じますし、
何より大人なんですよね。
どうもSB系は神経質というか、ヒステリーというか。
徳川家康に本多作左衛門重次という口うるさい武将
がおりました。
今、SBに必要なのは坂本龍馬ではなく「鬼作左」でしょうね。
僕如きの立場の人間が忠臣しても、足軽頭レベルですので
全く相手にされませんわ。
あのように会社全体が依怙地になっていると、
孫正義は坂本龍馬というより、
北条氏政や武田勝頼にでも例えた方がいい。
ソフトバンクは、幹部から平社員まで「変な会社」です。日本のコンセンサスとは大きくずれたところで仕事をしている。私は、この変なところに彼らの価値があると思っていますが、最近は悪い意味で日本的になってきた。「山間離島までFTTH」とか「2000万人に無料でiPad」とかいうのは、民主党的ポピュリズム。
最近の孫氏が、出自を表に出して「お国のため」という話をしきりにするのも、うんざりします。日本がこの先、大きな危機に直面したとき、恐いのは「お国のため」と称して国民を糾合するデマゴーグが出てくること。ソフトバンクは、変な会社のままでいてほしい。
5.さん
>IT関係の調達が「ばらまき」になってしまうのは、
>ハードウェア中心の調達方法にあるんじゃないかと思います。
>ハードウェアで囲い込み、
>フォーマットで囲い込み、
>コンテンツで囲い込む。
>これは、明らかに市場原理に反する調達方法で、
>高コストになる一方、質の低いシステムしか得られません。
この話題をずっとトレースしてますが、ソフトバンクはハード供給に言及してませんよ。マイクロソフトが出してもいい。グーグルパッドみたいなのがあってもいい。iPadに拘る必要は無いとはっきりと発言しています。ハードは何でもいいと言う事です。それからコンテンツで囲い込みと云うう事ですが、プレゼンではコンテンツはオープンなインターネットから無尽蔵に取り出せる訳ですし、教材選択や加工は教師や学校に委ねる様な事も言及してますよね。
ある学校の先生が優れた実験の動画を撮って、それを教材として使い、教育成果が上がったら、他の学校の先生もその動画を利用出来ればいい、見たいなね。つまりコンテンツでも囲い込みと表現されたこととソフトバンクが言っている事とには開きがありますね。
コンテンツの囲い込みとは、例えば携帯のCMで「○○が見られるのは△△△だけ!」というキャッチフレーズを平気で流すような感覚の企業の専売特許でしょう。
個体発生は系統発生を繰り返すという言葉がありますが,人間は胎児の時代,魚類や両生類を経て人間の形になります。発生の前段階を省くことはできません。脳の発達や知識や技術の習得も似たようなところがあり,例えば未開の部族にポリタンクが入り込み,それまでその部族で伝承されてきた土器製造の技術が途絶えてしまいました。その部族は未来永劫ポリタンクを援助隊からもらわなければならなくなったのです。人間の識字や情報伝達の手段に紙と鉛筆の時期を経ないでよいはずはありません。いきなり与えられたiPadは子供たちの学習にとってポリタンクのようになるでしょう。
実験すればいいでしょう。紙と鉛筆はこれまでどおりですね。そこに小学校1年生から電子教科書で学習するモデル校をいくつか選定し電子教科書学習を部分導入してみる。
その学習効果を見て、一斉導入するか決めればいいと思います。
導入の前からこんな副作用があるからやらないと決め付ける方が危険だと思いますね。
ちなみに16.さん
未開の部族は土器を製造していたがポリタンクの導入で土器製造と言う技術伝承が廃れてしまったとの事ですが、小学生は紙と鉛筆を使用しても紙や鉛筆を作れる訳ではありません。紙は製紙会社や、鉛筆は鉛筆製造企業が作ります。小学校の教科書が紙から電子教科書に置き換わっても、もともと紙も鉛筆も小学生には作れませんw作るノウハウをチュートリアルで学習すれば別ですがw
それよりも、こうしてWEB上の掲示板に山のような書き込みがなされる昨今、なぜ小学生からの電子教科書導入にアレルギー反応を起こすのか?未知への恐れが未知への憧れよりも大きいからなんでしょうか?
>小学生は紙と鉛筆を使用しても紙や鉛筆を作れる訳ではありません。紙は製紙会社や、鉛筆は鉛筆製造企業が作ります。
いや、そういう話じゃないでしょう。
部族にしたって、部族全員が土器を作るわけじゃない。
当然、分業はされてる。制作者=使用者という
条件付けは必要だとも思わない。
使用も含めた文化を喪失したから、ポリタンクに代替
されたのは自明なのでは?
使用も含めた「紙と鉛筆の文化」が問題なのでは。
寧ろ、紙と鉛筆の文化は、使用感とか実体の意味が
大きいでしょう。製紙業は無関係、使用文化の話。
電子書籍は「紙と鉛筆の文化」の比喩であって、
最初から子どもに比喩を使わせるのはどうなのか、
という意見なんじゃないでしょうかね。
>いきなり与えられたiPadは子供たちの学習にとってポリタンクのようになるでしょう。
それでこの結びがあるわけなんですよ。
そもそも動画学習なら、学校のノーパソから映写して
みんなに見せればいいじゃないのかな、と思う。
電子書籍を操作して、それぞれが近くの画面で
見ましょう・・・ってメリットあるのか。
メーカーの作成したインターフェースを学んで意味が
あるのか、と思う。これは紙の教科書と同じであるが
故に、インターフェースそのものは学習の意味はない。
結局、ノーパソ1台と映写機とケーブルと投影幕、
これはもう既に学校にあるようなものだと思う。
それこそ今日からだってできるような学習内容。
これと電子教科書、決定的な学習効果の差は
考え辛い。あるとしたら教師の質の差だけ。
だからこそ「ITゼネコン的発想」と批判されるのでは?
コスト削減を謳わないITゼネコンはないし、
契約には「実際削減できなかったら返金します」
という文言もありませんでしょうしね。
もしかすると、唯一神デジタル教科書が、ノートも鉛筆も黒板類も全ての補助教材も(ひょっとすると校庭も遠足もプールも給食も)不要にすると思っていて、そんなことは不可能だ、と反対するような人が居るのでしょうか。
大臣の中には、そう思っていて 『はい、可能です』 口走りそうな人は居ますが・・・
デジタル教科書に変えるならkindleやSONYの電子書籍の端末をオフラインで使うべきでしょ。
ipadなんか採用したら子供たちの楽しいオモチャになるだけ。昼休みにオンラインゲームを楽しむ小学生が目に浮かんできてしょうがない、これは学校にプレステ3を持ち込むような暴挙ですよ。
最近のソフトバンクはリッチなインフラ、リッチなコンテンツを掲げて頑張ってますが、今以上の恵まれた環境を与えられても、何か劇的に改善されると言う事はないでしょう。
教育の質を上げたいのなら教師の質を上げることに腐心すればいい話ですし。
彼らに求めるものは安く安定した電波・回線であって、インフラ屋の範疇を超えた構想ばかりぶち上げられても正直・・・