「デジタル教科書」というバラマキ - 池田信夫

2010年07月29日 09:46

27日、デジタル教科書教材協議会が発足し、マイクロソフト、ソフトバンクなども加わった70社で、政府の指導のもとに「実証実験」などを行なうことが決まった。電子書籍を教育に利用するのは結構なことだが、それによって教育の内容をどう変えるのかという論議はまったく見えない。


同じような話は20年前からあり、当時の文部省は「教育の情報化」と称してBTRONという日の丸パソコンを全国に配布しようとしたが、まったく使い物にならなかった。90年代後半には「教育のネット化」と称して、フィルタリング・ソフトがたくさん開発されただけだった。今度の話も、電子書籍ブームに便乗して、デジタル教科書という名前の「官公需」を当てにして集まっただけではないのか。

特に気になったのは、ソフトバンクの提案だ。「全国2000万人の学生と教員全員に無料でiPadを配布する」と宣言して聴衆を驚かせたが、実態は「デジタル教科書のリース料(ひとり月額280円)を子ども手当でまかなう」という。何のことはない。デジタル教科書に名を借りて、税金を食い物にしようということだ。こういうゼネコン根性が日本企業の国際競争力を低下させてきたのだが、ソフトバンクもその仲間入りをしたいということか。

いま日本の教育の抱えている問題は、単に「デジタル化」することで解決するような簡単なものではない。英語教育ひとつとっても、TOEFLで北朝鮮にも負けるような状態なのに、英語のしゃべれない教師をクビにできない。ちゃんとした教育をする学校を選ぶと、高いコストがかかる。文部科学省と日教組がタッグを組んで競争を排除しているため、一律で非効率な教育システムが変わらないのだ。こんな状態で生徒に端末を配っても、昔のBTRONのようにゴミになるだけである。

教科書は、教育の手段にすぎない。教育の内容をどう変えるかという目的がはっきりしないのに、道具やハコモノに税金を投入するバラマキ行政では、何も解決しない。まずやるべきなのは、非効率な教育システムをITで合理化して無能な教師や不要な事務員を削減し、教育バウチャーなどによって学校間の競争を導入することだ。教師にインセンティブがあれば、効率的な手段を彼らが選ぶだろう。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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