菅政権へのみっつのお願い

2010年09月16日 02:41

昨日の民主党の代表選では菅直人が大差をつけて小沢一郎を破り、民主党の代表、つまり日本国の首相に選ばれた。このことについてはすでに多くの識者が数えきれないほど論評を書いている。菅直人が優勢であることは事前にさまざまなメディアで伝えられていたので、筆者としては特におどろきはなかった。今日は、財務相続投が決まった野田大臣による祝砲ともいえる為替介入が、実に6年ぶりに実施された。この為替介入は市場にサプライズを与えドルレートは一気に2円ほど上昇した。そしてそれに答えるかたちで日経平均株価は日中に4%以上も跳ね上がった。菅政権はひとまず順調な再スタートを切ったようである。


今日のエントリーでは筆者から菅政権へのみっつの要望を述べたいと思う。これからいうみっつの要望は日本経済を再び成長軌道に乗せ、日本国民が将来も豊かであり続けるために絶対に必要なことである。

1. 社会保障費改革

日本の社会保障費は100兆円を超えつつある(すでに超えている可能性が高い)。その内訳は50兆円程度が年金、つまり老人の生活費。そして30兆円程度が医療費である。日本のGDPが500兆円程度ということを考えるとこの100兆円の社会保障費というのがいかに莫大な金額かわかろう。そしてこれはおそろしい勢いで毎年増え続けている。

医療技術の発達等により平均寿命が飛躍的に伸び、また出生率の低下で人口に占める高齢者の比率が急速に高まった。現在は3人程度の現役労働者で1人の年金生活者を支えているが、あと10年もしないうちに2人で1人を支えることになる。このような仕組みが早晩破綻することは火を見るより明らかだろう。

そこでふたつの選択肢がある。税金を上げて企業や労働者へ多大な負担をかけるか、給付を減らすかである。残念ながら現在のようなグローバル経済の中で前者を選択することは自殺行為になるだろう。なぜならば人も会社も日本から逃げていくからである。よって日本が取る選択肢は後者しかない。つまり給付水準の大幅なカットである。

現在、多くの高齢者がおどろくほど健康であり、また多くの金融資産が高齢者に偏在している現状を顧みれば、貧しい若者の所得を高齢者に機械的に移転する必要性は皆無である。年金支給開始年齢を75歳以上と大幅に引き上げる。さらに所得や資産のある高齢者に年金を支払う必要はない。健康上のやむを得ない理由で働けない者にのみ国が生活を保証するという、障害者福祉に社会保障費は限定するべきだ。そしてそのような本当に国が救済しなければいけない人達はずっと少ない。時に厳しい現実を説明し国民を説得するのがリーダーたる首相の仕事だ。大胆な社会保障費のリストラを菅政権には期待したい。市場により暴力的にそうすることを強制される前に

2. 税制改革

菅内閣からは時おり悪い冗談としかいえないような話がメディアを通して伝わってくる。例えば高額所得者の所得税の累進性を強めるなどだ。現在、日本の所得税の最高税率は40%で地方税の10%を合わせると50%になる。江戸時代でさえ五公五民(収穫の50%が年貢)というのは農民一揆が起きるかどうかのぎりぎりの線だったという。いうまでもなくこれは世界最高水準の税率だ。ここからさらに税金をあげるなんて狂っているとしかいいようがない。

日本から企業が海外に逃げないように、あるいは海外から企業を日本に誘致するために法人税を下げようという議論がある。もちろんアジア諸国の中で飛び抜けて高い日本の法人税を下げることは喫緊の課題だということは、筆者も全くの同意見である。しかしむしろアジア諸国と比べて異常に高いのが高額所得者に対する所得税だ。いうまでもなく企業は人によって作られ、人によって経営されている。そういった企業で意思決定に関わるマネージャーや莫大な利益を生み出す専門家は高額所得者だ。彼らは会社のため、あるいは国のためにも働いているかもしれないが、第一に自分のために働いているのだ。同じ仕事をして1億円の給料をもらっても、日本では5000万円しか残らないのに、香港やシンガポールでは8500万円も残るとなれば誰がわざわざ日本で働こうと思うだろうか。

東京の金融業界に関していえば、数千万円から数億円の所得があるプレイヤーの多くが2008年の金融危機以降の全社的なリストラクチャリングのなか、東京から香港、シンガポールに移籍した。例えば1億円の所得がある人材の場合、会社の利益には10億円以上貢献している。その分の法人税が40%だとすると4億円だ。所得税は4千万円程度だ。こういう人材が1人香港に移籍すると、日本国政府は4億4千万円の税収を失うことになる。生活保護世帯への援助が年間300万円程度とすると、約150世帯の生活保護家庭に相当する税収が香港政府に移転することになる。「命を守りたい」と繰り返しいっていた民主党政権は、実際は弱者の命を奪うような政策ばかりを実行しようとしているという現実を直視すべきだ。

所得税のフラット化と、法人税の減税によって、租税競争で他のアジア諸国と対等のビジネス環境を構築しないといけない。そして国家間でこのような競争が起こることは大変素晴らしいことだ。

3. 労働市場改革

長引く不景気、デフレ、そして経済の無成長によりもたらされる閉塞感。こういった日本経済の問題の元凶が、労働市場や産業構造の硬直化だ。時代と共に刻一刻と変化するグローバルな経済環境に追随するためには、流動的な労働市場と産業構造の活発な新陳代謝が不可欠だ。前者は、時に企業によるリストラ、つまり従業員の解雇を意味し、後者は時に衰退産業の破綻を意味する。しかし日本国政府はこういった一時的な「痛み」を避けるために、潜在的な失業者を企業に縛り付け、実質的に破綻している企業を補助金などにより保護してきた。つまり国の貴重な労働力や限りある資本を、衰退する分野にロックインし続けてきたのだ。

このように経済のダイナミクスが失われれば経済が成長しないのはむしろ当然の結果だ。筆者は解雇規制の自由化により、日本の労働市場の流動化を一気に推し進めることを菅政権には期待したい。すべてが手遅れになる前に。

以上。

参考資料
平成19年度社会保障給付費の概要、国立社会保障・人口問題研究所
日本の税をどう見直すか、土居丈朗、他
労働市場改革の経済学、八代尚宏
だまされないための年金・医療・介護入門―社会保障改革の正しい見方・考え方、鈴木亘

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