学問的論争は「運動スローガン」ではない

2010年10月25日 10:27

きのうの飯田泰之氏と私のツイッターでのやりとりの一部がTogetterにまとめられています。もちろんマクロ経済学の論争をツイッターでやるわけにはいかないので、これだけ読んでも理解できない人が多いでしょうが、飯田氏の議論は誠実で、いくつかのポイントが明らかになったと思います。問題があるのは次の発言です。

「お金を刷ればデフレはたちどころに止まる」は運動スローガンでしょう.政策を実行までもっていくためには理論的な話から宣伝活動までさまざまな水準での主張が必要になるでしょう.


彼の考えているリフレ政策は「数年の間には何か需要ショックはあるでしょう.それを伸ばしていくために先回りして,拙速な引き締めに至らない縛りが必要」という穏当なものです。日銀も先日の追加緩和で「物価の安定が展望できるまで実質ゼロ金利を継続する」という時間軸政策を表明しており、これは通常の学問的な議論の範囲内です。

これに対して、勝間和代氏は「全世帯に100万円を超えるまで定額給付金を配り続ける」という政策を提案しています。これは総額50兆円以上の財政政策を発動することになるが、彼女と同席した飯田氏はこれに「まったくそのとおりです」と賛同している。勝間氏の話は彼の主張と違うのではないかという私の質問に、彼は「運動スローガン」なら極論でもしょうがないと答えたわけです。

バーナンキの背理法という詭弁についても、私が「リフレが有効だという証明にはなっていない」と批判したところ、飯田氏はこれは「何をやっても政策的にインフレは起こせない」という主張への反例だと反論したが、そんな主張は日銀も経済学者もしていない。これは彼も認め、「メディアでの素朴な無効論」への反論だと言い訳しています。

こういう政治的レトリックを研究者が使うことは学問的に不誠実であり、政治的に危険です。「運動スローガン」を広めるのは政治家の役割であり、研究者の仕事ではない。むずかしいことをやさしく解説することは教育者としての仕事ですが、詭弁を使って素人を「論破」することは、問題を混乱させるだけです。

インフレ目標は意味のある政策であり、竹中平蔵氏や伊藤隆敏氏なども提唱しています。しかし彼らは「無税国家」などといわないし、「日銀の大罪」が長期不況の最大の原因だともいわない。政策論争は必要ですが、飯田氏の推進している「運動スローガン」は論争を脱線させて、ネット上の「ネタ」にしてしまった。政治家や評論家はともかく、研究者は学問的な裏づけのあることだけを語るべきです。それがいやなら、研究者をやめるしかない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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