大卒就職難に思う - 山口 巌

2010年12月06日 21:23

私事で恐縮だが、私は国立大学理系の3年生を長女に持つ父親である。従って時々彼女の将来、進路に就いて話す機会がある。長女は大学院進学を希望しており、大学を卒業したら早く実社会に出て経験積んだ方が得る物多いし、キャリアパスとしてより上等ではないかと考える私とは意見が合わない。

とは言え別に大学院進学が反社会的行為と言う訳では無いし、興味あるテーマ(彼女の場合は発色LED)を極めたいと希望するのは大学生活がそれなりに充実している証でもあり、学資は自分で稼ぐと言う条件で許容した経緯がある。


長女とこのテーマで話して何時も感じるのは「就職」に対する認識のギャップである。同級生や大学教官と話す機会が多く彼らからの情報が大部分の長女と30年以上民間企業に身を置く私とでは前提となる情報のソースが大きく異なり止むを得ない事なのだろう。

長女の考えは興味有るテーマを大学院で掘下げ、その延長線上で採用してくれる職場(民間企業を希望)に応募すると言う物。確かに私(国立大学工学部卒)が大学を卒業した30年前はこんなものだったと記憶している。しかし今は大きく違うのでは?と言うのが率直な疑問であり、父親としての心配の種である。それでは当時と現在の差異は何であろう?

1. 需給ギャップ:基本大卒として同じ様な数が労働市場に放出されている筈である。一方、労働市場は円高他の影響もあり製造業は海外移転を余儀なくされており、本年度の企業の海外投資急増観ても来年以降此の流れ更に加速される事予測される。

現在でも大卒の二人に一人しか就職出来ず、仮に就職出来たとしても希望の会社や職種に職を得たものはごく僅かの筈である。結果、失望から退職しフリーターに成ると言うのが最近の傾向の様である。又、大卒で就職出来ず止む無く大学院に進学するとか、資格取得の為各種専門学校に進む大卒も多いと聞くが彼らは数字に表れない潜在失業者である。

こう考えると既に充分悲惨な状況なのだが、来年以降製造業を中心に海外移転、海外流出が加速するとなると正に土砂降り状態ではないか!問題の本質は国内雇用の喪失である。

2. 大学教育の質:30年前なら卒業する大学の偏差値と必修科目を履修したという事実(理系なら実験、実習あり結構大変)で無論大学にも拠るがそれなりの企業でも採用してくれたと思う。現在企業は即戦力の採用を希望しており、大学は本来此のニーヅに対して的確に対応すべきと思う。

しかしながら実態は旧態依然勤務する大学教員が教えたい事を教えているのではないだろうか?言い尽くされた言葉だが、此れは求められる「マーケトイン」では無く「プロダクトアウト」である。より露骨に言えば、大学は時代の変化について行けず結果、企業から買って貰えぬ不良品の製造工場に成り下がっているのではないか?

3. 企業マインドの変化:30年前は基本連続した右肩上がりの売上げ、利益を前提に経営計画を立てる事が可能で今振返れば実に恵まれた時代であった。しかし現在はITの普及、発達に拠り企業を取巻く環境の変化が大きくしかも早く成っている。此れは平たく言えば将来何が起こるか予測不能と言う事である。

当然企業はそれに備える為、正社員の労働生産性向上とキャッシュフローの改善に全精力を注ぐ事に成る。結果、解雇の難しさと言う日本固有の問題もあり企業は新卒の採用に腰が引ける。

4. それでは学生はどう対応すべきか:長女とも話すが、理屈は理解出来ても実感としてどうか疑問である。大多数の大学生もその程度ではないか?現実の厳しさとか実態、背後にある状況を良く理解せぬまま企業訪問とか実社会に放り出されているのが実状ではないか? それ故、実りの無い企業訪問の優先順位を下げ下記2点に注力する事を推薦する。

■ 台頭する中国、或いは中国に雁行するアジア新興産業国にチャンスを求る。

■ 国内で職を求める場合、理系なら専門分野での第一人者も目指し大学院で頑張る。文系なら法学部卒の場合なら社内法務を経て司法試験合格、経済学部卒なら社内経理・財務等を経て公認会計士なり税理士を目指す。(資格取得後も企業勤務継続は当然あり)大事な事は企業訪問の際に自らのキャリアパス計画をしっかり説明し企業のニーヅに合うかお互い確認しあう事と思う。本来企業訪問でお互いが確認すべきは企業のニーヅと学生のキャリアパスのマッチングであり、学生の気にする、企業規模、企業ブランド、厚生施設の充実等は取るに足りないものである事しっかり肝に銘ずる事である。

無論、海外での活躍を望むにせよ国内を希望するにせよ英語、中国語でのコミュニケーション能力とITの習得はマストである。

5. 政府はどう対応すべきか:下記を提案する。

■ 徹底した規制緩和に拠りベンチャー支援を行い、従来のオールドエコノミーとは別の
ベンチャー労働市場の拡大を目指す

■ 法の改正に拠り労働市場の流動化、活性化を急ぐ。判り易く言えば、法の支配の下、
企業が自由に正社員を解雇可能にする事である。正社員コストが固定費扱いで有る限
り企業は正社員雇用に臆病であり続けるので解雇を自由にする事で変動費扱いにし景
気拡大に応じ雇用拡大のチャンスを与える。此れにより更に景気拡大する筈。

■ TPP加盟を梃子に本来撤退すべきゾンビ企業淘汰を加速すると共に成長分野の垂直立
上げを支援し新たな雇用を創出する。

■ 企業に負担させている社会保障を国が巻き取るべきである。泥縄的に年金需給65才
開始を理由に企業に65才までの雇用を強要する、或いは失業保険財源問題から解雇の
自由を企業から奪う事が結果企業に取って正社員こそが企業最大リスクと言わせるま
でに成っている。此処迄来たら泥縄、ボタンの掛け違いを認め一旦ボタンを全て外し
企業に社会保障の負担を押し付けるのでは無い新たな制度を設計すべきである。

(ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役) http://www.yamaguchiiwao.jp/

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