XMDFとePubの棲み分けで世界展開を目指すシャープに欠けているもの ‐ 澁谷直樹

2011年01月05日 17:51

先日、シャープはGALAPAGOS(ガラパゴス)を米国、中国、インドなどで海外展開する事を表明した。メインのフォーマットとしてはePubが採用されることとなった。日本ではXMDFをメインのフォーマットにしているのでシャープが世界標準に屈したと思う人もいるかもしれない。また世の中には日本のガラパゴスがXMDFをメインのフォーマットにしていることで「世界標準ではない」と頭ごなしに批判する人がいる。これら人はXMDFどころかPDFやePubなど各フォーマットがなにを目指しているのかまったく理解していない。今回はこれらのフォーマットを比較してシャープの戦略について考察してみよう。


XMDFのフォーマットを語る前に、まずPDFとePubを比較しておくと話が理解しやすくなる。なぜなら、XMDFはPDFとePubの両方のいいところを兼ね備えているからだ。

PDFといえばソフトウェアや電気製品の説明書などでは事実上の世界標準た。アドビによって開発されたフォーマットであるが多くのアプリやブラウザーでサポートされている。漢字でも縦書きでも問題ない。そもそもPDFはAdobeの印刷用ページ記述言語のPostScriptから多くを継承している。つまり、フォントやレイアウトを綺麗に表示したり印刷するのが主な目的だ。レイアウトが固定されているので文字を拡大するとページ全体が大きくなってしまい、小さな機器には向かない。それでも「世界標準」なので多くのモバイル機器でサポートされている。

ePubのフォーマットはHTMLなどのブラウザーで使われている技術をオフラインでも読めるようにパッケージしたもの。画面の大きさに合わせて文字が流れるようにレイアウトが変わる。アップルやグーグルなどが参加するIDPF(International Digital Publishing Forum)がオープンな電子書籍フォーマットを目指して作成している。簡単にいえば、ePubはXHTMLやCSSなどのファイルをzip形式で圧縮して、ファイル拡張子を.epubにしたものである。目次のサポートなどをのぞけばWebページとほとんど同じフォーマットだ。次期バージョンのePub3.0はHTML5ベースになりWebのトレンドを追っている。もともと独自フォーマットBBeB(BroadBand eBook)を使っていたソニーも現在の米国版ReaderではePubを採用している。またアップルのiBooksとグーグルのeBookStoreでも採用された。それで「世界標準」というわけだ。

ところが、異なるブラウザーが同じWebページを表示しても同じにはならないように、ePubのサポートもアプリや機器によってばらつきが出てくる。たとえばアップルのiBooksはHTML5を先取りして動画のサポートもしているが、それは現在のePubのバージョンの範囲外の機能になる。つまり「世界標準」ではあっても、使われているHTMLタグ次第でアプリや機器によっては読めるものとそうでないものが出る。結局のところePubのフォーマットは最小限の共通部分であり、はみ出した拡張や先取りの機能をサポートするベンダーによってベンダー間での互換性がなりたたなくなるが可能性がある。こういったことはITの世界ではくり返し起こっているので不思議でもなんでもないし、そうでもしなければ競争で優位に立てないので仕方が無いとも言える。

さらに、英語では充分使えるePubでも日本語では弱さを露呈する。(次期バージョンでHTML5に移行すれば改善される可能性はあるが)現時点ではePubは縦書きやルビをサポートしていない。そんなものは必要ないというのは横書きのカタカナ英語ばかり読んでいるIT関係者だけだで、一般の読者には文庫本の小説、新聞の紙面、雑誌のレイアウトなどの方が親しみやすく受け入れやすい。レイアウト重視すればPDFかというとそうでもない。PDFでは小さな画面で読みにくいからだ。

以上をまとめると、どちらのフォーマットも一長一短があり、PDFとePubを両方サポートするデバイスやストアが多い。しかしそれぞれの欠点はそのまま残るわけで問題の本質的な解決にはなっていない。

シャープのXMDFはレイアウトを尊重しつつモバイルの画面での読みやすさを追究している。レイアウトを崩すことなく文字の大きさを変更でき、雑誌や新聞などレイアウトにこだわりたい電子書籍にも対応できる。ザウルス時代から開発され成熟しており、いまでは様々なモバイル機器でサポートされ、日本では確固とした地位を築き上げている。だから日本でXMDFを捨てePubを優先させる理由は全くないし、米国でePubを採用するのは理にかなっている。ちなみに日本市場で販売されているソニーのReaderはXMDFとePubの両方を採用している。ガラパゴスはTSUTAYAからのコンテンツもたくさんあり、日本ではまずまずのデビューだった。

もうひとつ独自フォーマットといえばアマゾンのAZWを忘れてはならない。アマゾンが開発したキンドルでは独自フォーマットを採用しPDFもサポートしている。アマゾンのフォーマットによるレイアウトはePub形式に似て画面の大きさによって文字が自由に流れるようになっており、多様な機器をサポートする事が出来るし、それがアマゾンの戦略になっている。キンドル本を読むためのアプリはWindowsやMacはもちろん、iPhone、iPad、Android携帯などに無料で提供されており、現状ではどんなデバイスでも読めるアマゾンのオンライン書店としての人気が他社を引き離している。アマゾンのキンドルは軽くて読みやすく読書に特化している。さらに、3G料金を負担してくれるので、いつでもどこでも気軽に本を探して購入することが出来る。最近ではwifiをサポートするバージョンも出てより便利になった。フォーマットは世界標準でなくとも売上は世界ナンバー1だ。

シャープも米国版ガラパゴスは3Gやwifiをサポートする。さらにePubをメインのフォーマットに切りかえた。英語圏ではePubで十分だし、フリーのコンテンツもたくさんある。オンライン書店も開く予定だ。似た路線でそこそこ成功を収めているソニーや他のオンライン書店を見習ったのだろう。さらにシャープは急成長する巨大市場を抱える中国やインドへと進出するガラパゴスで真の世界展開を目指している。

しかしシャープに欠けているのはアマゾンのようなどこでも本が買えてどんなデバイスでも読めるという戦略だ。それがあればガラパゴスの名はXMDFとePubに支えられてもっと広がるだろう。
(澁谷直樹 ブログ:科学と金融とプログラミングhttp://d.hatena.ne.jp/naokishibuya/)

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