急成長の秘密 - 『フェイスブック 若き天才の野望』

池田 信夫

フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
著者:デビッド・カークパトリック
日経BP社(2011-01-13)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆


映画「ソーシャル・ネットワーク」で、日本でも注目度の上がったフェイスブックだが、一般にはあまり知られていない。映画も、フェイスブックを知らなくても楽しめるようにつくられているので、あれを見てもフェイスブックとは何かはわからない。

映画はザッカーバーグをめぐる事件の物語だが、本書はフェイスブックについての本だ(だから邦題はミスリーディング)。それがなぜこんな短期間に世界最大のSNSに成長し、どんな問題を抱えているのかを、ザッカーバーグ自身へのインタビューを含めてくわしく取材している。

映画の原作はザッカーバーグにインタビューせず、彼に対して訴訟を起こした側の話にもとづいているので、かなりバイアスがある。本書も明らかにしているように、ザッカーバーグを訴えて6500万ドルを得た双子の兄弟の主張した「知的財産」は単なる思いつきであり、アメリカ以外の国では訴訟にもならないだろう。フェイスブックの命は、ザッカーバーグの創造した自己増殖するネットワーク構造なのだ。

その特徴は、マイスペースなどのSNSとは異なり、ハーバード大学の寮というクローズドなネットワークから出発したことだ。それは2006年まで大学とその同窓生のネットワークであり、大学のLANを結ぶことによってネットワークを広げた。もう一つの特徴は、写真と実名をさらす「強い個人」を売り込むネットワークであることだ。そのせいか、匿名を好む日本では、ミクシィなどの国産SNSに大きな差をつけられている。

APIを開放してフェイスブック上で第三者のつくったアプリケーションが動くオープン・アーキテクチャをとる一方、ユーザーのデータを他のSNSと共有しないクローズドな構造で批判を浴びてきた。他方で個人情報を無断で広告に利用するなど、プライバシー問題も紛争の種になってきた。アクセスや滞在時間でグーグルを抜いたが、今度はツイッターに追われている。激しく変化するウェブの現状を知る参考になるだろう。